大学入試に挑む子どもを持つ40~50代の親世代のなかには、自身が受験生だった頃と比べて、大学入試の問題や傾向が驚くほど様変わりしている事実を知らない人も少なくない。自身の経験に基づいて子どもに的外れなアドバイスをしてしまわないためにも、今の入試の実態を把握しておくことは大切だ。
2021年から従来のセンター試験に代わり、大学入学共通テストがスタートした。共通テストでは、学力の3要素として「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」を重視した問題が出題。単語や解法を覚えるだけではなく、柔軟な発想と思考を駆使して解答することを受験生に求めるようになってきた。いわゆる暗記でひたすら問題を解く「がり勉スタイル」の勉強だと不十分なのだ。
そして昨年、高校における学習指導要領が改訂された影響によって、24年度から共通テストの内容も難化するという見方が強く、受験生にさらなる負担がのしかかりそうだ。また共通テストのみならず、総合型・学校推薦型選抜の変化も顕著。この選抜制度はそれぞれAO入試、推薦入試と呼ばれたもので、21年度から現行の制度へと変更となった。2000年度における一般入試で大学へ入学する割合はおおよそ65.8%だったのだが、20年度に入るとその数は50.9%にまで減少。
現在は実に半分もの生徒が一般入試以外の制度で大学に入学しているのである。一般入試で減った入学者数を確保するべく、総合型・学校推薦型選抜に力を入れている大学も珍しくはないという。今後もさらなる変化が予想される大学受験事情について、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に解説してもらった。
数1Aの問題文はセンター試験より枚数がなんと4倍に増加
「共通テスト、総合型・学校推薦型選抜の実施によって、大学受験は様変わりしました。まず共通テストに関しては、科目を問わず問題文の長文化、問われる内容の多面化が顕著になっています。22年度の共通テストでは、平均点が前年度よりも大幅にダウンし、試験後に多くの受験生が悔しさのあまり涙を流していました。従来のセンター試験は、単語や解法を暗記していれば解ける問題が大半を占めていたのですが、共通テストは出題範囲の暗記はもちろんのこと、その内容が日常でどう使われるのかを問う傾向になっているのです」(石渡氏)
長文化、多面化の傾向を表わす象徴的だった問題が、21年度の数1Aの問題だと石渡氏は語る。
「この年の数1Aの第2問では、陸上競技におけるピッチ走法とストライド走法が取りあげられました。冒頭で各走法の説明がされ、続く設問で2次関数の単元を問う問題が出題されました。なかなかトリッキーな問題かと思われますが、これこそ出題範囲を日常生活にどう応用できるのかを重視した問題になっているのです。
そして、さらに注目したいのがその分量。実はこの年の数1Aの問題文はセンター試験時代から4倍にも膨れ上がっており、シンプルに問題文を読み切るのに時間がかかってしまいます。しかも問題文全体を丁寧に読み込まないと、設問に答えられないように作られているので、暗記だけでは対応できなくなっているわけです。
センター試験では、模試などで点数が伸び悩んでいると基礎理解が不足していると推測できたのですが、共通テストからは基礎理解が足りないのか、膨大な文章を読むことに時間を割いてしまっているのか、特定しづらくなってしまいました。そのため、これからの共通テストでは基礎理解を踏まえたうえで、読解力を上げていかなくてはいけません」(同)
批判・創造的な思考力、文章力が試される国公立2次試験
数学以外の科目でもセンター試験とは大きな変化が見られたそうだ。
「英語では単語数が6000語にまで増加。まだ共通一次テストの時代だった1988年度の2500語から2.4倍にまで増えましたので、よりいっそう高速で読み取る力が求められるようになりました。リーディング問題は料理本、登山雑誌の引用、テレビ発明者の伝記などとバラバラ。複数資料を比較しながら解く問題も増え、とにかく時間がありません。また設問も内容一致を問うものから事実(fact)か意見(opinion)かを問う問題へと変化し、より難解に。
国語は大量の資料や課題文が課せられ、読解力がないとかなりしんどい難易度になっており、社会、理科では図表・グラフを用いた問題が増え、思考力や推論を問われるようになりました。しかも理科では教科書に記載のないパルスオキシメーターを題材にした問題も出題され、話題となりました」(同)
共通テスト難化の余波を受け、私立の一般入試でも読解力重視の傾向が見られるという。
