Appleの有機ELディスプレイのサプライヤーとして注目される中国企業「BOE」はどのように成長したのか?

GIGAZINE
2021年12月14日 06時00分
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AppleはiPhone 12およびiPhone 13有機EL(OLED)ディスプレイのサプライヤーとして、中国企業のBOEテクノロジーグループを採用しており、BOEは2021年中にiPhone 12とiPhone 13を合わせて1500万枚のOLEDディスプレイを供給するとされています。以前は赤字の真空管工場だったBOEがどのようにして液晶ディスプレイ製造分野で世界1位のシェアを誇る大企業に成長したのかについて、アジアの金融・産業・文化に関するメディアのAsianometryが解説しています。

BOE Technology: Apple’s Next OLED Supplier? – YouTube
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Apple’s Newest OLED Supplier – by Jon Y
https://asianometry.substack.com/p/boe-technology-apples-next-oled-supplier

BOEは北京を拠点とする中国で最も先進的なディスプレイメーカーであり、液晶ディスプレイ製造分野で世界1位、OLEDディスプレイでも世界2位のシェアを誇っています。iPhone 12やiPhone 13のOLEDディスプレイ供給も行っており、2023年にはApple向けのOLEDディスプレイ供給数で韓国のLGディスプレイを抜く可能性もあると報じられています


そんなBOEはもともと、「北京電子管廠」という中国の国営真空管工場でした。北京市が経済改革の一環として北京電子管廠の民営化を進めたことを受け、創業者の王東升氏が1993年に650万人民元(当時のレートで約1億2000万円)を調達して民営化しました。記事作成時点でも、国営工場だった頃の名残から北京市などのさまざまな地方自治体がBOEの株式を所有しているほか、株主のトップ10のうち9が国営企業だとのこと。


ディスプレイ業界の中でも技術的に遅れを取っていたBOEは、先進企業に追いつくために外国からの技術移転を図り、安価な労働力を提供することで外国のディスプレイ企業と合弁会社を設立する方針を採りました。その結果、日本の旭硝子(現AGC)や台湾のAdmiral Overseas Corporation(AOC)との合弁企業を成功させ、市場への足がかりを得ることに成功しました。


さらにBOEは、他メーカーとの差別化を図るため、それまでのディスプレイよりコントラスト比やリフレッシュレートで優れていたTFT液晶(薄膜トランジスタ液晶)技術に投資します。記事作成時点では携帯電話やPC、携帯ゲーム機などに幅広く利用されているTFT液晶は、もともとアメリカで開発された技術でしたが、製品化に成功したのは日本と韓国の企業でした。これらの企業は革新的で優れた特許の取得などにより、業界における優位性を固めていたとのこと。


TFT液晶は粗利が少ない上に供給能力の増強に多大な資本が必要なことから、新たな企業が参入するのは困難なものでした。


ところが2001年、韓国の半導体メーカーである現代電子産業(現SKハイニックス)アジア金融危機のあおりを受けて経営危機に陥りました。政治的圧力を受けた韓国政府は、ハイニックス半導体と社名を変えた企業を債権銀行団の管理下に収めさせ、現代グループから切り離した上で経営再建が行われました。ハイニックス半導体は負債を返済するために事業の売却に着手しましたが、その中に含まれていたのがディスプレイ事業です。


まずは2001年に、ハイニックス半導体は戦略的にそれほど重要ではなかったSTN液晶と、当時はプロトタイプの段階だったOLED事業がBOEに売却されました。そして1年後、TFT液晶事業が3億5000万ドル(当時のレートで約430億円)で売却され、その中に第4世代および第5世代のTFT液晶に関する包括的な知的財産および特許が含まれていたとのこと。


当時も批判されたこの買収により、BOEはすぐに中国で13番目に巨大な企業に上り詰めました。2003年のインタビューで当時の王CEOは、「この韓国や日本企業の手中にあったコア技術を手に入れる唯一の方法が買収でした」と語っています。


ハイニックス半導体が持っていたディスプレイ技術と能力を吸収したBOEは、北京市政府の財政支援にも支えられて最先端の液晶工場を建設したほか、国際市場における流通ネットワークと能力を構築するため、香港の大手モニターメーカーであるTPV Technologyの株式を26%取得するなどして勢力を強めました。その結果、2006年には世界で9番目に大きなTFT液晶メーカーに成長しました。


また、HuaweiやXiaomiなどの中国企業が世界的な影響力を強めるにつれて、コアサプライヤーとして密接に関連するBOEも成長していきました。


BOEの中核事業はディスプレイ技術であり、最先端の10.5世代TFT液晶生産ラインを含む工場や、中国で唯一の第6世代フレキシブルAMOLEDディスプレイ工場などを所有しています。また、継続的に製品を改善するための研究開発に多額の投資を行っており、2019年には9655件の特許を申請するなど、これまでに7万件を超える特許を取得しているとのこと。


創業者の王氏は半導体における長期傾向を論じたムーアの法則の独自バージョンとして、「ディスプレイの価格が変わらない場合、製品のパフォーマンスが36カ月ごとに倍増する必要がある」という法則を提唱して技術開発を推し進めました。その結果、OLED技術においてもSamsungディスプレイとLGディスプレイに次ぐ、業界3番手の特許を持つ企業となっています。


Huaweiの折り畳みスマートフォンにも採用されているフレキシブルAMOLEDディスプレイにおいては、Samsungディスプレイに次ぐ2番手の特許を保有しています。また、近年ではIoTや医療分野への投資も進めています。


ところが、液晶ディスプレイ分野における粗利の低さや積極的な投資による損失も大きく、BOEは2008年~2012年にかけて5年連続で損失を計上するなど慢性的な営業損失を出しています。


2019年には中核となるディスプレイ部門で2億3700万ドル(約270億円)の損失を出しており、その粗利はわずか13%と平均的なファーストフードレストランよりも低くなっているそうで、BOEは世界最大の液晶ディスプレイメーカーになっても政府の補助金に大きく頼っています。2019年はさまざまな地方自治体から4億ドル(約440億円)の補助金を受け取ったほか、2010年~2019年にかけて合計17億ドル(約1900億円)以上の補助金を受け取っており、補助金がこの期間における純利益の50%を占めているそうです。


記事作成時点のBOEは、これからディスプレイ市場で支配的になるとみられるOLEDディスプレイにかなり多額の投資を行っています。Appleの品質テストに合格してOLEDディスプレイのサプライヤーになったということは、OLEDディスプレイにおける優位性を得るために有益だろうとAsianometryは指摘しています。


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