バイデン大統領、一般教書演説でテック企業をメッタ切り

GIZMODO

「競争のない資本主義は資本主義ではない。搾取だ」

今年2度目になる一般教書演説でバイデン大統領はこう語り、巨大IT企業による過剰なデータ収集と競争阻害を規制する法律を与野党が協力して成立させることに意欲を示しました。

バイデン大統領の口から「反トラスト法(日本の独占禁止法)」のキーワードが出てくることは滅多にないですが、政権の布陣を見回すと、連邦取引委員会(FTC)委員長には、反トラスト法に精通している、リナ・カーン氏を任命しました。一部では、ビッグテックにもっとも恐れられている人物だとして取り上げられることも。

さらに、米国司法省で反トラスト法を担う司法次官補には、過去にビッグテックと戦った実績を持つ、弁護士のジョナサン・カンター氏が指名されていて、反トラスト法違反取締り強化のための政権を作り上げているようです。

こういった動き、有権者には受けがいいのですが、ハイテク大手も必死で議会にロビー活動(企業・個人が政府や国際機関に働きかける活動)を行っているし、ねじれ国会で法案が通りにくい壁もあるなか、はたして思惑通りに行くのでしょうか。

演説の大要は1月に大統領がWSJに発表した論説「Republicans and Democrats, Unite Against Big Tech Abuses(共和も民主もともにビッグテックの権力濫用と戦おう)」にあるとおりです。

ウクライナ電撃訪問でそれどころじゃなくなってしまいましたが、米大統領が「権力濫用」との認識に立って執務に当たっていることは覚えておいたほうがよさそう。演説のポイントを振り返ってみましょう。

1)半導体を国産に

「半導体不足による減産・価格暴騰」なんて二度とごめんだ。もう半導体はアメリカでつくる!
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まずは演説冒頭、未来を語るバイデン大統領。半導体製造は米国が世界をリードする!と宣言しました。

「半導体チップを発明したのは米国」と豪語しながらも、近年はアジア勢に先端技術をすっかり奪われていると焦る大統領。現代の電化製品はチップがないと動きません。それほど大事な産業の拠点が米国の外にある現状を、今さらながら悔やんでいるようです。

パンデミックでサプライチェーンがおかしくなると、その影響は太平洋をまたいでアメリカのあらゆる産業に波及します。「あんなことは二度とあってはならない」と決意も新たです。

具体的には、与野党が珍しく危機感を等しくして緊急で通過させた「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」で、米国内で半導体を製造するメーカー支援に520億ドル(約7兆円)もの予算を投入していきます。

この流れに乗るべく、Intelはオハイオ州に200億ドル(約2兆6986億円)をかけて大規模な半導体製造工場を建設しますし、Samsungもテキサス州に170億ドル(約2兆2940億円)かけて半導体製造工場(噂では3nm世代)を建設すると名乗りをあげています。

大統領からのたってのお願いで台湾のTSMCも気候の安定したアリゾナ州に進出を決めました。

アメリカのサプライチェーンはアメリカではじまるようにする」と意気込む大統領。日本政府も半導体誘致に6000億円用意しましたが、米国とは桁が1つ違うほどで、危機感のレベルがわかります。

2)「監視広告」反対

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SNSについては、13歳未満の子どもたちのデータを収集してターゲット広告を流すのを禁じようとする与野党の動きをとりあげ、「子どもを実験の道具に使うようなSNS企業については、その責任を追及すべき時が来た」と、激しい表現を使いました。

与野党が協調してビッグテックによる子ども・ティーンのオンラインの個人情報収集を止め、子どもに向けたターゲット広告を禁じる法案可決を目指す方針です。併せて、未成年者のデータ収集を自粛するよう企業に働きかけました。

SNS漬けにならないよう、利用時間を記録してオフラインの時間を確保することがメンタルヘルスケアにおいて重要なことは、2021年に米国公衆衛生局長のヴィヴェック・マーシー氏がまとめた「若い世代のメンタルヘルスに関する勧告」につまびらかに書かれています。

最近のCNNのインタビューでもマーシー局長は「企業が求める年齢制限は13歳。13歳ではまだアイデンティティも固まっていない。早すぎる」と述べたばかり。演説でも大統領がたびたび引用していました。

3)個人情報収集を全方位的に制限

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子どものみならず全年齢のユーザーの個人情報収集にも厳しい制限を加えたい考えのバイデン大統領。

特に法案成立を急いでいるのが、医療記録と位置情報の収集に関する規制の強化です。先のWSJ論説記事でも大統領は、プラットフォームを介して吸い上げられる「膨大なデータ」に警鐘を鳴らしています。

