90年代の後半ごろ「ビジュアル系ブーム」という、蜃気楼みたいな一瞬の輝く時代があった。それっぽいバンドは以前からいたハズなのだが、なんか急にそう呼ばれるようになったのである。誰が呼んだか知らないが。
ただ、私(当時中学生)を含む そのテのバンドを支持する者の間では “その呼び名” をあえて避ける動きがあった。なぜなら当のバンドさんたちが “その呼び名” を気に入っているようには、お世辞にも、全然見えなかったからだ。あれ、実際のところはどうだったんだろ?
そんな悩めるオールド・バンギャな私であるが、今回なぜか我がゴッドオブ青春ことFANTASTIC◇CIRCUSさんに会えることになったぞ。理由は不明だ。
・なぜ出てくれたのか
一応ご説明しておくとFANATIC◇CRISIS(ファナティック クライシス)は97年メジャーデビュー。若くして時代をリードする存在になるも、色々あって2005年に解散。さらに色々あった結果、昨年 FANTASTIC◇CIRCUS(ファンタスティック サーカス)に “転生” して今に至る。色々あるよね、人生は。
上記の説明ではちょっとよく意味が分からない、という意見もあるだろうが、今から詳細を聞いてくるので少しそっとしておいてほしい。あ〜緊張で吐き気がしてきた。嬉しい反面、逃げ出したい自分がいる。
……が、行くしかない。だって私はファンの皆さんの代表なんだから。行けるかどうかじゃない。行くんだ。よし。よォ〜〜〜し! いっけぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!
出たァァァァアアアアアアア!!!!!!!!
FANTASTIC◇CIRCUSは元FANATIC◇CRISISの石月 努さん(Vo. / 写真中央)、kazuyaさん(Gt. / 写真右)、SHUN.さん(Gt. / 写真左)の3人からなるバンド。なお現在SIAM SHADEのNATCHINさん(Ba.)とLa’cryma ChristiのLEVINさん(Dr.)がサポートメンバーを務めているぞ。最高か。
──ほ、本物だー!!! 25年前にライブへ行きました!
石月「ボーカルの石月 努です。いま現役で頑張っていらっしゃる方々が『昔ライブ観てました』『応援してました』と声をかけてくださること、すごくありがたく感じています。
僕たちは現在ツアー中ですが、無理矢理にでも『なにか楽しみを作りたい』という気持ちで、久しぶりの地方を回ってきました。朝からラーメンを食べに行ってみたりですとか……おかげさまで、とても楽しくやっています」
──へぇ〜〜〜!
・経ている
……なんだなんだ。この、わりと普通のことを言ってるのに格言っぽく聞こえる感じは? 一定の人生経験を経(へ)たバンドマンは発言そのものが歌詞化するそうだが、その境地に達しているのだろうか? 一体いつの間に、それほど経たというのか?
──ええと、改めまして「転生」のいきさつについて簡単に教えていただけますでしょうか?
石月「はい。ある日のこと、僕が寝ていると『転生しなさい』っていう暗示が降りてきたんですね。それで2人に『どうかな?』って話をしまして」
SHUN.「すいません、どこでツッコんだらいいのか」
kazuya「いったんスルーで」
石月「というのは冗談で、昨年の5月の14日、たまたま日比谷野外音楽堂を押さえることができまして(5月14日はFANATIC◇CRISISが解散した日)。あそこはFANATIC◇CRISISにとって聖地的な会場なのですが、それで『取れちゃったんだけど』って、2人に報告しました」
SHUN.「あのさ。今考えると、あのとき『やらんよ』って言ってたら、その5月14日どうなってたの? 1人でアカペラでやってたん?」
石月「ひとり転生だね」
(仲良いんだなぁ……)
・予想外のほっこりスタート
どうも私が想像したより、ずいぶん気さくな人たちであるっぽいFANTASTIC◇CIRCUSの面々。ちなみにバンド名の省略形は「ファンタ」で、発音は別になんでもいいとのことだ。
──kazuyaさんは、石月さんの誘いを受けてどうでしたか?
kazuya「僕は、とりあえずやってみる、でも嫌だったらやめよう、というスタンスなので。だから、少し思う部分はあったけど『1回乗っかってみよう』と思って参加しました」
(めちゃめちゃイケメンだなぁ)
──え、じゃあ嫌になったら?
kazuya「辞めると思いますね。だってこの歳になって、今後の人生で嫌なことがあったとしたら、僕はしたくないです。楽しいとか、わくわくすることだけをしていきたい。まぁ、今後僕たちの間でそんなに嫌なことがあるかというと、可能性は低い気もするんですけど……」
──ちなみに2005年の解散の段階で、再集結はどの程度ありえると思ってました?
kazuya「ゼロです。むしろ、つい最近まで名前も聞きたくなかったです。でも、解散後に自分のバンドをやりながら、いろんな経験をしていくうち、だんだん自分に自信が出てきたんですよね。それで少しずつ、僕の中で雪解けがあって、ちょうどそのタイミングでそういう(転生の)話があったので。1、2年ズレていたら、100%やらなかったです」
(仲悪かったんだぁ……!)
