楽天が10年かけた「地域創生事業」の手応え–デジタル人材育成で自走できる地域に

CNET Japan

 2013年に立ち上がった楽天の地域創生事業が、10年間の地道な草の根活動を経て、全国に広がりつつある。「楽天ふるさと納税」をはじめとする楽天の70のサービスと、楽天IDに紐づいた膨大なマーケティングデータを、自治体や地域の事業者、住民らがメリットを享受できる形で、しっかりと活用できるよう地域に伴走している。

 地域創生事業を手がける3人のキーパーソン、楽天グループ 地域創生事業 共創事業推進部 ジェネラルマネージャーの塩沢友孝氏、地域創生事業 エリアパートナーシップ推進グループの高橋愛氏、地域創生事業 エバンジェリストグループ マネージャーの小泉洋子氏に、最新の取組内容と直近の成果を聞いた。

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楽天「地域創生事業」3つの強み

 1997年創業時から「イノベーションを通じて、 人々と社会をエンパワーメントする」を掲げてきた楽天が、地域創生事業を開始したのは2013年。もともとは「インターネット通販で地域経済を元気にしていきたい」との想いから部署が立ち上がったという。

 最初は3人で立ち上がった地域創生事業も、いまでは専任100人以上の大所帯。「しっかりと人の手をかけないと、地域創生の成果は出ない」と話すのは、地域創生事業 ジェネラルマネージャーの塩沢友孝氏だ。

楽天グループ 地域創生事業 共創事業推進部 ジェネラルマネージャー 塩沢友孝氏
楽天グループ 地域創生事業 共創事業推進部 ジェネラルマネージャー 塩沢友孝氏

 「10年間、Empowermentという言葉を、一貫して大切にしてきた。地方自治体や地域の事業者さんに対して、私たちのサービスを提供していくことによって、地域経済が活性化していく。それによって、その地域にいる住民の方々もメリットを享受でき、その方々がさらに楽天のサービスを活用してくださる。このサイクルを回していくことが、地域創生事業がお役に立てるところだと考えている」(塩沢氏)

 2021年のふるさと納税の市場規模は8300億円。あと数年で1兆円と言われるなか、2023年1月現在で楽天は、約1700の基礎自治体のうち、約1500と接点を持つという。

 楽天ふるさと納税をメインサービスとしつつ、活用を推進する過程で、地域の課題や集まった寄付の使途など、地域の声をしっかりと聞く。そのうえで、「楽天市場」「楽天トラベル」「楽天ポイント」など、70を超えるサービスも横串で活用しながら、地域創生に取り組んでいる。

 今後は、楽天に蓄積されたビッグデータのマーケティング活用や、プラットフォーマーとしてサステナブル消費の拡大を目指すことなども、重要視していく。

 そんな楽天の地域創生事業の強みは、大きくは3つある。1つめは、もはや社会インフラになりつつある、70以上のサービス。2つめは、楽天会員という1つのIDに紐づく形で蓄積された膨大なデータ。3つめは、地域が主体となって楽天のサービスやデータを使いこなすことを目指す人材教育だ。

 「おそらく、3つめの人材教育こそ、楽天にしかできないこと。ややもすると非効率だと言われがちだが、地域の人たちが自ら考えて、自ら自分たちで手を動かして、自分たちの地域を成長させるために自走していく、その支援をすることが私たちだからこそ担える役割だと思っている」(塩沢氏)

43自治体と包括連携協定、新たな「2つのソリューション」

 多様化する地域課題に応じるために、自治体との連携も強化してきた。2022年4月時点で、43自治体と包括連携協定を締結。また、地域の事業者向けセミナーの開催、地域にある魅力ある商材の発掘なども、地域創生事業に所属する専任コンサルタントが一手に担い、自治体に伴走している。

 地域創生事業エリアパートナーシップ推進グループの高橋愛氏は、「2008年から包括連携を進めてきたが、私たちの部隊も大きくなり、楽天グループのサービスも70を超えて、協定の内容はかなり充実してきた」と話す。

 潮目が変わったのは2020年。楽天ふるさと納税、楽天市場、楽天トラベルの3本柱に加え、楽天の多様なサービスも含めて、多面的なデータの利活用を目指す自治体が増えてきたという。

 2022年は、新潟県長岡市、神奈川県との協定や、北海道と日本郵政、楽天の3者が連携する包括連携協定なども締結。楽天が保有するデジタル技術やサービスを活用したDXの推進や、次世代教育、健康増進、エネルギーの地産地消、農業促進、ドローン活用など、多岐にわたる内容での協定になっていることが特徴だ。

 「地域創生におけるDX推進として楽天流関係人口の創出を目指している。地域の稼ぐ力を高めていくことが重要だ。そのために、楽天IDに紐づくマーケティングデータを活用して、その地域で経済活動をしたユーザーの規模感や関わり方を可視化して実態を把握し、地域との関わりが強いユーザーから関与度を上げていく。自治体が自ら企画、実行、振返りのPDCAをしっかり回していけるよう、支援したいと考えている」(高橋氏)

