本稿では薪ストーブ、木材燃焼暖房に対する規制、啓発、研究等を紹介しよう。
すべて、木材燃焼煤煙は有害で健康被害を与えると指摘する。無害で人体と環境に優しい、という言説は存在しない。
木材燃焼煙は確実に有害であるとの科学は既に確定しており、議論の必要は無い。
また、住環境における発煙行為は基本的にどの国であっても普遍的な迷惑行為とされるものである。
調査を進めると、西側先進国においては、木材燃焼暖房(暖炉・薪ストーブ)に対する厳しい視線が日に日に強くなり、規制を厳格化する動向が増加し加速しているのを感じる。再生可能エネルギー名目での家庭用木材燃焼器具への補助金は減少し、薪ストーブを破棄し無煙暖房器具に交換するための補助金制度や、薪ストーブ使用に対する罰金制度まで創設されている有様であり、住環境に煤煙を常時放出することは必ず悪とされているのが先進国の常識である。
日本はその点でガラパゴス状態であり、西側先進国で規制削減に向かい、廃止が最終目標(SDGsでは本来、古典バイオマスの家庭燃焼は削減対象である)にされ得る煤煙発生器具を、補助金まで出して推奨している逆行政策を採ることは、諸外国の空気質研究者から嘲笑の的にされかけている愚策である。
薪ストーブ、木材燃焼暖房に対する規制、啓発、研究等
● 英国、インペリアルカレッジロンドンによる木材燃焼暖房と大気汚染の研究
王立インペリアルカレッジロンドンでは、木材燃焼暖房(暖炉・薪ストーブ)は住環境における主要な大気汚染源であると指摘、「ロンドンウッドバーニングプロジェクト」として、総合的な空気質の実態調査を開始している。研究者、学生だけでなく、市民の協力者(発生源である木材燃焼暖房使用家屋の協力を得る点は斬新である)を募集。各所で実際に空気質測定器を設置するだけでなく、可搬式の空気質測定器も駆使し、木材燃焼煙の実態解明を目指す研究が行われている。
コミュニティグループは、地域の汚染を監視して取り組むために無料の空気センサーを受け取ります
● 英国、ロンドンでは新築家屋での薪ストーブは設置禁止に
ロンドンの新築および改装された建物では、木材燃焼暖房器具が事実上禁止される。
ロンドンの新築住宅や改装住宅で事実上禁止されている薪ストーブ
更に、違反する燃焼器具を使用している場合は罰金が科せられる。
イギリスでのログバーナールールの変更により、ユーザーに300ポンドの罰金が科せられる可能性があります
● 英国議会では四年以内に木材燃焼器具の廃止検討を開始する
英国議会は遂に薪ストーブの全廃を含めた厳しい制限の実施を視野に入れた。
英国の主要なバイオマス貿易機関である再生可能エネルギー協会(REA)の責任者も、政府は約4年以内に禁止の議論を検討する必要があると述べた。
そのような規制が効果がないことが判明した場合、評議会選挙のサイクル内(最大4年間)に禁止を検討する必要があります。
英国の国会議員は、国内の木材燃焼の都市禁止のメリットを比較検討することができます
● カナダ、バンクーバー島でのクリーン暖房換装プログラム
バンクーバーのカウチンバレー地区は周辺で最も木材燃焼暖房の煙による大気汚染が酷い地区であり、これの解消改善を目指し、ブリティッシュコロンビア州肺協会と環境気候変動省が資金提供する木材煙削減プログラムを実施。
薪ストーブをヒートポンプに置き換えるための2,350ドル、薪ストーブまたは屋外の薪ボイラーを新しいペレットストーブまたはボイラーに交換するための1,050ドル、古いまたは認定されていない薪ストーブを交換するための550ドル
● 豪州、オーストラリア喘息協会による薪ストーブへの意識調査
人口の4分の3(77%)が都市部や市街地では薪ストーブ禁止希望。半数以上が段階的に廃止(55%)または完全に禁止(54%)すべきと。喘息患者は更に都市部の薪ストーブの規制に84%の支持、完全に廃止支持71%・・・これが普通のまともな感覚。日本でも調査すれば同様だろう。
● 豪州、クイーンズランド州ブリスベン市は発煙を迷惑行為とする
薪ストーブの煙は他人に迷惑であるとしている。当然にペナルティも有る。
【薪ストーブの所有者/ユーザーの責任】
クイーンズランド州政府の1994年環境保護法の下で、隣人に煙の迷惑をかけることは違法です。
薪ストーブからの煙の迷惑についての苦情を受け取った場合、苦情を申し立てた人と薪ストーブの所有者に手紙が送られます。
- ブリスベン市議会は苦情を調査します。
- 薪ストーブの正しい動作に関する情報が送信されます。
- 申立人と所有者の両方が、薪ストーブの使用と煙の放出について書面による記録を作成する必要があります。
- 煙の迷惑が続く場合は、警告が発せられる可能性があります。