・シンプルにショック
都市伝説と思っていた “バンドの不仲” の実在を目の当たりにし、取材中にも関わらず心に深刻なダメージを負ってしまった。え、待ってじゃあ、あの時もあの時も、舞台裏では険悪な関係だったってコト……!? ところどころ私の心の声が漏れているが気にするな。
石月「僕も頑なに『もうやらない』って決めてました。そもそも僕は音楽自体を1回辞めていますし……だけど東日本大震災の、あの光景を見たとき『私には何ができるんだろう』と考えまして。僕の人生の大きく占める部分は、やっぱり音楽だなと思ったんです」
──SHUN.さんは……
SHUN.「解散当時は『終わったな』としか思わなかったですね。ただ、当時一緒に時代を支えてきた……え〜と、俗に四天王と呼ばれる皆さんとかが……」
3人「(笑)」
SHUN.「皆さんが復活だとか、そういう話も耳にして……それでも自分たちは無いかな、と思っていましたけど。で、実際のところ、FANATIC◇CRISISはあの5人でFANATIC◇CRISISだと僕は思っているので、『その名前だったらできない』と言ったんです。かっこいい言い方をすると気持ちとか魂とか、そういったものを引き継いだ上で、新しいバンドを始めたと、僕はそういう認識でやっています」
( ※ 現在はお3方とても仲良く活動されています)
・いきなり! 四天王発言
で……出た! 四天王!! ここでいう四天王とは90年代後半に発生した『ビジュアル系四天王』という、今にして考えなくても少し恥ずかしい呼び名のことである。
バンド側は誰も名乗っていないのにメディアの力で一気に浸透した四天王呼び。まさかご本人の口から聞けるとは大興奮である(FANATIC◇CRISISは四天王の一角とされていました)。四天王の詳細については各自ググるなどしてほしい。
──あのう、四天王の件をもう少し詳しく……
石月「最近は『五天王』って言うらしいですよ。SIAM SHADEがどうしても入りたいって……」
SHUN.「いや、言ってないと思います(笑)」
(ツッコミのキレがスゴい)
──当時そんなふうに呼ばれて、どう思っていたんですか?
kazuya「いやぁ、他人ごとだよねぇ?」
石月「大人たちが作ったものですからね。そもそも僕らがバンドを始めたときは『ビジュアル系』という言葉もなかったですから。今はまぁ、これだけ認知されているけど」
── “ビジュアル系” と呼ばれることについては?
石月「僕は未だに、そう呼ばれたくないですよ」
・聞かせてくれ、その話
なんだか予期せず聞きにくいことも聞けそうな雰囲気になってきたので、このさい色々質問してみることにした。なおメンバーの皆さんは愛知と岐阜のご出身。東海地方では同時期に有名バンドが多数出現し、自然発生的に『名古屋系』と呼ばれて現在に至るぞ。
石月「イメージが良くなさすぎると思っていて……つまり『見た目系』ってことになっちゃうでしょう。もちろん本当に好きな人は、そういう解釈ではないと思いますけど。一般の方は『ビジュアル系』っていうと、なんだかチャラいイメージを持つと思うんです。僕らはゴリゴリの体育会系だったし、母体は音楽ですから。その言葉に対してのギャップが、僕の中ではずっとあります」
kazuya「でも大人になってみて、『ビジュアル系』ってナイスなネーミングだなぁって、すごく感心はしますけどね。やっぱり、それがあるから覚えてもらえる側面もあるから。いい意味で考えると、キャッチーだったんだろうな〜って思います」
──ブームのころ、仲のよかったバンドはいますか?
石月「僕たちけっこう、独立国家というか、他のバンドとの付き合いがあまり無かったんです。特にデビューしてからはもう……孤立状態でした。名古屋のバンドって、そういう人たち、多いと思います」
kazuya「よそと比べる前に自分が頑張らなきゃ、という思いが強かったから。あまり他のバンドの曲を知らなかったです。でも最近改めて、その辺のバンドを聴くと、かっこいいな〜と思ったりします」
──逆に嫌いだったバンドは?
