食の砂漠化招く米国の百均に物議 – 後藤文俊

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■コンシューマーレポート誌は最新号となる11月号でダラーゼネラルやダラーツリーなどいわゆるダラーストアの闇を暴く特集記事を組んでいる。

米国の消費者に最も影響力のあるメディアが、飽和しつつあるダラーストアに警鐘を鳴らしたのだ。

ダラーチェーン最大手のダラーゼネラルは17,683店舗を展開し、ダラーツリーとファミリーダラーも1.5万店以上の展開となっている。

この3つのダラーストアは2010年の20,258店から2020年には32,862店と10年で62%も増えたのだ。

ダラーストアの店舗数は、スターバックスやマクドナルドの店舗数を凌ぐ状態にあるばかりか、旺盛な出店戦略で店舗数が今後も増える。

2022年初めまでにダラーツリーとファミリーダラーは600店の新規出店を目指してオープンしているのだ。1日に1.6店舗の割合で開店している。

調査会社のコアサイトリサーチによると、今年8月までの1年間で新規にオープンした店舗の実に40%がダラーストアだ。

ダラーゼネラルも店舗数を増やしている結果、5マイル(8キロメートル)圏内に病院があるアメリカ国民は6割しかいないのに比べて、ダラーゼネラルは75%もある。

これだけあればダラーストアに行く頻度も多くなる。コンシューマーレポート誌が2,280人の成人を対象に2021年6月に行った調査によると消費者の88%が過去1回以上、ダラーストアに行ったと答えている。

アメリカの百均で買い物する理由のトップは値段の安さで72%だった。次いで利便性と答えた人が53%に上っている。

コンシューマーレポート誌が実際に全米8ヶ所で行った調査でも値段の安さは証明されている。コネチカット州で行った6品目のコンパリゾン調査ではスーパーマーケットの12.11ドルに対してダラーストアは9.47ドルと圧倒的な安さを見せつけている。

ただこの調査には課題もある。

食品スーパーとダラーゼネラルやダラーツリー、ファミリーダラーで比較する商品が必ずしも全く一致しているわけではない点だ。

ダラーストアは商品が絞られているため、例えば朝食のシリアルもスーパーほど種類が多くなく、プライスコンパリゾンは難しくなる。

また単価ではダラーストアが低価格になるのだが、100グラム当たり等、ユニット単位価格の比較ではスーパーのほうがまとめて販売しているため安くなる。

 価格の安さで多店舗出店戦略をとるダラーストアの問題点は、食の砂漠化を招くことだ。ダラーストアが出店すると近隣のスーパーマーケットが撤退することになる。

ダラーストアでは生鮮品がほとんどなく、野菜や果物を販売していない。

最も購入されるのが日用品など消耗品やクリーニングサプライの65%、ついで室内装飾品などの54%となっている。

食品を買い求める人も47%いるのだが、ほとんどがキャンディや飲み物、加工食品などで身体にいいものではない。

ルイジアナ州ニューオーリンズ地区はダラーストアが飽和状態になるほど点在しているが、新鮮な野菜や果物を販売しているのは1店舗しかないという。

食品スーパーが撤退するとダラーストアがオープンし、さらに近隣の食品スーパーから客を奪いながらそのスーパーを消滅させるのだ。

住民の栄養バランスが悪くなり健康を害し、市の財政を圧迫する。特にルーラル地区となる田舎ではこの傾向が顕著だ。

ダラーストアの遍在により年収3万ドル(約330万円)以下の田舎の住民は、19%が買い物先がダラーストアしかないと答えている。

買い物オプションがダラーストアしかない割合は他の地域で7%だが、地方にいくと3倍近くにも上っているのだ。

あまりにもダラーストアが多いため、ニューオーリンズでは市の条例で既存のダラーストアから1マイル(1.6キロメートル)以内でのダラーストア出店を認めていない。

イースト・ニューオーリンズでなど一部地域では既存のダラーストアから新規出店は2マイル(3.2キロメートル)以上とさらに厳しい条例だ。

ダラーストアの多さから他の地方自治体も同様な措置をとっている。

ジョージア州アトランタ、アラバマ州バーミンガム、オハイオ州クリーブランド、テキサス州フォートワース、オクラホマ州オクラホマシティ、テキサス州メスキートとダラーストアに対して出店規制の条例を整える地域は今後も増える傾向だ。

ダラーストアの代りに市でスーパーを経営しているところもある。

人口1,600人の街であるフロリダ州ボールドウィン地区では2017年までファミリーダラーとIGAスーパーマーケットが徒歩3分の距離で戦っていた。

ダラーストアとの戦いに破れたIGAが撤退したことで、ボールドウィン住民は生鮮品を購入するため10マイル(約16キロメートル)もしくは20マイル(32キロメートル)を移動しなければならなくなったのだ。

1万平方フィートとなる280坪のIGA跡地に新たにスーパーを誘致するのが難しく結局、ボールドウィン市がボールドウィン・マーケットを出店したのだ。

ダラーストアが飽和する他の地域では食品協同組合まで設立している。

 ダラーゼネラルでは青果を現在の1,300店から1万店に拡大するとしているがいつになるのかは不明だ。ファミリーダラーも一部に生鮮品や冷凍肉を取り揃えているが、圧倒的に少ない。

補助(フィルイン)としての買い物を提供するダラーストアは多店舗展開により、役割を変えていかなければ「いつかのウォルマート」のように敵視されてしまう。

チェーンストアが本当の豊かさを提供するという時代は、アメリカではとうに終わっているのだ。

トップ画像:アメリカ国内に2万店近くも出店しているダラーゼネラル。ダラーストアがフードデザートを加速させている実態を、米国消費者に圧倒的な影響力をもつコンシューマーレポート誌が提起したのだ。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。CNNなど一部のメディアがこれまでダラーゼネラル、ダラーツリー、ファミリーダラーの問題点を取り上げていました。

アメリカの消費者に最も影響力のある消費者情報誌「コンシューマー・レポート」が、チェーンストアの多店舗展開で飽和しつつあるダラーストアに対して、釘を刺す特集記事を掲載した意味は少なくありません。

米国の有力な消費者団体がダラーゼネラル等の出店で苦慮する地方自治体を取り上げて7ページにもわたり警鐘を鳴らしているのです。影響力という点でCNNのメディアとは質が全く違います。間違いなくダラーストアの経営幹部らの顔色は悪くなります。

持続可能な開発目標となるSDGsへの企業の動きが加速しつつある中で、ダラーゼネラルやダラーツリーがフードデザートを招く原因だと元祖インフルエンサーが指摘しているのです。当ブログでいつも強調しているように米国でのチェーンストア理論はもうオワコン化しています。本当の豊かさを提供していないばかりか、貧困をさらに加速させていると。

 コンシューマーレポートに目をつけられたダラーストアが今後、出店戦略でどのような変化をとるのか...楽しみですね。

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