競争入札は透明性のため?

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五輪談合事件についてはどこかのタイミングでまとまった論考を作成しようと考えているが、ここでは報道を見ていて気になった一つの点に触れておきたい。

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テスト大会における計画立案業務の発注について逮捕された組織委幹部は当初随意契約を念頭に置いていたが、「組織委上層部は入札の実施を決定」し、それは「公費が入る事業であるがゆえ、透明性を求めた」(TBS NEWS DIGより)から、とのことである。

「電通の手数料を減らせないか」その額50億…五輪談合の発端は、2017年の突然の要請か(TBS NEWS DIG Powered by JNN) – Yahoo!ニュース
■手数料削減の代わりに電通側が考えた策
関係者によると電通側は、自社が受け取る手数料減額の代わりとして、2つの策を組織委側に提案したという。
1つはテスト大会にも協賛企業をつけて協賛金を集めるこ

「入札は透明だから・・・」。一見するともっともらしいが、これはミスリーディングではないだろうか。

第一に、入札は透明だから実施するのではなく競争によるメリット=効率性を得るために実施する。裏を返すと、効率性が得られない、言い換えれば無駄が生じることが分かっているのに競争入札を強行するのはナンセンスだ、ということになる。

競争させるべきかどうか悩むときには、競争を優先するという判断は理解できるが、公費だから透明であるべきなので入札が妥当するというロジックには疑問がある。公費だから財源を効率的に用いなければならないので、だからその有効な手段として競争を用いる、というのが正しい。公費の場合、効率化のインセンティブが働きにくいからだ。

透明性の確保はその際に必要な条件だ。競争入札を用いても入札参加資格や仕様の設定、総合評価方式における評価項目の設定やその採点を恣意的に行うこともできる。競争入札だから常に公平、公正ではない。それを担保するのが透明性、すなわち情報の開示である。

随意契約の場合、特に特命随意契約の場合、競争入札よりも数段重い説明責任が生じるというのはその通りだろう。何故この業者と、この内容の契約を締結したのか。競争入札であればそれは競争の結果といえるが、特命随意契約の場合、そうは行かない。ただ、随意契約にもさまざまなタイプのものがあり、競争的なそれもある。競争の機能の仕方も多様だ。

競争入札は透明で中立で公正だから望ましいのではなく、透明で中立で公正に行われる競争入札が望ましいのである。そのような歪んだ理解があるから、持続化給付金業務委託に係る入札のあり方が批判されたとき、首相が国会の答弁で「一般競争入札のプロセスを経た(から問題ない)」旨の発言をしたのであるが、正しくは「公正なルールに基づく一般競争入札を公正なプロセスで実施した(から問題ない)」だ(本サイトの拙稿「持続化給付金問題② 公共契約において重要なのは手続的公正さ」より)。

また、「事業目的に照らし、ルールに則ったプロセスを経て決定された」ともいったそうだが、正しくは「ルールの趣旨を踏まえ公正に設定された手法に基づき、公正なプロセスを経て決定された」だ(同)。そしてその公正さが十分な情報の開示によって担保されているから問題ない、といえるのである。

入札が透明と思われているのは、その過程、手続、結果が公開されているからだ。だから入札が公正、公平に実施されているかが外部の目に晒される。随意契約も同様で、その過程、手続、結果が十分に公開されているのであればそれは透明、ということになる。

しかし随意契約、特に特命随意契約の場合、十分な情報公開がなされないことがある。「今後の調達活動に支障をきたす」というのが、発注機関が情報公開を拒む際の「テンプレート」だ。そういう調子だから、随意契約は不透明で競争入札は透明、という構図が作られてしまう。

五輪談合事件では、形だけ透明であるかのような競争入札が採用されていながら、その実、不透明に調整が行われていた。仮に随意契約であったとしてもその調整は不透明になされていたとは思うが、この事件は組織委が透明性の確保という体裁に拘ったが故に(結果的に)引き起こされたものと評価することもできる。

調整に関与した当事者が独占禁止法違反の可能性をどれだけ認識していたかは定かではないが、競争入札が採用されながらもそれとは異なる調整が続けられてきた事実に対して何らの問題意識も抱かなかったのだろうか。

公共契約の場合、手続の決定が先行するはず(そうでもないケースの存在は否定しないが)なのでそのような問題は生じにくいが、民間契約でかつ公的色彩が強いこのケースは、調整という実体が先にあり競争という手続が後からくればそれは独占禁止法違反に問われることがある、というコンプライアンス上の注意点を教えてくれる。