2023年7月7日公開の映画『先生!口裂け女です!』。都市伝説といわれる口裂け女が、今作では革ジャンやブーツを着用し、バイクに乗るという変わった設定で登場する。演じたのは女優の屋敷紘子。「口裂け女の内面をどう演じるか現場では試行錯誤の連続だった」と明かす一方、作中では大胆なアクションシーンも披露。1日に何度も2階から飛び降りるなど、ハードな要求にも体当たりでぶつかっていった撮影の舞台裏を語った。
ーー口裂け女のオファーを受けた時は、どのような印象でしたか?
いわゆる都市伝説をモチーフにした風変わりな役は初めてでしたが、不安というよりは楽しみな気持ちが強かったです。
一般的に口裂け女って、不気味で不吉なイメージが強いじゃないですか。ただ今作に関しては、「ステレオタイプの口裂け女ではないな」という予感がビンビンしていたんです(笑)。それもナカモト(ユウ)監督は、これまで青春モノやアクション、ホラーだけどクスッと笑えるようなコミカルな作品を撮られていたので、そんなにシリアスな役柄ではないのかなと。口裂け女というモチーフを、監督がどのように味付けするんだろうという好奇心から即オファーを受けました。
ーー確かに口裂け女のビジュアルを見ると、衣装は革ジャンにブーツと全身黒ずくめ。外見からイメージが全然違いますよね。
しかもバイクに乗っていたり、100メートル6秒で走れたりする設定も、従来の口裂け女からは想像つかないですよね(笑)。最初にビジュアルを見た時、私の予感は当たったなと確信しました(笑)。
物語の展開としては、口裂け女が木戸(大聖)くんら演じる高校生と関わっていくんですけど、それも不思議な話じゃないですか。都市伝説で実在感のない口裂け女が、青春真っ盛りの高校生たちと交流するんですよ。
今作に関しては、口裂け女のイメージが想像つかなかったので、撮影もまっさらな状態で臨みました。口裂け女のビジュアルと、あとはバイク乗りでアクションが含まれるという設定のみを頼りに、なるべく監督の指示通りに演じられるよう構えていました。ただ実際、監督も口裂け女のイメージがあまり湧いていなかったそうで……(笑)。監督も、現場で私の演技を観て、口裂け女の役柄を固めていったと聞いています。いわば今作の口裂け女は、製作陣と私で一緒に作り上げた二次創作みたいなものです。
ーー模索しながらの撮影だと、演じる立場からしたら大変そうですね。
そうなんですよ。従来の口裂け女って、そもそも実在するのかわからない架空の存在ですし、だからこそ不気味な印象も自然と醸し出される。一方で、今作では高校生と交流するシーンもあるので、どうやって口裂け女のイメージ像を保っていくのか考えさせられました。
しかもセリフはぼそぼそと口数少なく、特殊メイクをしているので表情の機微も見えづらい。かといってしゃべりすぎたり表情を出しすぎるとポップで明るくなってしまう。撮影では、会話のテンションや声のトーン、仕草など、一挙手一投足について監督と話し合いの連続でした。
ーーかなりバランス感を求められる役柄だったと思いますが、演じるうえで意識されたことはありますか?
撮影現場では、「自分がしゃべりすぎて口裂け女のイメージが崩れていないか?」「自分だけ周りから浮いていないか?」などと、多々気を使う場面がありました。ただ逆に考えると、気を使うからこそ生まれるぎこちなさとか、縮こまっている佇まいが、口裂け女の役柄にマッチするのではと考えました。
口裂け女の立場になってみれば、急に一般の人間と関わる時、どう接していいか戸惑うと思うんですよ。私自身も40代半ばなので、共演した木戸くんらとは年齢が20歳近くも離れており、距離感をどうすればいいのか考えるじゃないですか。そうした探り探りな一面を、口裂け女の心境に重ねて演じるようにしました。
ーー一方で、予告編ではアパートから飛び降りるシーンもあります。アクションの面ではいかがでしたか?
予告編の飛び降りるシーンは、スタントマンを使わず、実際に私が演じました。役者本人が飛び降りることはあまりないんですけど、アクション監督の川本耕史さんとは旧知の仲ということもあり、リアリティーを出すために実演して欲しいとお願いされたんです。
その時はびっくりしましたね。川本さんとは何年かぶりの再会だったんですけど、作品の顔合わせでいきなり「屋敷さんってアパートの2階から飛び降りることできますか?」って(笑)。「えっ!? まあ……」みたく思わず言葉に詰まってしまいました(笑)。もちろん安全面は最大限考慮して、できなかったらスタントマンが代演してくれるという保険もあったので、「川本さんがお望みならとりあえずやってみよう」と引き受けました!
ーーかなりハードな要求ですね(笑)。
1日で、本番と練習で合わせて10回ほど、2階から飛び降りました(笑)。最初は学校の体育で使うような厚手のマットを3つ敷いて飛び降り、そこからマットを減らして、最終的に本番用の厚さまで抑えていくという流れでした。
しかも本番は飛び降りてから、バイクを盗んだ高校生たちを追いかけないといけないんですよ。2階から着地して体の衝撃に耐えたら、すぐカメラに向かって走る感じです。一連の流れとして、自分はどういう位置に飛び降りないといけないのか、カメラにうまく収まるにはどういう方向に走っていかないといけないのか、心身ともに考えながらのシーンでした。
やはり何回も飛ぶと体にもダメージが来ますし、製作陣も心配するじゃないですか。飛び降りる怖さというのはまったくなく、限られたチャンスの中で少しでも早くオッケーを出そうという一心でした。
ーー飛び降りるのに物怖じしないのはプロ意識を感じます。
過激なアクションでも拒まないスタンスは、30歳手前でソウルアクションスクールに通った経験が大きかったです。今から15年ぐらい前に、韓国映画のブームが訪れた際、なぜ韓国の俳優たちは迫真の演技をするのか不思議だったんです。それならいっそ現地で学ぼうと一念発起して留学しました。
そこで痛感したのは、韓国の俳優たちがとにかくストイックなところ。まず専門学校に通って前知識を固めてからプロの世界に入る人が多く、撮影も体を鍛えて臨むのは当たり前、体力づくりの一環として片道1時間近く歩いて登校する方もいました。役に対する下準備やプロ意識、責任感が圧倒的に違うんです。
授業では、主演級のキャストが泣きながら練習に臨んでいる光景もざらにありました。その方は遠くから見ても綺麗でオーラのある女優で、真っ白で素敵なジャージを着ているんですけど、それが涙と汗でぐしょぐしょになってる。それも気にせず一心不乱で演じているんですよ。監督からは「練習でそんなにへばってるのに、本番でクオリティの高い演技ができるわけないだろ!」とゲキが飛んでましたね。
そうした環境にいた経験もあり、ハードなアクションもとりあえず体当たりでやってみる心構えができました。無茶だと思っていても、もしかしたら素質があるかもしれないですし、やってみて見えてくる教訓もあると思うんです。死にたいぐらい怖いと思わない限りはチャレンジあるのみです!
ーー『先生!口裂け女です!』では、演技面でもアクション面でも、体当たりでぶつかった屋敷さんらしさが見えるわけですね。
そうですね(笑)。今作で登場する口裂け女は、見た目や設定などイメージと全然違いますし、映画のテイストもただ口裂け女が驚かすような単調なホラーではない。そういう意味では冒険的で規格外の作品ですし、私自身も試行錯誤しながら演じた部分が大きいので、観た人がさまざまな感想を持ってくれたら嬉しいですね。
(取材・文=佐藤隼秀/ライター)