キューピー人形を増毛してつくる漫画「奇面組」の人々

デイリーポータルZ

カルガモの赤ちゃんが初めて見た生き物を親だと認識するように、私は人生で初めて読んだギャグ漫画である「奇面組」のことを、この世で最も面白いギャグ漫画だと思い続けている。

(※奇面組(漫画)は「3年奇面組」「ハイスクール奇面組」「フラッシュ奇面組」「帰ってきたハイスクール!奇面組」の4シリーズがありますが、本記事ではそれら4つをまとめて「奇面組」と呼ばせていただきます。)

社会人。体育が嫌い。大人になった今でも大抵の物事を「体育よりマシか、否か」で判断している。

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ところで、奇面組といえばこの2頭身デフォルメだ。

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※「ハイスクール!奇面組 9巻 p.167/新沢基栄」(集英社)より引用

この2頭身、何かを思い出しませんか?

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そう、キューピー人形ですね。ということで、今回はキューピー人形で漫画「奇面組」の人々を作っていきます。

 

まずは主人公である零くんを作っていこうと思ったのだが、とりあえず奇面組をご存じない方のために零くんがどのような髪形をしているのか見ていただきたい。

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※「3年奇面組 6巻 p.171/新沢基栄」(集英社)より引用

あからさまに難解。

一旦奇面組主要キャラの髪型の難易度を整理しよう。

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キャラによって難易度に差があるので、比較的簡単そうな人から手をつけて、徐々に技術を上げていこうと思う。

ちなみに私はキューピー人形の毛髪など一度も作ったことがない。

(キューピー人形の増毛方法については先行研究がいくつかあるので、それらを参考にしつつ進めていきます。私が特に参考にさせていただいたサイトはこちらです。キューピー人形のアレンジ方法全般について非常に丁寧に解説されています。)

1体目・切出翔

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最初につくるのは色男組リーダーの切出翔くん。

用意した道具はこちら。

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一体目なので工程を軽く説明しつつ進めていく。

①頭の成形

まずはキューピー人形の本来の髪をそぎ落とす。

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カッターでざっくりと削り、爪やすりなどで軽く整える。

②髪を用意する

先駆者が「ヘアピースを作るべし」と書いていたので、作る。

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なぜジップロックかというと、手近にあったからです。
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ヘアピース

これを何個か作って頭に貼り付けていくという寸法だ。

③髪を頭に貼り付ける

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作業環境の全体図はこう

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「頼む、出来てくれ」と念じながら貼り付ける。
この時点では完成するビジョンが全く見えず、「無理かも…」と思った。

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不安でイレギュラーなところから汗がにじみ出る
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できた…

…一応形にはなった。一作目としては妥当な出来…ということにしておく。

本当に全て探り探りでやっているため、「こうすると上手くいきますよ♪」ということが何一つ言えない。

しかし、これで自分の力量がわかったので、少しやる気がでてきた。ここからが本番だ。見ていてください、俺の成長を。

(※あと10体あるのでここからは駆け足でいきます)

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2体目・河川唯

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今回は使用するヘアピースを全体的に固めてみる(先ほどは根本だけ固めていた)。

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こうしたほうが扱いやすいらしい。言われたことはとりあえず試してみる素直さが私にはある。

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この時点で既に先ほどとは全然違うのがわかるだろうか。

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できた。

たしかに全体を固めたヘアピースのほうが扱いやすい。しかし、強制的にシルエットがストンとしてしまうので、その点に関しては改善の余地がありそうだ。

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そして、若干後ろ髪を切りすぎた。キューピー人形の等身を考えると、少し長めに残した方がイメージに近い仕上がりになるのかもしれない。

3体目・似蛭田妖

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ヘアピースを貼り付けるところまでは同じ。

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両サイドの髪は軽く後ろに流すような仕上げにする。なんとなくそういうイメージなので。

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ちょっとずつやる
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…完成

画面越しにも伝わるでしょうか、私の成長スピードが。

4体目・天野邪子

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邪子ちゃんの髪形の難しいところは前髪のハネだろう。

ハネは省略することも考えたが、最終目標の零くん(ハネがたくさんある)に取り掛かるまでに攻略しておく必要がある。やるぞ。

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髪色が暗いと接着剤が乾いた時の白さが目立つので、髪の表面に塗布しないようにだけ注意する。