- それが続く場合、その場で罰金が科せられ、さらに違反するとさらなる執行措置が取られる可能性があります。
● 豪州、ニューサウスウェールズ州EPA、木材燃焼煙への見事な核心を突いた警告
これが住環境における木材燃焼=有害の真実。警告を行政が行うのは当然。薪ストーブ業界や木材業界の無害欺瞞宣伝を禁じよ。地球を救う前に、多くの隣人を木材燃焼の大気汚染から救うことが最優先。日本政府もこれを見習え。
● 豪州、木材燃焼暖房が起こす健康被害についての研究
ニューサウスウェールズ州の地方都市アーミデールでの木材燃焼暖房汚染原因の死亡率とそれに関連する財政的コストへの影響の研究。
住宅用木材暖房は、豪州の多くの都市や町で危険な大気汚染の主原因。特に地方では薪ストーブ使用率が高い上に大気観測点が少ない問題、看過された大気汚染の健康被害の研究が明らかにする木材燃焼暖房のリスク。
オーストラリアの地方都市における薪ストーブ汚染の死亡率と関連する経済的コストへの影響
● ニュージーランド、違反の燃焼器具を赤外線カメラで摘発
違法なバーナーを使い続けている規則違反のロトルア住民は、評議会が大気汚染火災を取り締まるため、750ドルの罰金に直面する可能性があります。家庭用暖房用薪ストーブからの煙は、ロトルアの冬の大気汚染の主な原因です。
彼のチームはサーモグラフィを使用し、汚染ホットラインを通じて視覚的な煙の排出や煙のような火災の苦情に対応しています。非準拠バーナーを使用していることが判明した人は誰でも、即時使用停止日が記載された削減通知を受け取ります。それを継続して使用すると、750ドルの罰金が科せられます。
● オランダ、首都アムステルダムの木材燃焼煙への苦情処理システム
薪ストーブ暖炉等の木材燃焼煙は迷惑行為と明言。空気質や煤煙悪臭を監視する組織は、市民が通報する窓口を開設。多数の苦情が集まっている。
【過去2年間で、GGDアムステルダムに295件の木材燃焼による迷惑行為の報告がなされました。】
● 英国、ウェールズニュースの記事
薪ストーブ使用について「二度考える」ように警告。ファッショナブルなストーブが大気汚染に関する世界保健機関(WHO)のガイドラインを絶えず超えていることが6ヶ月の調査で発見された。11月から3月にかけて実施された調査は、WHOの超微粒子汚染勧告を超えると判明。煤煙微粒子濃度に安全な閾値は無い。
住宅所有者は、発見を警戒した後、ログバーナーの使用について「よく考える」ように警告しました
● 英国、ガーディアン紙の記事
英国での家庭の木材の燃焼は、年間約£10億の健康コストを引き起こします、と報告書は指摘する。
英国での家庭の薪燃焼は、年間約1億ポンドの医療費を引き起こしていると報告書は述べています
● ドイツ、木材燃焼暖房への警告
「残念なことに、木材を使った暖房は、気候だけでなく健康にも非常に有害な細かいほこりやすすを引き起こすため、環境に優しいものではありません。」
●ドイツのTV、薪ストーブ煤煙の有害性に言及した番組を放映
【有害な粒子状物質】
木材燃焼による微細粉塵は、長い間想定されてきたこととは反対に、ディーゼルまたはガソリンの燃焼からの微細な粉塵に劣らず有害である。
● スロベニア、田舎の大気汚染についての研究
スロベニアの山の谷でのこの研究が示すように、田舎の地域でさえ、私たちが呼吸する空気に対する木材暖房煤煙の悪影響は非常に大きい. 調査期間全体 (12月から1月) の空気の質は中程度でした。言い換えれば、非常に空気室質が悪く大都市圏並みの大気汚染。
● スウェーデン、ウメオ大学の研究は認知症増加を指摘
「スウェーデンの大規模な研究によると、木材を燃焼することも非常に健康上問題のある効果をもたらします:それは呼吸器疾患を引き起こすだけでなく、認知症のリスクを大幅に高めます。」
●Doctors and Scientists Against Wood Smoke Pollution © 2020
木材を燃やすと、新しい認定薪ストーブでも、局所的な粒子汚染ホットスポットが発生し、多環芳香族炭化水素(PAH)、ベンゼン、ダイオキシンなどの驚くほど高いレベルの有害な毒素が環境に放出されます。木の煙はタバコの煙と同じ有毒な化合物の多くを共有していますが、証拠はそれがさらに有害であるかもしれないことを示唆しています。
増え続ける研究は、 木材の煙の汚染が喘息、心臓発作、脳卒中、癌、認知症などの深刻な健康転帰のリスクを高めることを明らかに示しています。
編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2023年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。