【山田祥平のRe:config.sys】表示デバイスがPCのフォームファクタを左右する時代

PC Watch

 PFUが世界最軽量の15.6型有機ELポータブルタッチモニター「RICOH Light Monitor 150」を発売した。560gのタッチ対応モニター製品で世界最軽量を謳う。世界最軽量とあってはモバイルモニターマニアとして見逃せない。そこで、世界最軽量の無線非対応モデルを試してみた。

PFU初のリコー製品がお披露目

 前回に引き続き、モバイルモニターの話で恐縮だが、表示デバイスについては、今後のパーソナルコンピューティングと、PCそのものの立ち位置やフォームファクタに深く関連するテーマなのでお許しいただきたい。

 PFUはパーソナルドキュメントスキャナ「ScanSnap」や「HHKB(Happy Hacking Keyboard)」でお馴染みのメーカーだが、2022年にリコーグループとなっている。「RICOH Light Monitor」については、リコー製品をPFUから販売開始する初の機器となるそうだ。同機は法人モデルとして既に2022年11月末にリコージャパンからリリースされている製品ではあるが、外観などの仕様を変えてコンシューマーモデルとして発売となった。

 個人的に愛用しているモバイルモニターは16型の16:10比率(2,560×1,600ドット)のもので、カタログスペックでの重量は670gだ。これでも軽い方なのだが、今回の「RICOH Light Monitor」は、それよりひとまわり小さいとはいえ、560gと愛機より110gも軽い。愛用ついでにいうとムサシの異名をとるFCCLの旧型UHシリーズは634gだったので、それより軽いモニターというのはうれしい。

 兄弟機種もあって、そちらはバッテリ搭載でMiracastによる無線接続にも対応して715gと、こちらは15.6型タッチパネル付きバッテリ搭載ポータブルモニターにおいて世界最軽量だ。13.3型程度のモニターなら、もっと軽い製品はあるようだが、15.6型でこの重量はがんばっている。後述するいくつかの機構のことを考えればウルトラCを称していい。

 個人的には、モニター製品にバッテリ内蔵というのは、その製品寿命を左右するのに釣り合いがとれないように思い、今回は、バッテリなしの有線モデルを試した。

 パネルは有機ELで発色は申し分ない。解像度はフルHD(16:9)で、昨今の16:10や3:2トレンドを追うことなくオーソドックスだ。300cd/平方mの明るさは十分に明るい。色域もDCI-P3 100%と不満はない。表示色温度についてはメニュー操作で変更できる。

 背面にUSB Type-Cポートが2つ装備され、メニュー操作でその入力を切り替えることができる。ポートはこの2つだけで、HDMIやDisplayPortによる入力はできない。入力はもちろんDisplayPort Alt Modeだ。また、スピーカーも内蔵され、サウンドの再生に対応する。

 電源についてはUSB PD対応だが、仕様が限定的で、柔軟な運用ができず実用にならない。というのも、最大45Wまでの入力に対応しているのだが、片方のUSBパススルーから45Wを入力しても、もう片方へは最大25Wしかパススルーしない。

 ノートPCは外部モニターを接続する場合、モニターから電源を供給されることを期待するだろう。据置モニターでは問題ないし、モバイルモニターであってもパススルーでもっと大きな電力を供給してもらえる。だが、25Wしか供給されないのでは、使っているノートPCのバッテリは減っていく。機種にもよるが、最悪の場合は電源の取得を拒否し、充電がまるでできないこともある。

 逆に、PC側からみれば、USB PD対応のノートPCは、もらうものはもらうが、自分では出力をしぼるという都合のいい仕様のことが多いものの、それでも各ポートから10W程度の電力は供給できる。このモニターは15W以上の入力を推奨しているが、ノートPCからの電力供給だけで特に問題なく稼働するようだ。ただ、安定した電力供給のためには、ノートPCに別途電源を供給するのが無難だ。もっといえば、モニター本体にもだ。

 本当は、PC本体かモニターのどちらかに電源供給を1本、PCーモニター間に1本と、2本のケーブルで完結するのがいちばんいい。煩雑さをできるだけ排除したいモバイル環境では、シンプルが一番だ。このあたりは、次機種での改良が求められる最も重要なポイントだろう。PFUに取材したところ、チップが非対応のためファームウェアアップデートも難しいとのことだった。実に残念だ。