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さて、問題のハネ部分である。

まずこのようにパーツを作った。

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床に落としたら二度と見つからない。限りなくゴミに近いので。

これの根本の部分を半分に分けて、地肌とベースの髪に馴染ませるように貼り付けたのが、

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これである。

まあ…まあまあいいか…という感じの出来だ。今の私の技術と知恵ではこれが精一杯だった。

そして、ここで初めて「服は???」ということに気づいた。髪が生えると途端に全裸感が際立つ。
服、誰が作るんだろう。

私か。

ちなみにこのキューピー人形のサイズは3.5cmである。

※ここでこの記事のネタバレをします。この先、私のキューピー人形増毛技術は着々と向上します。
よって、これ以上作業方法に言及するとマジすぎる説明になってしまうため、ここからは私の奇面組にまつわる思い出話9割・工程説明1割で進めていきます。

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5体目・物星大

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初めて奇面組を読んだのは、小学1年生の頃だった。

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今から約20年前。母の実家に帰省した際のことである。暇を持て余していた当時小学一年生の私に、「これ面白いよ」と母が漫画を差し出した。

それが私と奇面組との出会いだった。

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完成 かなりかわいい

今まで読んだことのある漫画といえばドラえもんとこどもちゃれんじの勧誘漫画程度だった私は衝撃を受けた。

おもしろすぎる、と。

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ちなみにキューピー人形はライティングによって一気に人相が悪くなる。そういうところもかわいい。

わからない部分は読み飛ばしながら、話の意味が理解できる部分だけをすくい取って笑っていた。それでも十分に楽しかった。

6体目・冷越豪

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本当にすごいものは、意味がわからなくても「なんかすごい」ことが伝わる。幼い直感を命綱にして、何度も読み返した。

ちなみに、小学一年生だった私にとっての奇面組における「わからなさ」というのは主に、漢字と昭和ネタのことである。

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途中経過。ヴィラン感が拭えない。怒髪ってこんな感じだろうか。

奇面組は母の実家に所蔵されていた。

ただ、所有者は母の妹だったので、全巻丸ごと持ち帰るようなことはしなかった。
母の実家に帰省する度に2〜3冊借りては、次に訪れた時に返却するという、貸本のような扱いをしていた。

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落ち着いて髪をまとめる

借りた数冊を、次に返すまでに万回読んだ。

大人になってから同じ漫画をなん度も繰り返し読むことはほぼない。当時は好きだから読んでいたというのは勿論だが、単純にそれ以外やることがなかった。

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このままだと老舗旅館の女将だが、眉毛を足すと

「いや、勉強しろよ」と思うが、多分今あの時に戻っても私は万回奇面組を読む。

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豪くんだ

きっと何度ループしても、宿題はおざなりにして奇面組のキャラの名前を脳みそに刷り込むだろう。同級生がイケパラや有閑倶楽部(ドラマ)の話をしているのをぼんやりと聞きながら、脳内に埋め込んだ奇面組を読み返すに違いない。

7体目・大間仁

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やはり、あの頃の奇面組は私にとってそれほどに衝撃的で、刺激的な娯楽だったのだ。

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このように、母の実家に帰省する度に、頃合いを見計らって奇面組所蔵部屋(母の妹の部屋)に行き、まだ手をつけていない数冊を拝借する。というのを繰り返しているうちに、ついに全て読み終わってしまった。

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こういう作業中は絶対に猫の邪魔が入る

しかし、正確に言うと、「全て」ではなかった。
奇面組所蔵部屋に所蔵されていたのは「ハイスクール!奇面組」の14巻までだったのだ。

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顔がキューピーちゃんのままなので仁くんぽさが薄い

ここで一旦奇面組のシリーズ構成についておさらいする。

奇面組は「3年奇面組」「ハイスクール!奇面組」「フラッシュ奇面組」「 帰ってきたハイスクール!奇面組」の4シリーズがある。その中でも最も巻数が多く、奇面組シリーズのメインとなっているのが「ハイスクール!奇面組(全20巻)」であり、この「ハイスクール〜」で奇面組のお話は一旦最終回を迎える。