 直近では自治体の“自走”を目指して、楽天が保有するデータを第三者に特定されない形に加工して活用する、2つのソリューションの提供を開始した。自地域のデータを可視化できる、自治体専用のマーケティングデータ分析ツール「RakuDash(ラクダッシュ)」と、データ活用のノウハウを学べる、自治体のための教育サービス「RakuDemy(ラクデミー)」だ。

 RakuDashは、楽天ふるさと納税、楽天市場、楽天トラベルなどを経由して地域で経済活動したユーザー群の属性や、ライフステージ、嗜好などを把握でき、関係人口創出の企画のみならず、自治体として立案する総合計画の更新や、事業企画においてもヒントを得られるという。

 RakuDemyは、データの分析などに知見のない自治体であっても、RakuDashによるデータの活用方法を学べる。目下、ある自治体と共同で、職員が実践的にデータを読み解き、ペルソナを作成して、プロジェクト企画を立案するまでを、2日間で行うといったワークショップも実施中だという。

 また高橋氏は、「地域にいながら、地域外からお金を稼いでいくための取り組みも、支援している」と補足した。例えば、楽天市場のなかに「まち楽アンテナショップ」という公式アンテナショップを立ち上げて、Eコマースのノウハウが豊富で地域のためにも頑張りたい事業者と自治体をつないで運営体制を構築していった事例がある。

オンラインの「道の駅」のような、『まち楽アンテナショップ』
オンラインの「道の駅」のような、『まち楽アンテナショップ』

 「ふるさと納税ドキュメンタリー」もその一環だ。寄付の行方などの知られざる事実を動画で紹介するものだが、イベントの実施や告知など一過性の企画は、自治体から依頼があっても制作を辞退することもあるそうだ。あくまでも、地域の持続的な取り組みにつながらなければ、動画を作っても意味がないためだ。地域創生事業のコンサルタントが介在しなくても、地域が自走していける基盤が整うよう、地域を支援する姿がうかがえる。

地域住民のための「楽天エコシステム」活用

 「今後は、ECを通じた地域活性にも注力したい」と話すのは、2022年に新しく立ち上がったエヴァンェリストグループ マネージャーの小泉洋子氏だ。楽天市場の出店店舗同士や、自治体、地域の高校生や大学生などの次世代なども巻き込んで、地域ごとのコミュニティ形成を目指すという。

(左から)地域創生事業 エバンジェリストグループ マネージャー 小泉洋子氏、地域創生事業 エリアパートナーシップ推進グループ 高橋愛氏
(左から)地域創生事業 エバンジェリストグループ マネージャー 小泉洋子氏、地域創生事業 エリアパートナーシップ推進グループ 高橋愛氏

 2022年3月から、楽天市場の出店店舗が主体となって、地域の学生を対象とした次世代教育プログラムを実施中だ。起業家精神などを学べるキャリア講座、学生たちが地域の課題を解決していくプログラムを、地域の事業者や楽天の社員と一緒に行い、オウンドメディアや地域メディアなども活用してPRも行っている。

 例えば、新潟県長岡でのアントレプレナーシップサマープログラムでは、長岡市の課題解決を目指して、地域の学生がアイデアを出し、楽天市場の出店店舗が一緒になってアイデアをブラッシュアップした。長岡市役所の職員も混ざって何度も壁打ちを繰り返したほか、副市長の講演なども行われた。実証に終わらず、優れたアイデアを出したグループは、今後は長岡市の事業に参画していく可能性も出てきているという。

 「地域の事業者、自治体、教育機関、楽天の4者が関わる産学連携によって、学生も本気で取り組めて、地域の事業者も若者世代の価値観を吸収でき、自治体も本気になる。新たな地域課題解決モデルを、今後はどんどん増やしていきたい」(塩沢氏、小泉氏)

長岡アントレプレナーシップサマープログラムの様子
長岡アントレプレナーシップサマープログラムの様子

 地域住民が抱える悩みを解消するために、世代別のアプローチも考えているという。小泉氏は、「Z世代、子育て世代、現役世代、高齢世代と、それぞれ抱えているイシューがあるので、地域が抱えている課題ごとに適した、楽天70のサービスとデータを掛け合わせていく」と話す。

 例えば高齢者向けに、「楽天シニア」アプリを通じて、高齢者のデジタルデバイド解消と地域のリアルなコミュニティへの参加促進を同時に狙う試みもあるという。

 また2022年10月には、歩くだけでポイントが貯まる、「楽天ヘルスケア」アプリをリリースした。最初は歩数管理から始めてもらい、歩けば歩くほどポイントがもらえる仕組みを楽しみながら、食事管理、健康診断結果との連携など、健康増進を目的とする各種アプリの一元管理を目指すという。一方、行動分析データなどを活用して、その人に適した健康食をレコメンドするなど、楽天70のサービスとの連携も図る。将来的に、オンライン服薬指導と処方せん医薬品受取のネット予約サービスの提供も狙うという。

 塩沢氏らは、「地域の課題は幅広い。楽天のアセットを使って、私たちが地域の持続的な発展のために、私たちとして何ができるか。引き続き向き合っていきたい」と話した。

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