仕事でもプライベートでも、ありとあらゆる種類の判断を求められる中で、もっとも役に立つツールが「確率・統計学」です。難しそうに見えて、実は使える場面はたくさんあり、簡単に計算することも可能です。
例えばスーパーのレジで行列に並んで無駄に時間を取られてイライラする……そんな生活の身近な場面でも統計学は役に立ちます。サトウマイ著「はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち!?」から一部を抜粋・再構成して「待ち行列理論」を紹介します。
早くレジを通過するためのポイント
スーパーのレジ、病院の診察室、銀行のATM、空港の搭乗手続きなど、世の中のいたるところで順番待ちをする人の行列(待ち行列)が見られます。そんなときに役に立つのが、「待ち行列理論」です。この理論を使って、なるべく待ち時間の少ないレジに並ぶ、レジ戦争を勝ち抜く方法を紹介したいと思います。
一生のうちに、レジに並んでいる時間はどのくらいでしょうか。まずは、レジに並ぶ回数を計算します。寿命を80年として、20歳から毎日なんらかの買い物をしてレジで会計をすると仮定すると、(80−20)年×365日=2万1900回ということになります。
一生でレジに並ぶ回数2万1900回のうち、半分が「前の人の会計を並んで待っている状態」で、平均3分待つとします。すると、次のような計算式になります。
21,900回×1/2×3分=32.850分=547.5時間=約23日間
成人してからの人生の中で、約23日間も「ただ並んで待っているだけの時間」(自分が会計をしている時間は含まない)があるということです。移動時間であれば、本を読んだり音楽を聴いたりできますが、商品を持ちながら並んでいてはそうもいかないでしょう。
だとすると、なるべくこの時間を短縮したいと思うのも当然です。迎える側の企業としても、お客さんの待ち時間が少なくなることで、お客さんの満足度が向上し、業績のアップにつながるはずです。
みなさんは、「混んでいる時間帯のスーパーで、どのレジに並ぶのか?」をどのようにして決めていますか?
・待っている人数が少ない
・待っている人のかごの中身が少ない
・レジ係の手際の良さ
一番多い回答は、「待っている人数が少ない」ではないでしょうか? しかし、この選び方は、あまりおすすめできません。待ち人数よりも「そのレジがどれだけスムーズに流れているか」のほうが、レジ戦争では大事だからです。飲食店などでは、このことを「回転率」といいます。
レジがスムーズかを見極めるポイント
では、どこのレジがスムーズに回転しているのかの見極め方を紹介します。
(1)2人体制のレジに並ぶ
具体的には、2人体制でやっているレジに並ぶのが最善です。これが意外と盲点です。会計には、大きく分けると「スキャニング」と「会計」の二つのプロセスが存在します。スキャニングは商品のバーコードを読み取る作業で、会計はお金をもらってお釣りを渡す作業です。ここではこの二つを併せて「レジ通過」と呼ぶことにします。
店員Aさんがスキャニングをしているときに、店員Bさんが別のお客さんの会計をするという同時処理が可能です。POSシステムなどを製造・販売している株式会社寺岡精工の調査によると、購入点数が10点の場合、スキャニングの平均時間は約27秒、会計は約21秒という結果が出ています。
スキャニングと会計はおおよそ同じくらいの速度なので、2人体制にすることで処理量は2倍近くに上がることになります。実際には、購入点数や決済方法によってバラつきがあるので、2倍の処理量にはならないと思います。しかし、ここでは単純化するため2倍と仮定します。
(2)空いているレジに並ぶ
レジが混んでいるとき、使っていないレジが開放されて「お次にお待ちのお客様、こちらのレジへどうぞ~」と声をかけられます。つまり、レジの数が倍になるのです。ただし、この方法は運よくレジ開放イベントに遭遇できた場合なので、確実性は(1)に劣ります。大手スーパーでは、「3人並んだら空レジを開放する」という基準を設けているところがあるので、3人くらいが並び始めたら、空レジの隣レジに並ぶとよいかもしれません。
(3)手際が良いレジ係に並ぶ
レジの仕事というのは、単純作業な部分ばかりではありません。商品が痛まないように精算カゴに入れる順番を考えたり、タッチパネルの操作を覚えたり、イレギュラーな対応を求められることもあります。
ベテランのレジ係は、正確かつスピーディーに作業ができるので、処理能力が優れているといえます。「新人さんが担当するレジに並びたい」という人以外は、急いでいるときは手際の良さそうなレジ係のレジに並びましょう。
(4)かごの中見が少ない人がいるレジに並ぶ
1点の商品につきスキャニングに約3秒の時間がかかるので、なるべくかごの中身が少ない人がいるレジに並ぶのがいいでしょう。といっても、現実的にはそこまで見分けがつかなく、仮にひとつのレジのお客さんのかごだけ商品数が半分だとしても、会計の時間が短縮されるわけではありませんので、そこまでの効果は期待できないでしょう。
多くの人は「どのレジに並ぶか」を考えるとき、まずは「そのレジに並んでいる人数(列の長さ)」を見て、どこに並ぶかを決めていると思います。
しかし、大抵は「待ち行列はどこも大差ない」はずです。レジの処理速度が早ければ、その分待ち人数は減っていくため、たくさんの会計処理ができるところほど人が流れて頻繁にお客さんが来ます。
つまり、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁にくるか」ということも、「レジ係の手際の良さ」に依存しているといえるでしょう。その時点での「レジごとの待ち行列の長さ」を見るよりも、「どこがスムーズに回転しているか」を見極めたほうが、早くレジを通過できます。
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サトウマイ 合同会社デルタクリエイト代表社員 データ分析・活用コンサルタント
国立福島大学経済経営学類卒業。一般企業就職後、26歳で独立、データ分析・統計解析事業を始める。現在は企業のマーケティングリサーチや需要予測調査、商品開発支援などを行っている。数学アレルギーから学生時代より文系の道に進むが、統計学と出会いアレルギーを克服。株式会社野村総合研究所主催の「マーケティング分析コンテスト」入賞。学生や社会人向けに、データ分析をリアル謎解きとして楽しみながら、仕事に役立つ実践的なトレーニングを行っている。 URL http://delta-create.co.jp
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年2月5日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。