NASAが中心となって運用する赤外線観測用宇宙望遠鏡であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、これまで観測された中で最も冷たい温度の氷を観測・測定したことがNature Astronomyで発表されました。その氷には生命の構成要素につながる物質も確認されており、人類が居住可能な惑星についての理解が深まると見られています。
An Ice Age JWST inventory of dense molecular cloud ices | Nature Astronomy
https://doi.org/10.1038/s41550-022-01875-w
Webb Unveils Dark Side of Pre-stellar Ice Chemistry | NASA
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2023/webb-unveils-dark-side-of-pre-stellar-ice-chemistry
The James Webb Telescope detected the coldest ice in the known universe – and it contains the building blocks of life | Live Science
https://www.livescience.com/coldest-cloud-webb-telescope
James Webb Space Telescope discovers coldest interstellar ice ever seen | Space
https://www.space.com/james-webb-space-telescope-coldest-ice
ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として開発されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、2021年12月に打ち上げられ、2022年7月からメインセンサーを用いた観測が始まりました。打ち上げが行われてから、旧世代と比較して圧倒的に高精度な宇宙写真を撮影できたり、かなり遠方の銀河を鮮明に撮影できたりと、さまざまな活躍を見せているほか、2023年1月にはこれまで知られていなかった太陽系外惑星「LHS 475 b」を観察したことが報告されました。
ついにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が未発見惑星の観察に成功 – GIGAZINE
by NASA’s James Webb Space Telescope
そして、2023年1月23日に天文学、宇宙物理学、惑星科学分野で最先端の研究論文を掲載するNature Astronomyで発表された内容によると、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は新たに「これまで観測してきた中で最も冷たい氷」を星間分子雲の最深部で発見しました。氷の温度はカ氏マイナス440度(セ氏マイナス263度)で、絶対零度となるカ氏マイナス459.67度(セ氏マイナス273.15度)にかなり近い値になっています。研究チームはこの氷の研究プログラムを「Ice Age」と銘打ち、その初期結果を論文で紹介しています。
今回、科学者チームはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線カメラを用いて、地球から約500光年離れた「カメレオンI」と呼ばれる分子雲を調査しました。分子雲は凍った分子やガス、塵から構成され、星や惑星の誕生の場となると考えられています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が検出したこの分子雲の中には、硫化カルボニル、アンモニア、メタン、メタノールなどの分子が凍結していることが確認されています。研究者によると、これらの分子はいつの日か成長して星の高温核の一部となり、将来的には太陽系外惑星の一部となる可能性があるとのこと。また、居住可能な惑星を考える際に氷は炭素や水素、酸素などの重要な要素の供給源となる不可欠な存在であるため、今回の発見が重要な意味を持つとNASAは声明の中で述べています。
オランダのライデン天文台に勤める天文学者であるメリッサ・マクルーア氏は、今回の発見に関するNASAの発表の中で「私たちの観測の成果は、惑星を形成する数センチメートルサイズの小石に成長する星間ダストの氷について、その形成の初期段階における洞察を与えます。分子雲の中で形成された物質は、何百万年もかけて星や惑星の核となり、場合によっては人類が居住可能な惑星になる可能性もあります。そのため、生命の構成要素を作るのに必要な分子の形成経路について、新しい知見を開く発見と言えます」と述べています。
また、研究の共著者であるライデン天文台の天文学者ウィル・ロシャ氏は、「カメレオンIの分子を特定するために、分子雲の向こう側にある星からの光が、分子雲の中にある塵や分子にどのような形で吸収されるのかというパターンを分析しています。ここで、メタノールやエタノールのような複雑な有機分子を同定できたことは、このような特定の分子雲から発達する多くの星や惑星系が、分子雲からかなり複雑化が進んだ化学物質を受け継いでいくことを示唆しています」と発見の意義について説明しています。以下の画像は、分子雲の中の氷が特定の波長を吸収することから分析できる、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のスペクトルデータをグラフで示したものです。
この観測方法について、研究に携わったメリーランド州ボルチモアにある宇宙望遠鏡科学研究所のクラウス・ポントピダン氏は「氷は、後ろ側にある星の明かりに対するくぼみとして現れます。温度が低くて密度の高いエリアでは、星からの光の多くが遮られており、星の光を検出して分子雲の氷を特定することができます。この特定には絶妙な感度が必要でした」とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測の素晴らしさを主張しています。
マクルーア氏によると、今回の発見は惑星の原始状態で氷がどのように進化していくかを見ることができる最初の一歩にとどまります。そのため、具体的にどの混合物からなる氷が惑星まで維持されるか、つまりはどの元素が惑星の表面に届くか、といった今後の重要な発見につながることが期待されています。
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