Googleの新しいチャットボットであるバード(Bard)に、「Googleの検索エンジンが直面する課題を挙げよ」と尋ねると、すぐに答えがいくつか返ってくる。
「絶え間なく変化するインターネット環境」「ユーザーにとって意味のある、正確な情報の提供」「ユーザーのプライバシー保護」に加え、バードが4つ目に挙げたのが「検索市場における支配的な地位を維持すること」――だ。これは、ビッグテック企業GoogleのAI分野における野心的な取り組みが次にどのような展開を見せるかにかかっている。
最近の報道を見ると、Googleはこの課題にかなり真剣に取り組んでいるようだ。
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Googleの壮大なAI計画
2023年4月第四週、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、GoogleがパーソナライゼーションやAIの強化、広告の増加、検索を取引へと導く方法の拡充を図るため、検索エンジンに大幅な変更を加える計画だと報じた。報道によると「マギ(Magi)」というコードネームが付けられたこのプロジェクトは、検索にこれほどエキサイティングな時代がやってきたのは久しぶりだとSEOの専門家たちが口をそろえる状況のなかで、Googleがマイクロソフト(Microsoft)のBingに対する優勢を守るための戦略の一環であると見られる。
GoogleがAI強化による検索の一新を計画しているという話は、あくまでもまだ仮説にすぎない。だが、マーケティングやAIの専門家たちはこれを、「雑然とした」「まとまりのない」「ややこしい」ものとなってしまったGoogleを大幅にシンプルにする好機と見ている。
NPデジタル(NP Digital)のアーンドメディア担当シニアバイスプレジデントであるデビッド・シャピロ氏は「業界で語られるジョークがある」とし、「死体を隠すのに最適な場所はどこか。もちろん、それはGoogleの検索結果の2ページ目だ」と話す。
AI関連の取り組みについてGoogleにコメントを求めたところ、同社スポークスパーソンからは、具体的な内容には触れなかったものの、Googleは検索結果の向上とGoogleレンズ(Google Lens)やマルチサーチなどの新機能導入のため、何年も前から検索にAIを取り入れてきた、との回答があった。
「質の高い情報提供のために、自ら課した高い基準を維持し、責任を持って人の役に立つやり方で進めてきた」とスポークスパーソンは米DIGIDAYへの公式回答メールで述べた。「ブレインストームでのプレゼンや新サービスのアイデアがすべて新機能公開へとつながるわけではないが、これまでも述べてきたように、AIによる新機能を検索に導入することについては意欲的に進めており、追って詳細を発表する予定だ」という。
検索と広告はどう変わるのか
AI分野ではBingに対する遅れを取り戻そうと躍起になっていると見られているGoogleも、検索広告市場では依然として圧倒的優勢を崩していない。調査会社WARCによれば、2023年はGoogleが検索市場の50.4%を占める一方で、Bingはわずか5.2%にとどまる。ただし、WARCがマーケターを対象に最近実施した調査によると、Googleへの広告費を増やす予定があるとするのは53%と、2022年の59%から減っているのに対し、Bingへの広告費は11%が増やすことを計画しているという。
Googleの出方次第では、マーケターたちはSEO戦略を見直し、長年のパフォーマンスマーケティング優先から離れてブランド構築に軸足を移す可能性がある。ホワイトラベルSEOのザ・ホス(The Hoth)で、最高マーケティング責任者を務めるマックス・ゴメズ氏は、「効果が感じられるまでに時間がかかるロングテールキーワードは、現在は広告主に好まれない」と話す。だが、チャットベースの検索プラットフォームはこれを変える可能性がある。
「今はGoogleに向けられる大量の質問のうち、返ってくる答えがユーザーの求めている答えではない場合も見られる」と同氏は話す。「ロングテールキーワードは、ユーザーのニーズとブランドとのマッチングをやりやすくするだろう」。
このようなポテンシャルがあるとはいえ、まだ課題も多い。たとえば、「AIによって自分たちのコンテンツが盗作されてしまうのではないかと懸念するクライアントも一部には見られる」とゴメス氏は続ける。Googleがこれをどのように収益化するのかについても、チャットベースの回答にあまりに多く広告を挟み込むと見づらくなるのではないかなど、まだ疑問点は多く、誤情報を巡る問題をどのように解決するのかも明らかではない。
検索がAIに移り変わるためにはいくつもの懸念の払拭が必要
アナリストやほかの専門家たちは、Googleと同社のAIに対する野心的な取り組みについて、いくつもの懸念事項を指摘する。ひとつ例を挙げれば、バードはユーザーへの回答を生成するときに、今でも高い割合で誤った情報を生成することがわかっていることなどだ。
ガートナー(Gartner)の最近の調査によると、消費者はAIが誤情報を生成するだろうと予想し、企業はブランデッドコンテンツの制作にAIが使用されたかを当然開示すべきであると考えている。ガートナーは、調査回答者の85%がAIの生成する検索結果を「信用していない」、または「少ししか信用していない」とするなかで、そのような検索結果に各ブランドが表示されてしまうリスクを指摘する。
「AIはあくまでも検索を補強するためのものであり、補完的な役割を期待すべきではない」とガートナーのシニアダイレクトアナリストであるニコル・グリーン氏は語る。「ChatGPTやBingなどのツールはまだ信ぴょう性や引用元が十分ではなく、したがってそれは真実であり信頼できるものとはいえない。AIチャットを利用するユーザー行動は、今はまだ検索の場合とは異なる。AIチャット機能には文脈と目的が欠けている」。
AIへの注力が最重要に
AIをうまく活用できるかは、Googleの今後に大きく影響する。サムスン(Samsung)は自社製品に搭載する検索エンジンをGoogleからBingに変えることを検討しているという話もある。また、GoogleとAppleとの3年契約が2023年のどこかで切れるのではないかというアナリストの予測もある。Bingにとっては契約を横から奪うチャンスかもしれない。
WARCのインテリジェンス&予測部門のデータ担当ディレクターを務めるジェームズ・マクドナルド氏は、GoogleはAI機能に信頼感と価値を持たせるだけでなく、支払機能の追加も検討すべきでは、と語る。WARCではリテールメディアが現在の検索広告市場の4分の1を占めていると推定しているが、そのような状況下でこの点はとくに重要になってくると予測する。
「Googleは購買時点に近いところで消費者にリーチする手段を持つ。それを(Amazonのように極めて効率よく)コンバージョン化できれば、この分野が今後10年さらに進化していくなかで、Googleは再び主導権を握ることができるだろう」とマクドナルド氏は話す。
プレイヤーはほかにも
当然のことながら、新しいジェネレーティブAIのツールを開発している企業はGoogleとマイクロソフトだけではない。ゴーダディ(GoDaddy)は4月初めに中小企業向けのコンテンツ生成用AIツールの提供を開始し、メールチンプ(Mailchimp)も4月第三週にメールマーケティング用のAI生成コンテンツのための新機能の提供を開始したばかりだ。
AI分野におけるGoogleとマイクロソフトの戦いは、最終的には独自のAPIを最近発表したばかりのジャスパーAI(Jasper AI)のようなほかのジェネレーティブAI企業にも利益をもたらす可能性がある。ジャスパーのプレジデントであるシェーン・オーリック氏は、AIブームが続いているおかげで同社の露出が増え、競合他社の存在がジャスパー自身を高めていく努力につながっていると述べる。「他社のテクノロジーが改良されればされるほど、ジャスパーのテクノロジーも向上していく」。
[原文:Google’s rumored AI-infused search overhaul has marketers’ attention]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)