2019年5月に第6代ウクライナ大統領に就任したウォロディミル・ゼレンスキー氏は、大統領選挙の際に「国家をスマートフォンの中に入れる」という公約を掲げて選挙活動を行いました。その公約に基づいて作成されたアプリ「Diia」では、行政サービスがスマートフォンで受けられるほか、戦争状態にあるロシア軍の動きを報告できる機能などの追加機能が実装されていることが報告されています。
Ukrainians use the same app to file taxes and track Russian troops
https://www.axios.com/2023/05/26/ukraine-diia-app-fedorov-russian-troops
ゼレンスキー大統領は就任後、第一副首相兼デジタル改革担当大臣のミハイロ・フェドロフ氏に対して「世界で最も便利なガバナンスシステムを開発すること」と指示しました。これを受けて、フェドロフ氏らは「国家が市民や企業に提供するすべてのサービスを1カ所に集約するモバイルアプリとウェブポータル」を目指し開発を行いました。
フェドロフ氏らによる開発の結果、2020年2月に「Diia」はリリースされました。Diiaをダウンロードしている国民には1人1人にデジタルIDが発行され、スマートフォン上で運転免許証などの提示ができるだけでなく、役所の窓口に並ばなくても建築許可の申請ができるなど、行政サービスを受ける手間を省くことができます。
フェドロフ氏によると、2023年5月の時点で1900万人を超えるウクライナ人がDiiaを使用しており、ウクライナに存在するスマートフォンの約70%にダウンロードされているとのこと。Diiaには定期的に新機能が追加されており、すべての省庁には新機能の追加プロセスを推進するための「最高デジタルトランスフォーメーション責任者」が存在しています。
リリース以降Diiaに追加された機能には、ロシア軍の侵攻に伴う失業サービスの申請や攻撃によって損壊した家屋の被害申請などがあります。フェドロフ氏は「このアプリを使用して約100万件の戦時国債が購入されました」と報告しています。
また、Diiaに搭載された「e-Enemy」機能では、市民が侵攻してきたロシア軍の動きのレポートや動画をアプリ経由で報告することが可能です。フェドロフ氏によると、ウクライナ軍では市民から送られてきたレポートや動画、人工衛星からの画像やその他の情報源に基づいて適切な軍事行動を行っているとのこと。また、2022年12月に行われたFIFAワールドカップ決勝の際に停電が発生し、何百万人ものウクライナ人が中継を視聴できない状況に陥った時には、Diiaを用いて試合のストリーミング配信が急きょ行われました。Diiaでのストリーミング配信は100万人以上のウクライナ人が視聴したとされています。
政府からの監視や外部からのサイバー攻撃を含む、プライバシーの問題に関して、フェドロフ氏は「データはアプリ自体ではなく、別々のレジストリに保存されています」と報告。そのため、サイバー攻撃が行われた場合でも、ユーザーデータの侵害は起こりにくいとされています。また、Diiaには顔認証を含む生体認証機能が搭載されており、ユーザーからの許可なしにデータを引き起こすことはできないとのこと。
フェドロフ氏によると、ロシア軍の侵攻によって何百万人もの技術に精通した若者がウクライナを去ったとされています。フェドロフ氏は「我々はウクライナを去った彼らが戻ってきたいと思う環境を作ることを計画しています」と述べ、IT系の労働従事者に対して無料のトレーニング環境の提供や、テクノロジーセンターへの税制の優遇を行っていることをアピールしました。
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