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Shopify(ショッピファイ)は、ソフトウェア企業である同社の中核サービスの妨げになったと最高経営陣が指摘したことを受け、ロジスティクス事業を売却する。
同社は5月4日木曜日、過去数年間に買収した2つのロジスティクス新興企業であるデリバー(Deliverr)とシックスリバーシステムズ(6 River Systems)を、それぞれ貨物輸送サービスプロバイダのフレックスポート(Flexport)と、英国の食料品配達企業オカドグループ(Ocado Group)に売却すると明かした。これは、同社が4年間にわたって進めてきた、Shopify独自のフルフィルメントネットワークを構築する試みが実質的に終了したことを意味する。
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ShopifyのCEOを務めるトバイアス・ラック氏は、スタッフへの手紙の中で、物流インフラの構築は、テック事業家である同氏にとって「サイドクエスト」だったと書き記した。この1年間で、カナダの大手テック企業である同社は、加盟店が自社のeコマースストアを構築するためのプラットフォームになるべく、障害となるすべてのものを「取り除いてきた」と同氏は述べている。またラック氏は、事業を適切な規模に縮小するため、従業員の20%をレイオフするとも発表した。
4PLモデルの追求
米モダンリテールの取材に応じたロジスティクスの専門家は、Shopifyがロジスティクス事業で苦戦した理由の多くは、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)を利用するブランドのために倉庫の容積を確保するブローカー役として、アセットライト4PLモデルを追求したことだという。これは、同社が多くの異なる関係者のあいだを取り持つ必要があり、実行がはるかに困難で、結果として利益率にも影響することが明らかになった。
物流コンサルティング企業セカンドマラソン(Second Marathon)の創設者であるマシュー・ヘルツ氏は、Shopifyのフルフィルメントネットワークを利用するクライアントの「かなりの割合」が、Shopifyのテクノロジーが十分なものではないと不満を持ち始めているといい、4PLの方法は運用を簡素化するどころか、混乱を引き起こしたと付け加えた。
Shopifyはこの数年間、Amazonのような競合他社に立ち向かい、加盟店のために迅速で低コストの配送を提供するために、フルフィルメントへの取り組みを行ってきた。そのため同社は、テック主導の方法を採用してきた。2019年にはShopify フルフィルメントネットワーク(Shopify Fulfillment Network)を導入した。同年には、倉庫自動化技術のプロバイダーであるシックスリバーシステムズも買収した。2022年5月には、フルフィルメント新興企業のデリバーを21億ドル(約2840億円)で買収することに合意し、これは過去数年間で最大の物流企業買収のひとつだった。
物流戦略の転換
しかし、Shopifyは2019年にフルフィルメントネットワークを立ち上げてから、物流戦略を何度が転換してきた。これは、ウィリアムブレア(William Blair)のアナリスト、マット・ファウ氏が5月4日に発表した投資家向けの手紙で指摘していることだ。同社が2019年に初めてフルフィルメントネットワークを立ち上げたとき、Shopifyはその技術的な優秀性をアピールし、機械学習技術が「もっとも近いフルフィルメントセンターと拠点ごとの最適な在庫量を予測し、迅速で低コストの配送を実現する」と主張した。また、この取り組みに多額の出資を行い、5年間で10億ドル(約1350億円)を投資するとも述べた。
だが2022年、同社はこれまで提携していたいくつかの倉庫との契約を打ち切りはじめたと、当時ビジネスインサイダー(Business Insider)が報じた。これは、Shopifyがロジスティクスの野望を後退させていることを示唆していたが、それからわずか数カ月後、同社はそれに続くニュースとしてデリバーを買収すると発表した。
「Shopifyの物流への取り組みは、同社が2019年にこの市場に参入する意向を表明して以来、投資家との争点となってきた」と、ファウ氏は記し、「投資家は物流ネットワークを作り上げるための資本の要件と、利益率への影響の可能性を懸念してきた」と注釈している。また、「ロジスティクス事業の売却は、Shopifyのストーリーをシンプルにするものであり、投資家の受けはよいだろう」と、同氏は述べている。
一方、ヘルツ氏は、「ロジスティクスの物理的な世界は極めて難しく、何が起きているのかを技術者が正確に把握するのは困難だ」と述べている。
テック企業とロジスティクスは相いれない
eコマース戦略コンサルタントでアールエムダブリュー・コマース・コンサルティング(RMW Commerce Consulting)のCEOを務めるリック・ワトソン氏は、ロジスティクスがShopifyのようなテック企業にうまく適合したことはないという。
「どのような事業に参入しているのか? ということへの誤解があったと思う。ロジスティクスは利幅が極めて低く、効率的で大規模な事業だ。これに対してShopifyは利幅の高いソフトウェアビジネスで、双方は相いれない」と、同氏は述べる。
3PLサウセダ・インダストリーズ(3PL Sauceda Industries)の元CEOであるジェイ・ビー・サウセダ氏も、ロジスティクスの低い利益率が4PLモデルによってさらに圧縮されるというワトソンの発言の趣旨に同意する。「フルフィルメントの関係では、フルフィルメント費用に使えるのは、わずかだ。仮に2ドル(約270円)としよう。この2ドルは、中間管理層であるShopifyとフルフィルメントパートナーのあいだで分配されるよりも、1つのパートナーに使った方がはるかに有効活用できる」と、同氏は述べる。
ワトソン氏は、Shopifyがフルフィルメントサービスを小規模の加盟店に提供するという決定を下したことも、利益率の問題につながった可能性が高いという。「ほとんどの良質な3PLは大規模な顧客を探しているため、小規模の加盟店向けに適切なサードパーティーのロジスティクスプロバイダを見つけるのは困難だ。Shopifyがこの事業を開始したとき、顧客のほとんどは小規模の顧客だった。そのため、問題が出てきたのは当然のことだ。むしろ重要なのは、同社が問題の解決方法を間違えたことだ」と、同氏は付け加えている。
運営・管理の難しさ
Shopifyがデリバーとシックスリバーシステムズの売却を決定したことを発表したプレスリリースで、ラック氏は、同社がロジスティクスを管理するのに苦労していたことを示唆した。「ロジスティクスの運営には、ペン、紙、電話を多用する。そして、サービスプロバイダが互いに話し合うことはほとんどない。これらのプロバイダが協力するよう調整するのは大きな負担になる」と、同氏は記している。
サウセダ氏も、4PLモデルが困難なことに同意する。「3PLである以上、加盟店の開拓やロジスティクスを担当することはすでに難しく、アカウントのサービスを非常に深く理解している必要がある」と、同氏は述べる。サウセダ社の3PL(2021年にカート・ドットコム[Cart.com]に売却)は、Shopifyフルフィルメントネットワークが2019年に発足したときの初期のパートナーだった。
「Shopifyが中小企業に特化したネットワークを作り上げようとしたことは、本当に素晴らしいと思う。しかし、私自身の経験から、アセットライトネットワークの手法では、プロセスが異なるさまざまなパートナーを持つことで、取り組みの全体を通して一貫した品質のロジスティクス配送を行うことが非常に難しくなるということだ」と、同氏は付け加えている。
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