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試しに豪くんと大くんで挟んだら、途端に仁くんに見えてきた 人の顔は環境によって変わるのだ

…困った。14巻という中途半端なところで突然手を離されてしまった。

続きが読みたい気持ちはもちろんあった。でも、当然本屋には売っていないし、子どもの力ではどうすることも出来なかった(ネットで中古品を買うという発想がなかったし、親にも言えなかった)。

 

そこで私の中の奇面組は一時休載となった。

8体目・出瀬潔

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その後はもう何周か読み返したり、特に好きな巻を繰り返し借りて読んだりした。

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現段階では1番難しい どういう構造なんだ

それから約10年の月日が流れた。あれは高校三年生の時だった。

はたと、「もう自分で買えるじゃん」ということに気づき、ネットで全巻購入した。初めての大人買いだった。

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なんか…………逆にどう思います?

私はもう……1周回ってよくわからない………何も…………………

9体目・宇留千恵

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ハイスクール!奇面組の最終回について、あまり言及するとネタバレになるので、ここでは内容についての感想は避ける。

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↑うける。どうなっちゃうんだろうね。

私にとっては約10年越しの最終回。

なんだか落ち着かなくて、急いで読んだことを覚えている。
そしていざ読み終えた時、そのあまりのあっけなさに拍子抜けした。

内容がどうとかいうことではない。
私の中で盛大に広げられた風呂敷は、もうずっと前に畳まれていた。そのことが、勢いまかせに「カートに入れる」ボタンを押しただけで簡単に確認できてしまったからだ。

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そもそも、物語の半ばで長いこと足踏みしている間に、あまりにも作品が自分の中で強く根を張りすぎていた。そうなってしまったら、どのような終わり方をしたところで今更感情を大きく動かせるはずもない。内容なんて正直どうだって良くて、ただただ「終わっていたんだな」というのが、率直な感想である。

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ポニテのくるくる、前からだとなんも見えなかった

もし奇面組所蔵部屋に最終巻まで置いてあったら、それはどんな最終回だっただろう。
数度読み返した後、私は自分の部屋の本棚の一軍のスペースをごっそりと空けた。

そこに見慣れた背表紙を一堂整列させたとき、ようやく私の中の奇面組は連載終了した。

おわり。

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10体目・雲堂海

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そうこう言ってる間にもうすぐ終わりそうですね。
スパートかけて行くぞ〜。

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このようにピンセットで毛先を整えながらどうしようか考えていると、ふと完成したイメージが見える瞬間がある。その幻影だけを信じて作る。

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これは毛のハネのパーツ。床に落としたらすぐに諦めて新しいのを作るのがコツ

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写真撮ってて気付いたが、実物の方が上手く見える。これはマジ。本当はもっと繊細で綺麗なんです。信じて。

11体目・一堂零

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ここまで長い道のりでした。

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眉は消す
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ハネを付ける
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頭頂部の2本の毛を付けるだけで一気に見栄えが良くなる。コメダ珈琲のソフトクリームにおけるさくらんぼと一緒。

当初想定していた以上の仕上がりに「この人(私)ってこういうことができるんだな〜」となった。なんなら零くんが今までで1番イメージ通りの出来栄え。よかった。ほっとしている。

服をつくる

ここにいたるまでに来る日も来る日もキューピー人形に襲撃される夢と誰かの髪を切りすぎる夢を見続けた。

とにかく早く手を離したくて爆速でこさえた服がこちら。

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若干適当に見えるのは、私が学ランにあまり興味がないからです
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女子制服は好きなのでわかりやすく手が込んでいる

 

まとめると、こう

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いや、多。

一応キューピー人形の増毛方法について、私が思うポイント的なものなどをまとめておく。

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とにもかくにも、とりま手動かしてPDCA爆回ししてこ〜🎶という感じです。

 

では最後に、私が一番好きな奇面組のキャラを発表して終わりにします。

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鈍ちゃんです。

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(※各キャラクターの髪色と服の色は、華やかさを優先して主にアニメ版を参考にしました)

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「猫と攻防を繰り広げながら作ったんだな〜」と思って見てください。

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