生体認証や医療のデータなどの個人情報収集には明確な規制を設ける、国家レベルのデータプライバシー法が必要とまで言っているんですね。

「そもそもこういったデータを企業が集めていること自体おかしいのだ」と書いて。

さすがに一般教書演説ではそこまで言いませんでしたが、このプライバシー法もまた「有権者に絶大な支持がありながら、なぜか国会では失速してしまう」アメリカ毎度のパターンを辿ってるホットトピックです。

4)反トラスト法を執行

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競争なくして健全な資本主義は成立しない、それは単なる搾取だと語るバイデン大統領。

もちろん槍玉にあがっているのは時価総額1兆ドルクラスのビッグテックです。

就任第1日目から大統領はビッグテックの敵を次々起用して国会にプレッシャーをかけ、 反トラスト新法をいくつか通過させようと動いています。通過すれば、Apple税もAmazon自社ブランド優先表示疑惑も急展開を迎えるでしょう

一部法案は与野党の支持を得て、昨年可決するかと思われましたが、結局はIT大手からのロビー攻勢に遭って塩漬けになってしまいました。あの話はどうなったんだ!墓から掘り起こして実現するぞ!と議員に訴えかけるバイデン大統領。

演説では「自社プロダクトに有利に働く大手プラットフォームはフェアじゃない。そうならないよう、反トラスト法の規制を強化する法令を与野党一致で可決させよう」と言ってましたよ。

先述のようにFTCと法務省に、対ビッグテックの専門家といえる人物を次々と抜擢したことで「反トラスト法オールスターチーム」であると進歩派から当初歓迎されたバイデン政権ですが、FTCも法務省もビッグテックの買収合併(MetaによるWithin買収など)を阻止できずにいて、まるで牙の抜けた獣のようです。

反トラスト法を専門とし、規制強化策の設計で政権をリードしてきたティム・ウー氏も、昨年暮れにホワイトハウスを去ってしまいました…

5)先端テクノロジーで中国には負けない

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演説の数日前に戦闘機で中国偵察バルーンを撃墜した大統領ですが、戦争は考えてないようです。

演説では戦争への不安をなだめるトーンで、習近平国家主席との話し合いで模索しているのは「公正な競争であって、紛争ではない」と明言しました。

今や米中経済戦争はAI、量子コンピューティング、半導体が主戦場。先端産業で「覇権」を目指す中国に対抗すべく、米国は同盟国と手を携えて「我が国の先端技術を死守し、われわれの国益に反する使われ方をしないようにする」と語りました。

6)演説でスルーしたトピック

通信品位法230条の改正

1996年に制定された通信品位法第230条でプラットフォームを運営する企業は、ユーザーが生成したコンテンツに対する法的責任が免除されていますが、 WSJ論説記事で大統領は「拡散するコンテンツ、使用するアルゴリズムに企業は責任を負わなければならない」と見直しを求めています。

具体的にどう改革を進めるかは一向に見えてこないし、最高裁では「ゴンザレス対Google」の歴史的裁判(パリ留学中ISISテロ襲撃で亡くなったノヘミ・ゴンザレスさんの遺族が、テロリストリクルート目的の動画を流したYouTube側の責任を追及している)で判事が免責条項キープの姿勢を示したばかり。まだ従来路線は続きそうです。

アルゴリズムの透明性

企業がアルゴリズムの操作で政治を動かしたり、陽動したりすることを恐れている政治家は大勢います。どんなアルゴリズムになっているのか公開すべきとの議論はあるのですが、この点も予想に反して割愛されました。TikTok

中国の話にだいぶ長い時間を割いた大統領ですが、TikTokの名前は出ずじまい。TikTokバンはなさそうです。28州では州政府職員の利用が禁じられましたが、まあ、その程度ですかね。対HUAWEIの強硬姿勢とはえらい違いです。

7)トランプの反応

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満員の議場でバイデン現大統領が一般教書演説する間、自身が作り上げた保守派SNS「Truth Social」で投稿をしていたドナルド・トランプ氏。現職当時とまったく変わらない威勢で健在さを印象付けました。

放ったツイート…もといTRUTHは計40発。自宅襲撃を防げなかったのはナンシー・ペローシの責任だとゴネて、ケビン・マッカーシーが議場で寝てると茶々を入れ、俺に任せたらウクライナの戦争なんてすぐ終わるのになと豪語し、税金のグチを言い、「よぼよぼバイデン」と毒づき、「俺がこんな演説やってたらワシントンDCから追い出されていただろう」と評するトランプ。

40本もつぶやいてるのに、ついぞビッグテックの話は出ませんでした。