構造の見事な気配りが使いやすさをもたらしている

 モニターはタッチ操作にも対応する。10点マルチタッチで、モニター表面は強化ガラスで覆われ、防指紋コーティングがなされたいわゆるツルツル液晶だ。このあたりは好みが分かれるところかもしれない。また、ペンにも対応し、オプションとしてWacom AES2.0センサー(アクティブ静電結合方式)に対応した専用スタイラスペン「RICOH Monitor Stylus Pen Type1」(RICOH Light Monitor専用)が用意されている。

 一般的なモニター同様にPC本体表示の複製もできるし、拡張もできる。タッチについては、Windows PCにこのモニターに加えて3台目のモニターを接続すると、拡張画面であるにも関わらず、タッチ操作は1つ目の画面に反映されるという現象が起こる。このモニターだけを接続する場合は、複製でも拡張でも問題なく、このモニター表面のタッチ操作が、このモニターに表示中のコンテンツに反映される。この現象は他機種の接続でも経験しているので、Windowsの不具合といえるかもしれない。

 素晴らしいのは、この重量にもかかわらず、キックスタンドが装備され、スタンドなどを別途用意したりしなくても自立するところだ。横置き時は無段階で16~75度まで、縦置き時にも70度の角度で自立設置ができる。横置きの角度調整域が広く、ペンで書き込むといった操作には都合がいいと考えるユーザーも多そうだ。キックスタンドは本体よりひとまわり小さい内周に装備されているので、縦置きするときに70度といういい塩梅の角度が付くというのも構造設計者の仕事を感じる。

 そしてさらに素晴らしいのは、ポートが背面のほぼ中央に装備されているので、縦置き時も、横置き時もケーブルが外側に向かって生えない。しかも背面に目立った出っ張りがなく、凹みにポートが装備されている。

 その代償として、ケーブルの抜き差しがしにくいのだが、それなら装着しっぱなしにしろと言わんばかりにケーブルのオーガナイズができるように工夫されている。多少の出っ張りがあるのだが、そこをバイパスする孔が設けられ、べたっと直置きしても、ケーブルが下敷きになることなく、ほとんどがたつかずにペンやタッチ操作ができるというのも素晴らしい。カメラがでっぱってテーブルに直置きすると斜めになるスマホは見習ってほしいくらいだ。

 このあたりの気遣いには脱帽する。ただ、フルHDのモニターを縦置きにしても、ちょっと横幅は狭く感じてしまう。キックスタンド実装でこういう工夫ができるのだから、3:2や16:10比率のモニターであれば、もっと使いやすい製品になったと思う。このあたりも今後の課題だろう。

周辺デバイスがPCのフォームファクタを変える可能性

 かつてのノートPCというと、いわゆる一家に一台というA4ノートに代表されるように、15.6型がほぼ定番だった。使い始めてから一度もオフィスや家の外に持ち出されたことがない立ち位置にいたPCだ。

 その後、モビリティが重要視されるようになり、13.3型フルHDのディスプレイを持つ軽量モバイルノートが一般的になった。そして、コロナ禍以降、その反動のようなものがあって、今は、14型など少し大きめの画面への揺り戻しが起こっている。逆に、パナソニックのレッツノートのように12.4型を究めようとしている製品もある。

 個人的には、モバイルノートの画面は、今回紹介したモバイルモニターや、前回紹介したポータブルモニターと併用できるのであれば、今より、多少小さくてもいいんじゃないかとも思う。どうせ、14型程度の画面サイズがあっても、もう1つ画面があれば効率が圧倒的に高まるという魅力を知ってしまうと、2枚の画面両方が大きい必要がないということも分かってくる。

 コロナ後は、在宅勤務で使うノートPCの出力デバイスが認知され、据置モニターの需要が高まったが、それに加えて、充実したモバイルモニターのバリエーションによって、移動時の運用も支えられるようになった。ノートPCのモビリティにとって、PC本体が装備するディスプレイサイズは絶対条件ではなくなってきている。ならば、大型化とは逆に、少し小さくてもいいんじゃないかという考え方もできる。パナソニックなどは、そこを狙っているようにも見える。

 となれば、今後は、ディスプレイを持たないNUC的なPCとモバイルモニターの組み合わせも、使い方として現実味を帯びてくる。周辺デバイスの充実が、PCのフォームファクタに影響を与えるという、ありそうでなかったことが起こりつつあるのが今ではないだろうか。

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