メモ
外装や内装はもちろん、電気系統や給排水システム、空調や断熱など、家を建てるとき、あるいはリフォームするときにはさまざまな要素が複雑に絡みます。どの要素も上等に仕上げた「Pretty Good House(PGH:本当に良い家)」を作るために必要なのは何なのかということについて、建築の専門家が解説しました。
Pretty Good House
https://www.prettygoodhouse.org/
アメリカのメイン州に集う建築家コミュニティは、PGHを考案する際に、各要素を一つ一つ吟味して段階的に検討していくそうです。その要素は、まず「経済」から始まり、「チーム」「気候」「デザイン」「熱」「水・湿気」「窓」「資材・構造」「機械設備」「電気・照明」「検証」「居住者」と続きます。「経済」という要素であれば、導入コストと生涯コストの兼ね合いや費用対効果など、各要素ごとにより細かい要素がツリー状に広がり、検討されていきます。コミュニティの一員であるマイク・メインズ氏は、それぞれの要素についてさらに詳しく解説しています。
◆経済
メインズ氏らが考案したアプローチで重要なのは、支出と利益のバランスをとることです。ちまたのアイデアではエネルギー使用量の目標値やその他の基準が用いられ、建築基準法を基に何らかの基準が定められているのに対し、PGHでは経済的に合理的かどうかを基準としています。
新築住宅とリノベーションを比較すると、経済的に合理的とはどういうことかが分かります。多くの場合、中古住宅は同等の新築住宅よりも安価に購入できますが、断熱材が足りなかったり、気密性が低かったり、あるいは冷暖房効率の低い設備があったりすると、中古住宅を改善する費用の方が高くついてしまうことがあります
経済的な合理性を判断する方法の1つは、費用対効果や投資収益率などと訳される「ROI」を調べることです。特に明確で計算しやすいものはエネルギーとメンテナンスの費用であり、現状の費用と新築・リフォーム後の費用を比較し、リフォームによってどれほど改善されるかを調べることができます。メインズ氏によると、複利とインフレの影響を無視した単純な計算式では、ROIが5%以上の改善は一般的に良い投資となるとのことです。
◆チーム
日本でも、一定の条件下であれば自分の家を自分で設計し、建築することが可能です。しかし、ほとんどの場合はプロに任せることになるはず。PGHにおける「チーム」とは、設計チームや建設チームなどのことを指し、メインズ氏は「良い専門家を雇い、全員で同じ方針を共有すること」が大事だとしています。
◆気候
国際基準評議会(ICC)は、国土を気候帯に分け、「暖房度日」と呼ばれる指標を算出しています。暖房度日とは、冬を暖かく過ごすために必要な熱量を計算する際に用いる指標です。このような指標を見ることで、地域ごとの環境を知ることができます。
◆デザイン
デザイン・設計の要素は多岐にわたります。デザインを考慮する上で大事なのは、家を建てる立地であったり、家の大きさであったり、窓の向きだったりとさまざま。北半球であればもちろん南向きの窓があるとベストですが、気密性や断熱性も考慮する必要があります。もちろん、見た目の美しさも大事です。
◆熱
どんな家でも、雨や冷気、熱気を遮断し、新鮮な空気を室内に取り込む必要があります。メインズ氏によると、「雨」「空気」「水蒸気」「熱」の順に対策方法を考えると良いとのこと。
◆水・湿気
熱も重要ですが、湿気の多い環境だとカビや菌類が増殖してしまう恐れがあります。壁に換気口を設置するなどして通気性を確保したり、耐久性に優れるポリエチレンの防湿材を使用したり、屋根の塗装を考慮したりして対策を行います。
◆窓
メインズ氏によると、窓やドアを検討する際に注目すべき3つの数値があるとのこと。その3つとは断熱性能を測る熱貫流率(U値)、太陽エネルギーをどれだけ取り込めるかを示す太陽熱利得係数(SHGC)、光を通す割合を示す可視光線透過率(VLT)です。
さまざまな窓や窓のコーティング方法がありますが、価格帯や機能のバランスをとることが必要だとメインズ氏。また、窓はフレームや操作性も大事です。
◆資材・構造
どんな揮発性有機化合物が含まれているか、などを検討し、室内の空気の質を悪くしないような材料や設備を使い、カーボンフットプリントなども考慮します。また、「資材は地元で手に入れるのが良い」とメインズ氏は提言。地域経済をサポートし、一般的に二酸化炭素排出量を小さく抑えることができるからです。
◆機械設備
機械設備には住宅の暖房や冷房、湿度調整に必要な機器と、換気や給排水設備が含まれます。冷暖房にはエアコンやストーブ、熱回収装置(HRV)などが使え、換気にはお風呂の換気扇を低速で回し続ける排気専用換気システムなどがあります。また、空気から熱を集めてお湯を沸かすヒートポンプ給湯機もあります。
◆電気・照明
照明は自然光と人工光に分けられます。日中は窓などのガラスを利用した採光により人工照明を減らし、夜間や採光が行き届かない場所ではLED照明が使えます。優れた照明デザインには、一般照明、集中照明、装飾照明、アンビエント照明などさまざまな要素が複雑に絡み合います。
電気については、太陽光発電システムのコストが下がっているため、太陽光発電システムを取り入れて自家発電を行うことも有効です。
◆検証
建物の構造や、空調システムや電気システムなど、さまざまな要素を専門家の協力を得て検証し、家が意図したとおりに機能することを確認するのは最重要。
◆居住者
たとえ良い家を作っても、住むときにエアコンを動かしすぎたり、最適解であるはずの使い方をしなかったりしては意味がありません。なぜそのような設計にしたのかを詳細に記載したマニュアルがあると便利です。
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