わたしはアメリカで大学院生をやっています。つまり常に金がありません。
学食すら一食で二千三百円、家賃に至っては平均四十万円を越えるマンハッタンで、好き勝手にごはんを食べられるわけもなく、胃袋はキュウキュウ切なく鳴るばかり…。
こんな移民の情けない胃袋を支えてくれる命綱、それが格安フード・トラックです。
今回はコロンビア大学周辺で、ニューヨークの誇るストリート・フードを「勝手に食べ放題」しちゃいます!
ニューヨークのストリートに、ちんまりたむろしているトラックたち
お昼の時間になりました。すでに大学前には十台以上のフード・トラックたちが集まっています。見たところアッサリした作りの何でもない屋台ですね。
しかし気の抜けるような見た目とは裏腹に、ここでは、ニューヨークの富を目指して世界各国から集まってきた移民たちが本格的な味を振舞っているのです。
このほのぼのとした路上で日々ひっそりと開かれているのは、彼らによる小さな食文化の万博と言えるでしょう。では、さっそく行ってみましょう。
駅前にちゃっかり停めたギリシャ料理の屋台
午前にダンスの授業で運動して、こちとらペコペコのお腹をかかえております。
トラックに書いてあるSOUVLAKIとは串焼きという意味のギリシャ語。これは食べたい。
ギリシャの焼き鳥って、でっかくて景気がいいんですよ。かなりデカいとされているセブンイレブンの焼き鳥が、子供の遊びに見えるほどのデカさなんです。わくわくでメニューを見てみます。
あっ、Souvlaki(串焼き)は無いんだ。
ピタと呼ばれる、地中海伝統のパンで挟むサンドイッチが並んでいます。
念のため売り子のおばちゃんに確認するものの、やっぱり無かった。(店名なのに…。)
仕方ないのでsouvlakiは諦め、おばちゃん激推しメニューの「ジャイロ」を注文することにします。
ちなみに画像では伝わりませんが、お互い移民で英語が訛っているため、東北弁と沖縄弁の人が喋っているような絶妙な通じなさ加減がコミュニケーションに発生しています。これも屋台の「味」ってもんです。
こちらがジャイロです。もともとはギリシャ語で「回転」を意味する言葉。
日本の夏祭りにいくと、ドネルケバブの屋台でお兄さんが巨大な肉塊をグルグルと踊らせていることがありますよね。その回転する肉をギリシャではジャイロと呼んでいるのです。
それでは実食。
んふッ…
うんまァ~~~~~~~~
あたたかいパンにから立ち上る湯気が、ラムのジビエっぽいかおりを運んでいます。ふわふわとした優しい甘さのパンをガブッと齧ると、ラムの肉汁が上品なハーブの風味と共に口の中にじゅわ~~っと広がる。
だが、地中海の味でもうひとつ忘れてはいけないのは、ギリシャ伝統のヨーグルトとキュウリのソース、「ザジキ」。このソースのさっぱりとした酸味が、オニオンの辛みをちょうどよく抑えています。
まったく正体がわからない謎ハーブがガンガンに良い仕事をしているのに、わたしの地中海料理に対する造詣が浅いがために、この草の名をほめたたえ、後世に伝えていくことができない。草に申し訳ない……。こんなに良くしていただているにも、関わらず……。
謎ウマ回転肉を嚙みしめたところで、小腹も満たされたんでサクッと次のトラックに行きます。