『くまのプーさん(Winnie the Pooh)』はイギリスの作家A・A・ミルン作の児童小説。ミルンの死後70年が経過したことにより、2022年から同小説はパブリックドメインとなった。要するに著作権の期限が切れ、誰でも使用できるようになったのだ。
それを待っていた人たちによって制作されたのが、原作を元にしたホラー映画『Winnie the Pooh Blood and Honey(くまのプーさん 血とハチミツ)』である。2月15日に全米公開されるや、ネットを中心に大きな話題となっているようだ(日本での公開日は未定)。
今回たまたま旅行中のラオスで劇場版プーさんを鑑賞した私……この衝撃を少しでも皆さんにお届けしたいと思う。
・上演前が一番ホラーだった件
なお我々がよく知る『ディズニーのプーさん』は “ミルンの小説を元にしたアニメ” ということになる。現在ディズニーと『ホラー版プーさん』制作陣が一触即発の状態にあるとの報道もされているが、そのあたりは本記事で扱わない。
ちなみに私はアニメ版『プーさん』の大ファン。DVDはほぼ所有しているし、カラオケでは必ず主題歌を歌う。温かさの中に切なさがあって、何回観てもちょっと泣くんだよね〜! さて。やってきたのはラオス首都にあるショッピングモール『ビエンチャンセンター』だ。
ラオスで一番デカいモールと聞いて来たが、非常に閑散としている。ただ最上階の映画館はピカピカ。日本とほぼ変わりない。
驚くべきことに「タイ語吹き替え版のみで、字幕はありません」と言われる。ラオスなのにタイ語のみとは、これいかに? なお結果的に本作は言葉が分からなくてもほぼ理解できる映画だった。チケット代は4万2000キープ(約338円)。ポップコーンが4万9000キープ。映画が安いのかポップコーンが高いのか?
とかやってたらギリギリの時間になってしまった。急いで指定された座席へ向かうと……
……エ、エーーーーーッ!!!?
・真実のガチ
これは正真正銘の事実なのだが、この回の『プーさん』を鑑賞した客は私ただ1人であった。
ホラー映画をたった1人、外国の映画館で鑑賞するという行為そのものが何よりホラーである。実は私はホラー映画があまり得意でなく、正直「今すぐ帰ろうか」とも思ったのだが……予告編の一発目が『劇場版 鬼滅の刃』だったことが心を奮い立たせた。炭治郎が味わった恐怖に比べれば、1人ホラー映画鑑賞など大したことじゃない。ありがとう炭治郎。
この先は少しネタバレを含む内容になるため先に結論だけお伝えすると、本作はちっとも怖い映画じゃなかった。もちろん殺人シーンのグロさや音による “びっくり” はある。が、それさえダメだという人は元からホラー映画など観ないだろう。
本作はあまりに「んなワケねぇだろ」「何やってんだお前」な展開が連続するため、怖いというよりむしろ “笑っちゃう” 部類の作品なのだった。それでは少しだけネタバレを……嫌な人はここでタブを閉じてほしい。
・つかみはバッチリ
さて全編タイ語だったため間違いがあったら申し訳ないが、導入部分の解釈は大体合っていると思うのでお伝えする。まず少年クリストファー・ロビンは100エーカーの森でプーと仲間たちに出会う。クリストファーは食べ物を持ってプーたちの元へ通い続けた。
しかし成長したクリストファーは次第に森を訪れなくなる。食べ物がなくなりプーたちは飢え、ついに仲間の1人が死んでしまう。それから5年後、成長したクリストファーが森を訪れると……不気味で凶暴に変わり果てたプーとピグレットが彼に襲いかかったのだった。
なるほど。仲間(イーヨー)の死によってプーたちの心が荒み、次第にクリストファーを憎むようになった、というのは正当性がある。「逃げるクリストファー、追うプー」という展開が続いたなら、誰もが納得のいく結末を迎えた可能性が高い。
・なぜ出したのか?
ところが……この映画、肝心のクリストファーがあまり登場しないのだ。ここからプーとピグレットは無関係の人を次々と襲いはじめる。なぜか女性しか登場しないため必然的に死ぬのは女性ばかり。オール女子キャスティングの必然性について、タイ語で説明があったのだろうか?
2人目の被害者など襲われた拍子に服が破れ、乳首モロ出し両ポロリ状態で殺される。その後も妙にお色気シーンが続き、意図的な演出であることは想像に容易い。形勢逆転した場面で女性がピグレットをぶん殴るシーンなど、タイ語は分からないが彼女は間違いなくこう叫んでいただろう。
「この薄汚い豚野郎」と……。
プーもピグレットも本来 “動物のぬいぐるみ” のハズだが、体つきや動きが普通の人間であることから、だんだん “ド変態のおっさん” にしか見えなくなってくる。獣ヅラしている反面、車を運転しベッドで寝るなど一定の知能はありそうだ。う〜ん。
・まさかの続編決定
その先の展開は『ジェイソン』みたいな感じと思っていただければ大体近い。とにかくツッコミどころがありすぎるのだが、おそらく本作は「B級映画を作ろう」と思って制作されたものだ。ツッコミ待ちの可能性もあるため、「B級映画としてA級かどうか」の判断はB級映画好きの方々にお任せしたい。
展開は無茶苦茶で人が死ぬ以外にストーリーなど無いに等しいにも関わらず、本作は非常にテンポが良いため飽きずに観られる。悔しいが夢中で鑑賞してしまったことは確かであり、興味がある人には「ぜひ観なよ」と言うつもりだ。
なお今回の『血とハチミツ』が公開されるより前に、ホラー版プーさんは第2弾の制作が決定している。日本での劇場公開の有無は不明だが、どこかのタイミングでネット配信される可能性は高いだろう。本家プーさんとはあまりにも別物なので、プーさんファンがショックを受けることはなさそう……バカ映画を愛でる姿勢で第2弾の公開を待ちたい。
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.