展覧会「日本の巨大ロボット群像 ー巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現ー 」が、2023年9月から福岡市美術館、2024年2月から横須賀美術館で開催される。
初の巨大ロボットアニメ「鉄人28号」放映から60年、日本独自のジャンルである「巨大ロボットアニメ」のデザインと、その映像表現の歴史を紐解き、「巨大ロボットとは何か」を問いかける展示会。会期は、福岡市美術館が2023年9月9日~11月12日、横須賀美術館 2024年2月10日~4月7日を予定する。以降、京都(2024年夏)など追加巡回も調整中だという。
6月27日には詳細に関する記者発表が行なわれた。記者発表会には、「日本の巨大ロボット群像」監修者で福岡アジア美術館学芸課長の山口洋三氏、ゲストキュレーターの廣田恵介氏、五十嵐浩司氏が登壇して解説した。メカニックデザイナーの宮武一貴氏による本展のための新作イラスト概要も発表された。
「本物の巨大ロボット」は我々の頭の中にある
記者発表会では、まず山口洋三氏が展覧会の概要を解説。2023年は「鉄人28号」から放映60年の節目の年にあたる。「ロボットを振り返るにはうってつけのタイミング。日本独自のジャンルといってもいい巨大ロボットのデザインと表現を振り返り、巨大ロボットとは何なのかを美術館の展覧会として問いかけていきたい」と語った。
アニメの展示会では制作素材(中間制作物)が並ぶことが多く、一般にもそう思われている。一方、巨大ロボットの「本物」を見た人はいない。アニメの制作素材は全て平面の2次元だ。本物とアニメ表現の間には大きなギャップがある。これが展示の前提となったという。
廣田恵介氏は「巨大ロボットの本物を見た方はいらっしゃるだろうか」と会場に呼びかけた。今は1/1スケールの巨大ロボットの実物大オブジェがいくつかある。だが多くは立っているだけか、少し足を動かせる、いわば「モニュメント」でしかない。本物ではない。
では「巨大ロボットの本物」はどこにあるのか。見たことがあるのはテレビか映画だろう。すると、IMAXシアターで見たロボットと大画面テレビで見たロボットはどちらが大きいのか。どちらとも言えない。だがみんな「巨大ロボットは大きい」と思っている。テレビで見ていても「ロボットは大きい」と確信している。この正体はなんなのか。
廣田氏はOVA作品「メガゾーン23」の原画を示した。「メガゾーン23」に出てくるロボット「ガーランド」は4mくらいと設定されているが、原画上のロボットは大きくはない。だが見た人は「数mある」と考える。ということはつまり、紙が「本物」なのではない。ロボットの大きさを「数mある」と考えているのは我々の脳だ。映像を見て「あのロボットは大きい」というのは、脳の中での認識だ。つまり「本物の巨大ロボット」は頭の中にある。
「それをどうやって取り出すか。原画をいくら並べてもダメ。ロボットは巨大だと信じさせているアニメのシステム、映画のシステムを美術展で展示することの意味を真面目に考えた。素材は2Dの紙でしかない。それを美術展という立体的な場所で見せるためには紙を並べてもダメなんだと考えた」語った。
見どころ1:巨大ロボットのメカニズム
この前提に立って、4つの「見どころ」を考えたという。まず1つ目は「巨大ロボットの『メカニズム』に注目!」。70年代には乗り込み型の巨大ロボットアニメが大発展した。五十嵐浩司氏は「『マジンガーZ』のホバーパイルダーのアイデアは革命的で、発想も奇抜だった。ここから日本のロボットアニメは転換点を迎えたと言っても過言ではない。『ゲッターロボ』はメタモルフォーゼを見せた。合体変形ロボットが1つのジャンルとなった」と紹介。
展示でもメカニズムに特化した展示を考えているという。例として示されたのは「勇者ライディーン」の展示。廣田氏は「飛び出す絵本の中に入り込んだような感覚を味わってほしい。アニメの制作素材はとても小さい。それを平面に並べただけでは巨大ロボットの巨大さは表現できない。
そこで美術館の壁をぶち抜けるくらい大きなものを考えた。『ライディーン』では止まっている状態と戦闘的な状態、最も戦闘的な状態の3種類がある。同じ展示でこの3種類を入れて見せるには、斜めに板を並べて、どの目から見ても次につながるような立体的な構図を考えればいいのではないか。このロボットの魅力を美術館の空間の中で伝えるには色んなことを考えないといけない」と述べた。
展示の仕方は各ロボットで変えており、「1つ1つの番組を紹介するというかたちではない展示構成になっている」という。
見どころ2:パネルや模型で巨大ロボットの「大きさ」を体感
2つ目は「気分はパイロット? ロボットの『大きさ』を体感できる!」。ロボットの大きさを表現するために、床面に「ガンダム」のシルエットを表示することで体感してもらう。「コクピット部分からガンダムの頭まで歩くと何秒くらいかかるのか」といったことを自分の足で確かめることができる。
ガンダムの拳がどのくらいなのかといったことも気軽に確かめられる。廣田氏は「美術館に行くことの面白さは自分の体を使って作品を体感できること。尺度は自分の体。その特性を最大限に活かすには全長18mのガンダムを床に敷いて上を歩いてもらうしかない」と語った。
「太陽の牙ダグラム」のコックピット(頭部)や肩のシールド部も再現する。五十嵐氏は「大変メカニズムの魅力に溢れた頭部」と評した。ダグラムの頭部は実際のアニメの設定通りに作る。「設定寸法通りに作ったときに、目の前で見て、本当に人が入れるサイズなのかは我々も分からない。会場の人が『中には入れない』と思ったら、それはそれが事実。美術館は自分の体が尺度だから。ここに来て見ないと分からない」と廣田氏は述べた。
「メガゾーン23」の主役メカ・ガーランドは1/1スケールパネルで再現する。メカ設定をした荒牧氏の設定図から正面図を作って見せたところ「これはアニメのための図であって、等身大パネルのための図ではない」と言われたそうだが、廣田氏は「アニメの図を設定通りのサイズに伸ばしたときに矛盾が生じたとしても、我々はその矛盾を受け止めないといけない」と語った。「本当にあったらどうなんだということをもっと真面目に考えてもいいんじゃないか」という。
「ルパン三世」第2シリーズ最終回「さらば愛しきルパンよ」に登場した「ラムダ」も登場する。これは「スーパーマン」をオマージュとして作られたアニメで、宮崎駿氏が監督したことでも知られる。作中では1980年代の街中を3mくらいのロボットが飛び回った。デザインはのちに「天空の城ラピュタ」に継承された。その大きさを感じられる展示もあるとのことだ。
見どころ3:「内部メカ」にもえる!
