「キュリー夫人は、若いころ貧しくて燃料を買えず、暖をとるためにイスを背負って勉強した。」
最近読んだマンガにそんな話が出てきて、あまりの突拍子もなさに度肝を抜かれた。しかもマンガの中だけの設定ではなく、ほんとうに伝記に書かれていた話だそうなのだ。
イスを背負ったくらいで本当に体があたたまるのか。このあんまりな寒さ対策について、真相を究明してみたいと思う。
※2007年12月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
それは本当なのか
イスを背負ったら暖かくなるなんて突拍子もなさ過ぎると思う。それは防寒というより奇行ではないだろうか。子供に偉人の生き方を伝える伝記にはミスマッチではないか。
にわかには信じられない話なので、記事にするにあたってまずは下調べだ。そう思いネットで検索してみると、なんだかいろんな説が見つかってしまった。
ヒットしたページを読んでみると、同じエピソードを指していると思われる説明が、4通りの説に分かれていた。そしてその4つとも、やっぱり奇行だ。おもしろいことになってきた。4つを順に紹介していこう。
A.イスを背負って勉強した |
僕が読んだマンガに描かれていた説はこれ。筋肉を使うことで体が温まるということだろうか。どうにも信じられないのだが、理由が推測できるだけでも4つの説の中ではかなり脈アリかもしれない。
B.布団をかぶり、それでもまだ寒いのでその上にイスを乗せた |
厚着がエスカレートしたのではという説。キュリー夫人としては重ね着のつもりだったかもしれない。しかし伝記の著者が、イスを衣服として扱うことに納得がいかず「イスを乗せた」と表現してしまった気持ちもよくわかる。
C.イスを燃やして暖をとった。 |
貧乏で薪が買えなかったため、イスを燃やしたそうだ。
確かにあたたかいだろうが、別の点で問題がある。貧乏なのに大切な家具を燃やしてしまうのはどうだろうか。イスを売って薪を買ったほうが、たくさん燃料が手に入るのではないか。
D.ベッドに入ったものの寒くて眠れないので、 イスを背中に乗せて、その重みで寒さをごまかした |
重くて眠れないのでは。眠れたとしても、ひどくうなされそうだ。
以上4つ。どうだ、どれも見事に納得いかないだろう。
しかし、勉強時代のエピソードとはいえ、将来はノーベル物理学賞をとるキュリー夫人のことだ。もしかしたらこの4つのうちのどれかが、熱力学にのっとった画期的な暖房法なのかもしれない。
うっかり先に写真を出して展開をばらしてしまったが、このあとは実際にやってみての検証にはいります。
公園にやってきました
薄手のズボンに半袖のポロシャツ。夏服で公園にやってきた。公園は日陰で、おまけに北風もピューピュー吹き付けてくる。寒さは申し分ない。
ここでA説、B説、D説と順に検証していくことにする。
ただし、C説の「イスを燃やした」は、防災上の理由、および「暖かいに決まってるじゃないか」という理由により省略です。
A.イスを背負って勉強した |
寒いのでさっさと検証に入ろう。イスにヒモを取り付けて、背負う準備をする。ほんとに暖かくなるのか。
背負ってはみたものの、吹き付ける風は相変わらず冷たい。体の芯に向かってどんどん冷気が浸透してくるきがする。ポカポカした感覚はまったくない。
もしかしたらイスの効果が現れるまで少し時間がかかるのかもしれない。キュリー夫人にならって、そのあいだに勉強でもしておこう。
しばらく勉強を続けるうちに、背中だけがじんわりと温かいことに気づいた。やっぱりイスは暖かいのか。
どうも、皮製のイスの背が、背中に当たる風を防いでくれているようだった。背中だけ1枚厚着をしているようなものだ。
でもやっぱり寒い!イスの防寒効果は背中の風を防ぐのがせいいっぱいで、想像していた「筋肉を使ったので体がポカポカ」みたいなことにはならなかったのだ。
10分間の予定だった勉強タイムは、寒すぎて5分で断念。人通りの多い道路に面した公園で、「だれかに座られるのでは」というリスクと常に背中合わせ(文字どおり)の5分間だった。さいわい近所の人からは遠巻きにふしぎそうな顔をされる程度で済んだようだ。
体温も下がってきた。風邪をひく前に急いでB説に移ろう。