論文の著者を査読者から分からないようにすると査読時の偏見を減らすことが3年間のテストで発見される

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一般的な学術誌が出版される際には、投稿された論文を専門の研究者が読んで内容の妥当性などをチェックし、学術誌に掲載するか否かの判断を行う「査読」というプロセスが行われます。しかし従来の査読方式では、論文の著者に対するバイアスが生じ、不平等であることが指摘されていました。そこで、イギリス生態学会は査読者と著者の両方を匿名化した新たな査読プロセスの検証を行いました。

Double‐blind peer review affects reviewer ratings and editor decisions at an ecology journal
https://doi.org/10.1111/1365-2435.14259


Double-anonymous peer review reduces reviewer bias, finds three-year trial – British Ecological Society
https://www.britishecologicalsociety.org/double-anonymous-peer-review-reduces-reviewer-bias-find-three-year-trial/


多くのライフサイエンスに関する学術誌では、査読を行う際に査読者の所属や名前などを論文の著者に対して非公開にする「単一匿名」による査読が行われています。

一方で従来の単一匿名方式では、査読者から著者の情報が筒抜けになっており、性別や国籍、所属に関して、査読者による意識的または無意識のうちに判断に偏見が入ってしまい、査読が台無しになってしまうことが指摘されていました。

そこで、イギリス生態学会は査読者の情報に加えて論文の著者の情報も非公開にすることで、査読のプロセスにおけるバイアスの可能性を軽減することができるかについての調査を行いました。この方式についてイギリス生態学会は「二重匿名査読」と呼んでいます。


イギリス生態学会が2019年から2022年の間に行った調査では、査読を受ける著者は自身の情報を非公開にして論文を提出する必要がありました。また、提出された論文のうち、ランダムに選択された半数の論文には著者の情報がタイトルに記載されていました。

調査の結果、単一匿名方式での査読を行った場合、裕福な国と英語能力が高い国を拠点とする著者の論文が掲載される傾向が高いことが判明しました。一方で、二重匿名査読を行った論文では、著者の情報が匿名化されると、査読者は誰の論文を査読しているのかを知らないため、査読者による偏見が減少することが示されました。

なお、著者の詳細な情報を匿名化しても、性別の違いが査読者の評価や編集者による決定に影響を及ぼすことはなかったとのこと。


イギリス生態学会における研究チームのチャールズ・フォックス氏は「今回の私たちの調査では、高所得の国や英語圏の著者が、査読プロセスにおいて大きな利益を得ていることが判明しました。一方で二重匿名査読を行って著者の身元を匿名化することでこれらのバイアスが減少し、査読のプロセスが公平になることが示されました」と報告しています。

さらにフォックス氏は「査読を行う際に公正で偏見のないプロセスを経て学術誌が出版されることは、学術的に非常に重要です。二重匿名査読の調査の結果は、学術誌の出版プロセスにおけるバイアスの影響を最小限に抑えるための最良な方法です」と述べています。

研究チームによる調査の結果を受けて、イギリス生態学会では学術誌の出版の際の査読プロセスを従来の単一匿名方式から二重匿名査読に移行することを明らかにしています。イギリス生態学会の出版ディレクターのアンドレア・バイアー氏は「イギリス生態学会は公平なプロセスを経て学術誌を出版することに尽力しています。論文の著者の経歴などに関係なく、発表される研究や論文が公平なプロセスで査読および掲載の選択が行われることが非常に重要です」と述べています。


またイギリス生態学会の出版委員会委員長であるロブ・フレックルトン氏は「イギリス生態学会を代表して、出版委員会は二重匿名査読方式を受け入れて公平な審査プロセスを導入することを約束します」と述べています。

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