3つ目は「『内部メカ』にもえる!」。巨大ロボットでは初期から、あたかも本当に存在するかのように「内部透視図」が描かれてきた。最近はプラモデルや玩具でも内部メカが再現されている。展示では、内部構造がないと成立しないようなデザインとなっている永野護氏の「ゴティックメード」や、「超時空要塞マクロス」に登場する「バルキリー」などの内部透視図が紹介される。廣田氏は「このインパクトを伝えるために大胆な展示をする」と述べた。
合体ロボットも紹介される。ロボットの合体は初期はよく分からなかったり、箱のような構造物がくっついて終わりぐらいだったが、アニメ技術が向上した90年代から合体シークエンスの中でも内部構造が描かれるようになった。そのような演出を入れることで、合体ロボットが本当にあるかのような思い込みが喚起されるようになったのだ。それらの見どころをつなげて映像で紹介する。
見どころ4:宮武一貴による巨大絵画の展示
4つ目は「メカニックデザイナー・宮武一貴による圧巻の巨大絵画を展示!」。メカニックデザイナーの宮武一貴氏が巨大ロボットをテーマとした、描きおろしの巨大絵画を本展のために制作した。美術館ならではの大画面で、宮武氏の描くロボットワールドを堪能できるという。
今回は縦が250cm、横が600cmの巨大絵画を制作。宮武氏は「デザイナーとしては巨大な絵を描くことは考えていなかった。描くことになって、自分はそれを実際にどう把握するのか、どう人に見せたらいいのか。なかなか精神的にこたえるものがあった。
だが、いざ鉛筆を持ってみると肩は自然に動いた。下絵を描いた段階で、3体それぞれのロボットには深い思い入れがあったので、いろいろなことを思い出した。このロボットにどう接してもらおうか、どうすれば魅力を伝えられるかと考えて描いた。まさに『描いた』」と語った。
宮武氏に絵を発注しようと発案したのは廣田氏で、「巨大ロボットの巨大さは幻想にすぎない。それを物理的に大きな絵にしたらどうなんだろうというのがあった。寺に行くと仁王像があったりする。日本橋には麒麟の像がある。守り神や魔物から防いでいる。そういう神がかったものを会場に置かないと、神が宿らないと思った。神を宿らせられる人は誰だろうと考えた。
宮武さんはイラストレーターではなくデザイナー。つまり人に伝えるための絵を描いている。それがスタート地点。宮武の絵を見たアニメーターが、動く絵を描く。このメカニックはこういう線、こういう構造という絵が生き生きとしていて今にも動きそうなのは、それが出発点だから。だから宮武さんにお願いした」と語った。
制作を終えたばかりという宮武氏は「姿に魂を与えられるかが自分自身の課題だった。でもある程度の自信、納得があったから引き受けた。『どうしよう』という部分はあったが、鉛筆をもったらそんな部分はどこかへ行ってしまった」と述べた。大きさに関する戸惑いはなかったという。
そして「自分の頭の中にあるライディーンにせよ、マジンガーにせよ、コンバトラーVにせよ、キャンバスに向かってる絵では小さいんです。もっともっと大きなものを宿すんだったら、それは宿せるし、宿せなかったら自分の意味がない。そう思いました」と語った。
完成作品は会場で公開される。また、多くのアニメに影響を与えた、小説「宇宙の戦士」表紙の「機動歩兵」の関連の展示も行なわれる。加藤直之氏の全面監修の下、「宇宙の戦士」の世界に入れるような「疑似装着システムのようなもの」を作るという。
なお、作品タイトル数は45タイトルを想定する。これには画像1枚しか使っていないものも含まれる。展示のスタイルは「さまざま」とのこと。
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