大声遠投大会、会場
夕方、家に帰る子どもたちが「ばいばーい」と叫ぶ声は、なんて遠くまで届くんだろうと思う。たがいに遠ざかりながら、姿は見えなくなっても、お互いの「ばいばーい」だけがまだ聞こえている。
人が道具を使わずにもっとも遠くまで飛ばせるのは、じつは声なんじゃないだろうか。
ハンマー投げの選手がハンマーを放す瞬間に叫ぶ声も、きっとハンマーより遠くまで飛んでいるに違いない。
※2007年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
読者の方に協力をいただきました
人の声はどれだけ遠くまで聞こえるんだろう。
そんな企画をやりたいとサイトを通じて読者の方々に呼びかけたところ、たくさんの方からご協力をいただくことができました。本当にありがとうございます。
さっそく舞台となる東京の豊洲公園にお集まりいただき、挨拶もそこそこに準備を始めていく。
まずはアタリをつける
海沿いのテラスのような場所に、10m間隔で120m向こうまで審判役の方に並んでいただいた。まずはこれぐらいでアタリをつけてみよう。
声だし役は、「ファミレス等ではまず店員さんに気づいてもらえません」という女性読者の多田さん。ぼくもレストラン等でははがゆく感じているので、その気持ちはよく分かる。今日はきっとみんな気づいてくれると思いますよ。
では多田さんどうぞ。
多田さんが声を出すと、「バババッ」と手前から旗が揚がっていく。声が届いたという合図なのだが、さながらその上を声が飛んでいっているように見える。
良かったですね。ファミレスなら注文、届いてますよ!
旗の色は、手前から50mごとに白、黄、赤となっている。上の写真、遠くに赤色の旗が揚がっているのが見えるだろうか。ということは少なくとも100mまでは簡単に届いているということだ。
もうちょっと後ろまで下がってもらって、どこまで届くかもう一回見てみよう。
最後尾をうしろへずらす
審判役の方の位置を後ろへずらしたいのだが、そちらの方向は階段になっていて、さらに先は芝生の広がる広場になっている。巻尺をだましだまし使い、最後尾をなんとか150m地点まで伸ばしていった。
さっそく再計測してみよう。今度はぼくが声を出してみる。
最後尾には、当サイトライターのざんはわ大北さんが待機して下さっている。携帯電話で確認してみたところ、150m地点くらいまではらくに聞こえるらしい。かといって、それより下がると車の音が大きくて聞こえなくなってしまうという。
がーん。どうしよう。
作戦会議
ここでいったん集まり、作戦会議をひらく。
ふつうなら主催者であるぼくが、つぎの一手をスマートに示すところだ。が、ぼくの策は「後ろに下がる」という単純な手ですでに尽きた。どうしよう。純粋に困った。
そのとき、読者の土本さんがこの状況を打開した。
「三土さん、三平方の定理ですよ。」
いっしゅん何のことか分からなかったが、丁寧に説明してもらってようやく理解できた。つまりこういうことだ。
上の図を描くのに一時間かかりました(本当)。というのはさておき、つまりテラスがせっかくL字型なので、奥じゃなくて横に伸ばそう、距離は計算で求めましょうという案なのだ。
なるほど!すごい!ぜひそうしましょう。
どうなる三平方
一番奥にいるざんはわの大北さんから、みなさん準備OKとの連絡があった。つぎの声だし役は、同じくざんはわの石川さんにお願いした。
今度こそうまくいってほしい。ぼくは半分祈るような気持ちだった。
無念、三平方
ざんはわ石川さんが声を出す。
今の目的は、声がどこまで届くかを知ることだ。そのためには、テラスの途中までは聞こえるが、そこから先は聞こえないという状態になってほしい。
すぐさま大北さんから電話が入った。「声、はっきり聞こえますね」と。
大北さんがいるのはテラスの一番奥。つまり残念ながら声の限界距離はまだ分からないということなのだ。距離にして約300m。恐るべし、声。
もはや対岸しかない
最初の場所へ三たび集合して、案を出し合った。画期的と思われた三平方のアイデアも現実の前に敗れた。もはやこれまでかと皆が感じていたそのとき、読者の近藤さんが口を開いた。
「行きましょう、対岸へ」
地図によると、対岸までは約700m。双眼鏡でないと見えないようなそんな距離に近藤さんが行き、こちらの声を聞いてみるという。
しかし歩けば30分はかかりそうな距離。こちらが心配していると、今日はバイクで来たのでそれでいきますとのこと。そ、それはすごい!
数分後、近藤さんから電話が入った。
真正面の対岸は残念ながら工事中で立ち入り禁止のようだった。その横の橋(晴海大橋)の上にいるから声を出してみて欲しいとのこと。
しかし近藤さんの姿はまったく見えない。
「今どのあたりですか?」
こちらにいるみんなで目を凝らしてみるが、それでも近藤さんの位置は分からない。(上の写真のどこかに写っています)
分からないながらも、とにかく声を送ってみるしかない。携帯電話で近藤さんにタイミングを伝え、声を出す。いちにの、さん!
叫んでいるざんはわ大北さんが持っているのはマイクではなく、ウェブマスター林さんの持ってきたデシベル計である。
記録した音量は88デシベル。「騒がしい工場内」と同じレベルの音量とのことだが、はたして橋の上の近藤さんに聞こえただろうか。
最後の賭け
すぐに近藤さんに電話をかけてみた。しかし答えは残念ながら
「やはり聞こえないですね……」
とのこと。
ただ、橋の上には車も走っていてこちらの声が聞こえにくいのかもしれない。近藤さんは、最後に一度だけ橋の上から「三土(みつち)さん」と叫ぶので、聞いていて欲しいといって電話を切った。
そのあいだに、目のいい読者の方が近藤さんを見つけたらしい。
「V字の橋脚の右側のところじゃないでしょうか」
風に乗ってかすかに声が聞こえてくる。
「み……さあああん! は……さああん!」
これはもしかして近藤さんじゃないか?みんなが感嘆の声を上げる。しばらくして近藤さんから電話があった。
「聞こえました?三土さん、林さんて言ったんです。」
はい!聞こえた。聞こえました!
たぶん1キロぐらいが限界
最後の青春映画みたいな写真は後からお願いして撮らせていただいたもの。何しろ一番左側には近藤さん自身が写っています。
しかし最後に近藤さんの声が聞こえたときはこれぐらいの気持ちだった。まさか肉眼で見えないような場所から声が届くとは。ただしその声はほんとにかすかなものだったので、たぶん一キロが限界だろうと思います。
暑い中、このような企画にご協力くださった読者のみなさま、本当にありがとうございました。