水産養殖DX最前線–ビジネスの大前提は「地球規模での社会課題解決」

CNET Japan

 いま、水産養殖の現場では、地球温暖化による海水温上昇や海水面上昇、働き手の高齢化や人材不足など、喫緊の課題が山積みとなっている。一方で、テクノロジーや新しいビジネスモデルによって、地球規模での社会課題の解決と、水産養殖業における新たな事業創出、両方を同時に目指す日本発の取り組みが、世界でも注目を集めつつある。

 「フードテックで変わる食のエコシステム~生産から消費まで~」と題して、10月25~29日にオンラインで開催された「CNET Japan FoodTech Festival 2021」。そのなかで、水産養殖の最前線でテクノロジーを活用して奮闘するウニノミクスとウミトロンの2社がパネルディスカッション形式で登壇し、先進事例を紹介した。モデレーターは本誌CNET Japan編集長 藤井涼。

(右下)ウニノミクス 日本事業推進の山本雄万氏、(左下)ウミトロン 共同創業者/マネジング・ダイレクターの山田雅彦氏。右上はモデレーターのCNET Japan編集長の藤井涼
(右下)ウニノミクス 日本事業推進の山本雄万氏、(左下)ウミトロン 共同創業者/マネジング・ダイレクターの山田雅彦氏。右上はモデレーターのCNET Japan編集長の藤井涼

磯焼け対策を目的とした、循環型ビジネスを構築

 最初に登壇したのは、日本をはじめ多くの国で深刻化している磯焼け問題に挑む、ウニノミクス。日本事業推進を担う山本雄万氏は、「ウニノミクスは、磯焼け対策を目的としたウニ畜養を世界規模でおこなうスタートアップ企業。2011年の東日本大震災で被災した、宮城県の漁師さんとの出会いをきっかけに、プロジェクトを開始した。2017年に株式会社を設立して、日本はもちろんアメリカ、カナダ、台湾、ノルウェーで活動している」と挨拶した。

 同社が着目する「磯焼け」という環境問題かつ社会課題。実はいま、地球規模での大問題となっているが、この社会課題を理解するには、「藻場」の重要性を知ることからだという。藻場とは、海の中にある海藻の森のこと。陸上の森林と同じく、二酸化炭素を吸収するため、地球温暖化対策において重要な役割を担っている。また、海の生き物の産卵場所や住処としても機能しており、生物多様性の面においても欠かせない。

 山本氏は、藻場の説明に続けて、「この藻場がどれくらい重要なのかを示す、研究がある」と話して、生態系サービスという概念を紹介した。

 「生態系サービスとは、人間が生命を維持して生活するために、それぞれの生態系が人間に提供してくれている機能や利益を、経済価値に変えた概念。2021年に発表された最新の研究結果によると、藻場1ヘクタールが提供する生態系サービスの経済価値は、約1700万円。同じ面積で比較すると、熱帯雨林の29倍、亜寒帯林の50倍という結果になっている。藻場は自然環境だけではなく、我々の経済活動にとっても非常に重要な役割を果たしている」(山本氏)

藻場の重要性
藻場の重要性

 しかしいま、藻場が世界中の海から消えつつある、深刻な現状にあるという。「磯焼け問題」だ。本来であれば海藻が生い茂っているべき海底で、温暖化などの環境の変化がきっかけとなってウニが大量発生し、異常繁殖したウニによって貴重な海藻が食い荒らされるという現象が、日本だけではなく世界各国で起きているのだ。このため多くの地域では、補助金でウニを駆除している。ウニといえば貴重な資源となり得るが、餌となる海藻が少ない海域に生息しているため身がほぼなく、商品として価値がないのが現状だという。

健全な藻場の様子
健全な藻場の様子
磯焼けの様子
磯焼けの様子

 ウニノミクスは、このような環境問題かつ社会課題である「磯焼け」を解決するために、水産の技術を用いることで循環型ビジネスを構築しようと取り組んでいる。山本氏は、「磯焼けの改善と藻場の修復を目的に、これまでは駆除して廃棄していた空っぽのウニをしっかり育てて地域特産品にしていく畜養に取り組んでいる」と説明した。そのために同社が注力してきたのは、「飼料技術」「機材技術」「畜養ノウハウ」の3つの研究開発だ。

磯焼け対策:海のミクスが目指す姿
磯焼け対策:海のミクスが目指す姿

 1つめの「飼料技術」では、ウニ本来の味を引き立て、成長促進に特化した専用の飼料を開発した。山本氏は、「北海道や東北のウニが美味しいのは、その地域にすごく美味しい昆布が生えていて、ウニがそれを食べるから」だと説明して、持続可能な方法で収穫された食用昆布の加工時にでる端材を有効活用して餌にしていることを紹介した。1990年代にノルウェー国立水産研究所(Nofima)で研究された飼料をもとに、日本農産工業が委託製造しているという。ホルモン剤、抗生物質、遺伝子組み換え素材、保存料などは一切不使用だ。

 2つめの「機材技術」では、ウニに特化した閉鎖循環システムを研究開発し、実用化した。陸上養殖の技術が最も進んでいるのはヨーロッパだといわれている。ノルウェー国立水産研究所、ノルウェー、オランダの養殖技術企業Cflow、Van Arkel Aquaculture Solutionsと連携して、大規模生産を想定したウニ専用のシステムを研究開発したという。山本氏は、「陸上での畜養なら、海を汚さない、台風や赤潮など自然環境の影響を受けにくいところで飼育、出荷できる、ひいてはより安全な労働環境の提供にもつながる」とメリットを強調した。

 3つめの「畜養ノウハウ」については、世界中のいろんな地域の磯焼けのウニを使って、研究開発や実験を行ってきたそうで、写真でその一例を紹介した。山本氏は、「品種が違っても我々の餌や水槽の技術を用いることで、約2ヶ月という短期間で商品となるウニへ育てることができ、高品質のウニを年間を通じて安定供給できるということを実証してきた」と、これまでの取り組みを紹介した。

畜養ノウハウ 高品質のウニを年間安定生産・供給
畜養ノウハウ 高品質のウニを年間安定生産・供給

 このように、世界中のいろいろな地域で実証実験を重ねるなか、最速での事業化は日本で実現したという。大分県の漁業者と、2017年から共同で試験的に畜養を開始したところ手応えがあり、2019年3月に商業規模でウニ畜養を行う会社「大分うにファーム」を共同で設立。磯焼け対策を目的に商業規模でのウニ畜養を行う企業として世界初となる。2021年夏より、まずは大分県と東京の飲食店を中心に、「豊後の磯守」という商品ブランドで販売を開始している。

大分うにファーム設立
大分うにファーム設立

 ウニノミクスが地球規模の社会課題解決を加速するために重要視するのは、他業種との連携だ。NTT東日本とは、AI、IoT等のICTを活用したウニ陸上畜養トータルソリューション構築に向けた共同実験を行っているほか、エネオスホールディングスとは、ウニ畜養事業を通じたブルーカーボン事業推進、脱炭素社会を加速するため協業を促進している。山本氏は、「磯焼けで苦しんでいる地域に、ウニ畜養に必要となる技術とビジネスモデルを、全国規模、世界規模で横展開していきたい」と話して、話を締めくくった。

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