難聴の人は補聴器を使うと認知症になるリスクを軽減できる可能性

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認知症は世界中の人々にとって大きな脅威となっており、近年は「騒がしい環境で人の話が聞こえない人は認知症のリスクが高い」といった研究結果が報告されるなど、聴覚の衰えと認知症の関連が指摘されています。イギリスの大規模バイオバンクであるUKバイオバンクが収集した数十万人分のデータを分析した新たな研究で、「難聴の人でも補聴器を使うことで認知症リスクを軽減できる可能性がある」ことがわかりました。

Association between hearing aid use and all-cause and cause-specific dementia: an analysis of the UK Biobank cohort – The Lancet Public Health
https://doi.org/10.1016/S2468-2667(23)00048-8


Hearing Aids May Protect Against a Higher Risk of Dementia Associated With Hearing Loss – Neuroscience News
https://neurosciencenews.com/hearing-loss-dementia-23019/

Hearing aids could help cut the risk of dementia, study finds | Dementia | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/apr/13/hearing-aids-could-help-cut-the-risk-of-dementia-study-finds

認知症の患者数は世界的に増加傾向にあり、このまま有効な対策が取られなかった場合、2050年の全世界における認知症患者数は2019年の3倍近い1億5300万人に達するとの予測もあります。2022年に医学誌のLancetに掲載されたレビューでは、世界中の認知症症例の約8%に難聴が関連していることが示唆されており、近年は難聴と認知症の関連性が注目されています。

そこで中国やオーストラリア、日本などの国際研究チームは、イギリスの中高年の健康状態を長期的に追跡するUKバイオバンクに含まれる43万7704人のデータを基に、難聴の有無や補聴器の使用、認知症の診断履歴などを分析しました。なお、UKバイオバンクのデータ収集が開始された時点における被験者の平均年齢は56歳であり、平均追跡期間は12年でした。

論文の共著者で中国・山東大学の疫学教授を務めるDongshan Zhu博士は、「難聴が中年期の認知症に対して最も影響があり、修正可能な危険因子の可能性があるというエビデンスが構築されつつありますが、現実世界において補聴器の使用が認知症リスクの軽減に有効なのかどうかは不明なままでした」と述べています。


被験者の約4分の3に当たる32万5882人は難聴を患っておらず、残る11万1822人にはある程度の難聴がありました。そして、難聴者のうち11.7%に当たる1万3092人は補聴器を使用していましたが、多くの人々は難聴でありながら補聴器は使用していなかったとのこと。

認知症のリスクに関わる要因を考慮して分析した結果、難聴でありながら補聴器を使わなかった人は、通常の聴覚を持つ人々と比較して認知症になるリスクが42%高いことが判明しました。一方、難聴であるものの補聴器を使用している人々では、認知症リスクの増加はみられませんでした。

Dongshan博士は、「本研究は、難聴が認知症に及ぼす潜在的な影響を軽減するために、補聴器が低侵襲性で費用対効果の高い治療法となり得ることを示唆する、これまでで最良のエビデンスを提供するものです」と述べています。


今回の研究からは、イギリスにおいて難聴を経験している人の多くが補聴器を使用していないことも示されました。難聴は40代前半から始まる可能性があるため、補聴器を使わない難聴患者は認知症になりやすい60~70代にかけて、数十年にわたり段階的な認知機能低下が続くかもしれないとのこと。

Dongshan博士は、「今回の調査結果は、聴覚に問題を感じ始めたら早期に補聴器を導入することが急務であることを強調しています。難聴と認知症の関連についての認識を高めること、補聴器のコストを削減してアクセスを向上させること、プライマリ・ケア従事者が聴覚障害のスクリーニングを行うこと、補聴器が必要であるという認識を向上させること、補聴器装着などの治療を行うためのサポートを強化することなど、社会全体の取り組みが必要です」と述べました。

一方で、今回の研究結果はあくまで関連性を発見したものであり、補聴器の使用が認知症に影響する根本的なメカニズムが確立されたわけではありません。患者の状態についての調査は自己申告に基づくものであるためバイアスが含まれている可能性や、「難聴を気にして補聴器を使用する人は、その他の健康状態にも気を配っている可能性がある」といった隠れた要因がある可能性もあります。また、UKバイオバンクの被験者はほとんどが白人であり、先天性の聴覚障害者や難聴経験者が少ない点も、研究の限界として指摘されています。

それでも、今回の研究には関与していないユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのGill Livingston博士らは、「今回の研究により、補聴器が難聴者の認知症リスクを軽減する強力な手段であるというエビデンスは、無作為化比較試験なしでも可能な限り良好なものとなりました」と述べ、補聴器の使用は認知症予防における費用対効果の高い対策だと主張しました。


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