罠だった。管理会社から来たメールが完全に罠だった。汚い手を使いやがって……と思うと同時にゾッとする。もし弁護士のFさんがいなければ、私は反則攻撃をモロに受けて血まみれになっていただろう。
──何の話かというと、立ち退きをめぐる争い。当事者は私で、マンションの管理会社から「大家がその部屋に住みたがっているから大体半年を目処に退去して欲しい」と言われていた。
以降、私は管理会社と何度もやり取りを重ねてきたのだが、その中で今回取り上げるメールがもっともショッキングだったように思う。どんな内容なのかというと……。
・管理会社から届いた “大家のメッセージ”
「前回の続きはよ!」という人のためにいきなりメール全文を掲載したが、本連載を初めて読んだ人は「私と大家(管理会社)がバチバチに揉めており、私は困ったときに弁護士のFさんに相談している」ってことだけ押さえてもらえたらOKだ。
なお、前後関係をもうちょっと詳しく知りたい方は、記事下に記載している “今までの流れ” も併せてご確認いただくといいかと思う。
・ようやく登場した大家
さて、今回は当連載で初めて大家(オーナー)のメッセージが登場する。これまで、阿部四郎のようなレフリングをする管理会社に悩まされていたので、ようやく真の対戦相手を引き出せたことに安心していたのだが……。
あろうことか、大家が繰り出した最初の一撃で私は気絶してしまったのである。このように書かれていたからだ。
え?
立ち退き料を一切請求できない契約になってたの?
マジ!?
恐る恐る契約書をチェックすると……
たしかに!
大家の言う通りや。
ってことは……
完全にこっちのミス! 請求できないことを請求しているのだから。大家に対しても、管理会社の担当者に対しても、めちゃくちゃ申し訳ない。
ちなみに、弁護士のFさんは「今回のケースの場合、感覚的には家賃の6カ月分から立ち退き料の交渉スタート」と言っていたので、大家さんの提示額はその半分以下。よって、私が要求していた “最低限の立ち退き料” と比べても半分ってことになる。
だが、そんなことは言ってられない。むしろ、契約書に「移転料、立退料等の金員一切を請求しないものとする」と書かれているのに、家賃3カ月分の立ち退き料を出すと言ってくれる大家には感謝すべきであろう。
よし、「ではその条件でお願いします」と返信しよう……と思ったのだが、私の中で引っ掛かることがあった。
待てよ。
家賃3カ月分の立ち退き料では、新しい部屋を借りるための初期費用に絶対足りない。ってことはこっちが負担するんだろう。でも……「自分が住みたいから部屋を出て行ってくれ」と言ってきたのは大家の方。
なぜ大家のリクエストに応えるために私が負担しなくてはいけないのだろう? しかも結構な金額。労力的にも大変なのに。いくら契約書の項目に「立ち退き料は請求できない」とあるからって……
おかしくない?
──という気がしたので、私は念のため弁護士のFさんに相談することにした。そしてそこで、相手が反則スレスレの攻撃をしてきたことを知ったのである。
私「実は入居時にサインした契約書に『移転料、立退料等の金員一切を請求しないものとする』と書かれていたみたいで。そのことを大家さんから突っ込まれました」
Fさん「なるほど。よく見かけるのですが、ほとんどの賃貸借契約においてはこのような条項は無効です。今回は全く気にする必要はありません」
私「え!」
Fさん「管理会社ではなく大家本人が主張しているのがミソなのです。宅建業者はこのような条項の有効性に問題があることを知っていて当然ですので、このような条項を盾に請求できないなどと説明した場合は、後々、法的責任を問われる可能性もあります」
私「なんですと!?」
──驚いた私は改めて管理会社から来たメールを見返してみた。たしかに、メールの送信元は管理会社なのだが、契約書の条項について触れている部分は「大家の見解」となっている。
なんという姑息な手だろうか。無効な条項をチラっと見せて、相場の半分以下の金額を提示してくるとは……。しかも、そこだけ「大家の見解」として記載してくるとは……。こんなもん、ほぼ詐欺だろ。
おまけに、大家が「立ち退き料は3カ月しか出せない」と言う理由は原資(お金)がないから? つまり、大家が言っているのは「俺がその部屋に住みたいから出て行け! 立ち退き費用を全額出そうにも俺は金がないから、足りない分はそっちの負担でよろしく。結構足りないと思うけど」ということ。
もしその言い分が通るのだったら、私だって金がないから立ち退き出来ませんって話になる。なにより、え? ナメてんの? って気持ちだ。
そして個人的に何より悪質だと思うのは、メール全体の雰囲気が優しいこと。まるで、契約書の見落としで転倒した私に、温かい眼差しで手を差し出してくれているかのよう。
だけど、私が転倒したのはお前がこっそり脚を出して引っ掛けたからだろ。しかも、右手で私を起こそうとしながら、左手にはフォークを隠し持ってるじゃないか。なんだこの試合。マジでふざけんな。
──と再度キレた私は、大家と管理会社が差し出す手を勢いよく払いのけた。つまり、相手の主張を突っぱねた。すると、大家陣営はタオルを投入して降参……するわけもなく、ここからさらなるバトルが待っていたのである。
そのバチバチなバトルについてはまた次回。メールを読み返しているだけで腹が立ってきたので、今回はここまで。来週またお会いしましょう! それでは皆さん、良い週末を〜!