「英語に関してはこの10年で単語数が500語以上も増加した大学もあります。また数学に関していえば、2000年代に比べて『筋道を立てて説明』する証明問題が増え、答えが正解だったとしても論理飛躍があれば大幅減点を課せられることも。そんな流れのなか、早稲田大学政治経済学部が数学を必須とするなど文系学部でも数学の必須化が進んでいます。
また青山学院大学では、科目横断の総合問題が導入されました。たとえば、日本史ならば『租税』の歴史とまとめて、時代をまたいで租税に関する知識が問われるようになるなど分野を横断し、ひとつのテーマに関する理解度を問われる問題形式となっているのです」(同)
また、国公立大学の2次試験でも読解力重視の傾向が見られ、より知識+思考力を問われる高度な記述式の導入が進められているという。
「今後の国公立大学2次試験は、中学受験の情報発信を行う『首都圏模試センター』の思考コードの区分を当てはめると、うまく傾向を捉えることができるかもしれません。
この思考コードの区分では、知識と暗記さえしていれば解ける『A/知識・理解』、知識に加えて文章力が必要となる『B/応用・倫理』、そして知識、文章力、さらには創造的思考を要する『C/批判・創造』という大まかに3つへと分けられます。
では実際の2次試験の傾向に照らし合わせてみましょう。2010年代まではAとBの問題がほとんどを占めていたのですが、20年代に入るとCの問題が頻繁に出題されるようになりました。Cの場合、知識・文章力だけが問われるのではなく、自分の頭で思考し、まとめた考えを解答することが求められます。したがって、解答の主語は受験生本人となるので、AとBのような問題とはまったく異なり、正解のない解答を作らなければいけません。また自分の考えのみを書くのではなく、しっかりと単元を理解したうえで解答を作る必要があるので、より高い読解力・文章力が要求されるのです」(同)
総合型・学校推薦型選抜では学部の入門書を読むべき
一方で総合型・学校推薦型選抜も今や簡単には受からない難易度に仕上がっているそうだ。
「20年代以降のトレンドは、熱意・入学意欲に加え、学部に関する基礎知識があるかどうか問われる傾向にあります。22年にベネッセコーポレーション・教育情報センターが全国の大学を対象にした学校推薦型選抜・総合型選抜に関するアンケート調査では、総合型選抜の実施目的について『大学での学びについて意欲の高い生徒(に入学してほしい/以下同)』の割合が91%、『大学での学びについて適性の高い生徒』が72%、『学力以外の視点で資質・能力の高い生徒』が62%となっており、近年の大学入試改革の影響が強く出ているといえるでしょう。
そのため、大学側が受験性に求めるレベルは高くなっています。従来のAO入試や推薦入試では『受賞歴や資格の取得状況』、部活動などで培った『リーダーシップ』などをアピールして合格する生徒も少なくありませんでした。ですが、ベネッセの受験生に求める力に関する調査によれば、『受賞歴や資格の取得状況』が同調査で最下位となる13位、『リーダーシップ』が10位となっており、大学側がそこまで求めていないことがわかります。
現在の総合型・学校推薦型選抜では、高校までの体験に加え、大学で深めたい学びや卒業後の社会との関わり合い方が問われるようになりました。たとえば、志望大学・学部に関する基礎知識がどれだけあるのか、学びたい学部の入門書は何を読んでいるのか、という踏み込んだ質問までされるぐらい、熱意だけではなく学部で学びたいという根拠が必要になってきているのです」(同)
昔ならば「推薦・AOは邪道でセンター試験・一般入試が王道」という見方も強かったと思われるが、時代は変わりつつあるのかもしれない。
「これからの大学入試は、暗記のみならず、得た知識が日常でどのように使われるのか、そうした発想を持ちながら勉強しなければいけない時代に突入しています。いわゆる批判的・創造的思考をいかに説明できるかがカギとなっているんです。センター試験時代のセオリーが通じなくなっていますし、また覚えるべき内容も増えますから、日々の勉強でいかに早く文章を読めるか、それを論理的、創造的に解釈できるかが問われるようになってきています。
総合型・学校推薦型選抜も高校時代の自分のアピールよりも、自分がなぜその学部を目指すのか、またそのためにどんな準備、勉強をしているのか、出願書や面接で説明することが大事。やはり志望学部に関連する入門書ぐらいは読んでおいて、臨むほうがいいでしょう」(同)
親世代の頃の大学入試とはガラリと変わっており、現代の子の受験はもはや別ものと考えておくぐらいがちょうどいいのかもしれない。
(取材・文=文月/A4studio、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)