石月「聞きますねぇ(笑)。いますよ。『デビューしたら見返してやろう』って思ってた人たちが……でも実際デビューしてみて気づいたのは、それって意味のないこと。僕たち、ものすごくハングリーなバンドだったと思います。当時は強く、たくましく生きなきゃいけない環境だったので。その環境に負けて解散しちゃったバンドもいっぱいいますから、そういう友達の分まで、頑張らなきゃいけないって思ってます」
・すぐ家を捨てる人の話
もう「よくぞここまで……」としか言えなくなってきたので、最後に個人的にどうしても聞きたかった質問をして本記事を締めたいと思う。実は私、約25年前に雑誌で読んだSHUN.さんのインタビューに衝撃を受け、人生が少し変わったという経験があるんですよね。
──SHUN.さんは中学生のとき一人暮らしを始めたそうですね
SHUN.「え? はい(笑)。kazuyaくんも僕と同じ岐阜の出身ですが、彼の生まれは大都会・岐阜市。そこへきて僕は…………田舎ってね、情報に乏しいんです。今はもうネット社会ですから、どこに住んでいても情報が届くじゃないですか。でも当時って、届かないんですよね」
──分かります
SHUN.「僕からしたら、東京や名古屋の前に、まず岐阜市に行くのが憧れだったんで」
──その後、ホームレスになられたとか
kazuya「僕が初めて彼の家に行った時、『家賃を払うか機材を買うかで悩んでるんだ』って話をされました。それで次に会ってみたら家が無かったから……『あ、機材を選んだんだな』って」
──当時の岐阜界隈では普通のことだったんですか?
kazuya「いや、普通じゃないです」
石月「そのころ携帯電話もあまり普及していなくて、とりあえずあの公園に行ったら会える、みたいな存在でした」
SHUN.「当時、名古屋で家賃がだいたい5、6万ですかね。馬鹿馬鹿しいな、と思ったんです。3カ月貯めたら、そこそこ良いギターが買えるんじゃないか? って。それで、家を飛び出したんですけど。その後はもう……公園はタダだし、水もあるし」
kazuya「たしかに(笑)」
──自分も田舎を出たい子供だったので、SHUN.さんの行動力に心揺さぶられるものがありました
SHUN.「ハングリー精神が半端なかったですからね。本当に音楽のことしか考えてなくて。だから家もいらなくて、本当にダンボールで寝ていましたよ。お風呂は銭湯に行けばいいし、なんなら公園に噴水があるし……ま、今はもちろん、そういうのはダメですけどね!」
石月「その名残で、昨日も公園で弁当食べてましたよ」
kazuya「懐かしくなっちゃうんでしょうねぇ」
・永遠に聞いていたい
クーーーッ! さすが俺たちのSHUN.さんは気合いの入り方が違うなぁ!! スマホ持ってトー横行って家出した気になってる若いのに聞かせてやりたいよ。昔の田舎って本当に、本当にもう、何をどうしていいか全然分からなかったんだから!
で、そんな監獄みたいな田舎で暮らす中学生だった私の心を支えてくれたのが、俗に言うビジュアル系の人たちだったワケで…………さて。今度こそ本当の最後に、FANTASTIC◇CIRCUSの今後の展開を伺ってお別れするとしよう。
SHUN.「正直、ツアーファイナル(5月13、14日)後、何も決まっていないんですよ。だから今後のことは、3人ないしスタッフの皆さんと話し合うことになると思うんですけど……でも実際、新曲は1曲あるといえばあるんです」
kazuya「なんならストックはいっぱいあるよね」
石月「さっきkazuyaが言ったように、これからの人生で “嫌なことをやる” って、すごく無駄じゃないですか? でも、やるからには、より高みを目指したいという気持ちもあって。それが音楽のクオリティなのか、キャパシティの大きさなのか、それは各々の想像におまかせしたいんですけど。
だから、僕ら3人『1年ごとに活動をする内容を決めていこう』と約束しています。基本としては『やるぞ!』って気持ちなんですが、もし例えば誰かが『ちょっと休憩したい』って言ったら、そのターンは休むことになるだろうし。それって矛盾しているかもしれないんですけど、曖昧なんだけど……どっちも真実なんです。うん」
・今週末は全員集合〜!
曖昧ながらもたぶん真実であることが判明したFANTASTIC◇CIRCUSの今後。とはいえ解散時に地獄を味わったファンの皆さんにおかれては「生きててくれてありがとう」の境地でおられることと思うから、転生の喜びを噛みしめつつ続報をお待ちいただきたい。
さて3月にリテイクベストアルバム『TENSEISM BEST SINGLES【1997-2000】』を発売したてのFANTASTIC◇CIRCUSは、現在ツアー『 -tour THE END OF 30th BOYS 2023- 』を敢行中。残る日程は5月13、14日の東京・昭和女子大学人見記念講堂のみとなった。
5月9日現在、チケットはギリ買えそうな状況なので、まだの人は全員買うように。並行して石月さんはソロプロジェクト、kazuyaさんとSHUN.さんはTHE MICRO HEAD 4N’Sというバンドで活動しているぞ。チェックチェック!
ってことで、ただの田舎のバンド好き中学生だった私が人生最大にサクセスした1日は無事終了。お3方、本当にありがとうございました!
参考リンク:FANTASTIC◇CIRCUS
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24. / PR TIMES