宇宙空間でのハッキング技術を検証する人工衛星「Moonlighter」が、2023年6月2日に打ち上げられました。Moonlighterは今後、宇宙における衛星のハッキング手法の研究や、ハッキングを防ぐ技術の向上のために、ハッカー用テストベッドとして運用される予定です。
Moonlighter, the World’s First Hacking Test Bed in Space
https://www.issnationallab.org/spx28-moonlighter-cubesat-afrl/
Moonlighter space-hacking satellite readies for launch • The Register
https://www.theregister.com/2023/06/03/moonlighter_satellite_hacking/
6月2日、ケネディ宇宙センターで行われたSpaceXの第28回商業補給サービス(CRS)ミッションで、CubeSatと呼ばれる小型衛星6つが打ち上げられました。その中には、航空宇宙団体・Aerospaceによって打ち上げられた人工衛星「Moonlighter」があります。Aerospaceは、「Moonlighterは、宇宙システムにおけるサイバーセキュリティの理解を深めるために設計され、打ち上げられた世界初で唯一の『宇宙ハッキングサンドボックス』です」と説明しています。
ハッキングサンドボックスとは、ハッキングを防止する方法を特定するためのテストをハッカーに行わせるサイバーセキュリティ技術のこと。Moonlighterは、ISS国立研究所がスポンサーを務めるこのプロジェクトを通じて、軌道上のサイバーセキュリティ訓練と演習をサポートします。
宇宙システム軍団(Space Systems Command)によって開発されたMoonlighterは、重量約5kgの中型CubeSatで、収納時のサイズは34cm×11cm×11cm、ソーラーパネルを広げて完全に展開した時の大きさは50cm×34cm×11cmになります。
Aerospaceのプロジェクトリーダーであるアーロン・マイリック氏は、「実際の人工衛星でハッキングのテストを行うことは、その人工衛星のミッションを危険にさらすことになるため困難です。そこで私たちは、軌道上でサイバーセキュリティテストを行うための人工衛星が存在しないという、宇宙でのサイバー活動のギャップを埋めるためにゼロから新しいものを作りたいと考えました。こうして作られたMoonlighterはサンドボックス、いわばプロのハッカー向けの遊び場で、彼らがサイバー演習を行い、新しい技術をテストするためのスペースとツールを提供します。私たちは、これが将来の宇宙ミッションのための、よりサイバー攻撃に強いアーキテクチャにつながることを期待しています」と話しました。
MoonlighterはAerospace、アメリカ空軍、アメリカ宇宙軍が支援する人工衛星ハッキングイベント・Hack-A-Sat 4に参加する予定。イベントで勝ち抜いた上位5チームは、2023年8月に開催されるハッカーコンベンション・DEF CONへと駒を進め、そこで軌道上を周回する人工衛星のハッキングにチャレンジする決勝戦に挑みます。
セキュリティ企業・Istariのソフトウェアエンジニアで、これまで3回Hack-A-Satに参加したことがあるジェームズ・パヴール氏は「地上でのハッキングとの最も明白な違いは、宇宙に行って人工衛星を再起動させることができない点です」と話します。
通常のネットワーク機器で何らかの不具合が発生した場合、問題を解決する手段として再起動が行われることがよくありますが、はるか上空を周回する人工衛星には物理的にアクセスする手段がありません。そこで、人工衛星にはシステムを復旧させるための冗長性として複数の通信手段が用意されますが、これは悪意ある攻撃者が人工衛星にアクセスするための侵入経路にもなります。
また、人工衛星は太陽放射、極端な温度、軌道上のデブリなど環境からの脅威にもさらされており、限られたリソースの中でそれらに対処する必要があるため、サイバーセキュリティ対策を後回しにせざるを得ないこともよくあります。
一方、航空宇宙産業の商業化が進み宇宙進出へのハードルが低くなる中で、悪意あるハッカーにとっても宇宙は手の届きやすいものとなりつつあります。特に、ロシアがウクライナ侵攻の前哨戦として西側諸国の衛星ネットワークにしかけたサイバー攻撃は、以前はSF小説の中での出来事だった宇宙でのサイバー戦争が現実的な脅威になったことを強く印象づけました。
「ロシアがウクライナの衛星通信ネットワークにサイバー攻撃を仕掛けた」とアメリカ・イギリス・EUが公式に非難 – GIGAZINE
パヴール氏は「Moonlighterのようなプロジェクトが、宇宙は本当にクールで楽しい場所であると同時に、ハッカーもそこに興味を持っているという事実について業界が考え直すきっかけになることを願っています。世界には、宇宙をより安全な場所にしたいと願っている信じられないほど優秀なセキュリティ担当者がたくさんいますから」と話しました。
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