現実味を増す“惑星間インターネット” ほか【中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」2023/6/22~6/28】

INTERNET Watch

1. 現実味を増す“惑星間インターネット”

 6月15日に行われた「Interop Tokyo 2023」基調講演の1つ「The Interplanetary Internet – 宇宙へ広がるインターネット市場 -」は興味深いテーマだ(INTERNET Watch)。

 この講演のスピーカーはインターネットソサエティ(ISOC)のIPNSIG(Interplanetary Networking Special Interest Group)のチェアパーソンである金子洋介氏、Interop Tokyo実行委員長で慶應義塾大学教授の村井純氏で、さらにはインターネットの起源でもあるARPANET、そしてTCP/IPの設計にも携わったヴィントン・サーフ氏がビデオメッセージを寄せた。

 金子氏は「もともとJAXAで宇宙通信の仕事に20年ほど携わっていたが、今の宇宙通信は、地球と衛星を線でつなぐ、ポイント・ツー・ポイントの組織だと感じており、これから人類が宇宙に出て行くことを考えると、それでは不十分だと感じていた」という。そしてヴィントン・サーフ氏は「惑星間の距離では(光速であっても)TCP/IPは役に立たず、代わりのプロトコルを作る必要がある」と指摘する。

 人類の宇宙の活用やそこでの活動の機会は広がりつつあり、すでに低軌道衛星を経由した通信は実用化され、さらに米国の「アルテミス計画」では2025年にも有人月面着陸を成し遂げ、着陸後は、月面で持続的な活動を行う計画もある。月面で活動するには何らかの通信手段が必要となる。人のコミュニケーションだけでなく、開発のための測位技術は必須となるというわけだ。

 すでにインターネットは地球上の多くをカバーしつつあり、次は宇宙での活用を考えるという段階にあるのだ。宇宙というとまだ夢物語のようでもあるが、2025年には必要となる技術なのだ。

ニュースソース

  • “惑星間インターネット”がこれまでの歴史から学ぶことは多い―村井教授、IPNSIG金子氏が語る宇宙通信技術の開発[INTERNET Watch

2. 粗製乱造されたAIによるコンテンツとデジタル広告への負の影響

 生成AIによって、コンテンツがこれまでも容易に生成できるようになることは想像していたが、すでにデジタル広告に負の影響が及んでいるようだ。

 「MIT Technology Review」の記事によれば、「広告収入目的の『MFA』と呼ばれる低品質なWebサイトで、生成AIの導入が進んでいることが分かった」というのだ(MIT Technology Review)。つまり、ページビューを稼ぎ出し、広告収入を得るために、品質を問わずコンテンツを自動生成し、プログラマティック広告(運用型広告)を掲載するわけだ。結果として、こうした粗悪なコンテンツに広告を掲載し、無駄な費用を払わされている広告主も存在することになる。いわば広告主は詐取されているようなものだ。そればかりか、情報の質が悪ければ、読者を混乱させ、だますようなものだ。

 こうした行為はますます増えるだろう。では対処はどうあるべきなのか。広告掲載の審査や技術的な仕組みで解決可能なのか。そういえば、コミックの海賊版サイトでも広告配信の仕組みを利用して売り上げを上げていた。本質的には同じような課題ともいえそうだ。

ニュースソース

  • 生成AIで広告収入目的のゴミサイトが急増、1日1200本更新も[MIT Technology Review

3. 東洋経済「会社四季報」の情報をチャット型AIで提供

 東洋経済新報社はAIを利用した新サービス「四季報AI」を発表した(ITmedia)。「会社四季報」の情報や、誌面に掲載していない情報をチャット形式で取得できるサービスだという。あの膨大な情報へのアクセス手段としてAIというユーザーインターフェースが利用できるというのは面白そうだ。β版を7月中に公開し、8月31日までは無料で提供する。9月1日以降は、会社四季報オンラインの有料会員向けサービスとして展開するという計画だ。

 このように多量のデータを保持する出版社がAIの活用を模索する動きは今後も続きそうだ。

ニュースソース

  • 「四季報AI」、東洋経済が7月にローンチへ 「会社四季報」の情報をチャット形式で提供[ITmedia

4. 生成AIを利用するための必読情報

 去る6月22日に文化庁が開催した生成AIについて著作権法の観点から解説するセミナー「AIと著作権」の講演映像と配布資料が無償で公開されている(ITmedia)。参加できなかった人は必見の資料だ。

 また、自由民主党の塩崎彰久衆議院議員が生成AIに関する資料「行政のためのプロンプト・エンジニアリング入門」(全24ページ)を公開している(ITmedia)。そもそもは「行政のため」ということだが、「いいプロンプトを作るコツとして『最新モデルを使う』『指示を最初に書く』『指示と文脈(情報)を区切り線などで明示的に分ける』などを提示」していて、一般にも役に立ちそうなヒントが含まれている。

ニュースソース

  • 文化庁、「AIと著作権」の講演映像をYouTubeで公開 全64ページの講演資料も無料配布中[ITmedia
  • 「行政のためのプロンプト・エンジニアリング入門」無償公開 note深津さんが作成[ITmedia

5. まだ試してはいないが「期待が高まる」AIを使った新サービス

 AIはさまざまなサービスやソフトウェアに組み込まれているが、最近、発表されている主にテキストを扱う仕事と関係がありそうな分野の新製品を紹介しておく。

 まず、AI文字起こしサービス「Rimo Voice」のアップデートで追加された「AIエディタ」(Impress Watch)だが、面白そうなのは「自動編集」だ。もはや取材した音声からテキストを起こすような記事はあっというまにできるのか?

 大日本印刷はAIによる校正・校閲・審査業務を行うサービス「DNP AI審査サービス(校正・回覧業務)」に、「日本語の誤用などのチェック」「表組みの校正・校閲チェック」「多言語対応」の3つの新機能を追加したと発表している(INTERNET Watch)。これも一筋縄ではいかないプロセスだったのだが、どこまで頑張ってくれるのだろう。

 Otter.aiでは、AIが会議に「参加」して議論をサポートするという(CNET Japan)。「議論されている内容についてユーザーからの質問に即座に回答したり、要約やアクションアイテムなど会議に関連した情報を生成したりできる。このほか、やるべきことのリスト、フォローアップメール、ブログ記事も作成できる」というわけで、会議のアフターフォローが自動化されそう。

 Snowflakeは「Document AI」を発表した。これは「文書からより深い洞察を引き出す新しい大規模言語モデル」で、「自然言語で質問をし、ドキュメントからさまざまな回答を抽出できる」という触れ込みだ(クラウドWatch)。大量の資料を前に、ぼうぜんとしなくてもよくなるのか。

 これまで自然言語を扱う分野は技術的な革新があまりなかったと感じてきたのだが、いよいよこれまで時間がかかっていた作業の自動化が進みそうな気配を感じる。

ニュースソース

  • AI文字起こし後にChatGPTが自動編集 Rimo Voice「AIエディタ」[Impress Watch
  • 大日本印刷、AIによる校正・校閲サービスに文法チェックや多言語対応などの新機能追加[INTERNET Watch
  • Otter.ai、会議に「参加」して議論をサポートするAIチャット機能を追加[CNET Japan
  • Snowflake、文書からより深い洞察を引き出す新しい大規模言語モデル「Document AI」を発表[クラウドWatch

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