日本の超過死亡数は昨年、戦後初めて10万人を超えたと推定される。その原因は何だろうか。コロナが最大の死因であることは間違いないが、それで説明できるのは約4万人。残りの6万人以上はコロナ陰性で、循環器系疾患(特に心不全)や老衰(死因不明)など、コロナと直接関係のない病気が多い。
超過死亡はすべて「直接・間接のコロナ死」だったのか
これを説明するシンプルな仮説は、仁井田浩二氏のようにすべて直接・間接のコロナ死者だったと考えることである。昨年、コロナ以外に大きな感染症や災害は起こっていないので、この推論は論理的には成り立つ。図1のようにコロナ死者数(青い線)を3倍すると、超過死亡数(赤い棒グラフ)とほぼ同じで、時系列も一致している。
図1 超過死亡数とコロナ死者数(仁井田浩二氏)
これは実は西浦博氏もアドバイザリーボードに極端な仮定として出した仮説である。
60歳以上では循環器の疾患で13015人、老衰を含む異常所見・その他で15043人の超過死亡を(前年度比で)認めた。極端な計算として、(実際にはこの通りでないが)それら超過死亡全てが未観察なCOVID-19による死亡だとすると、観察・未観察の両方を含む死亡者数は41707人[~2022年7月]であり、60歳以上の致死率は3.14%。
超過死亡はすべて(未観察を含む)コロナ感染だと考えれば、数字の整合性はとれるが、問題は致死率が3.14%もあるのかということだ。ここでは未観察のコロナ死者を観察された(PCR陽性の)感染者で割っているが、無症状で検査しなかった人や陰性になった人を含めると、感染者はもっと多いはずだ。
かりにコロナの致死率をインフルと同じ0.1%とすると、超過死亡数10万人÷0.001=1億人が昨年コロナに感染したことになる。8波すべてを集計すると、ありえない数値ではない。
日本人の8割が感染する「オーバーシュート」
これは西浦氏が2020年に計算したオーバーシュートのシミュレーションとほぼ同じである。基本再生産数が欧州(ドイツ並み)のRo=2.5程度だとすると、最終的に日本の人口の79.9%(1億人)が感染する。
これは数学的には間違いではない。SIRモデルは単純な微分方程式なので、Ro=2.5で感染が拡大すると感染者数が指数関数で増え、人口の60%が感染して集団免疫になるまでに約1億人が感染する(赤の曲線の中の面積)。その途中でピークアウトする理由がない。
図2 SIRモデル(Ro=2.5)
重症化率を0.85%とすると85万人が重症化するが、これは人工呼吸器の数をはるかに上回るので、その半数が死亡するというのが、彼を有名にした「42万人死ぬ」モデルである。
これは西浦氏の独創ではなく、ファーガソンのモデルのコピーである。イギリスではファーガソンのモデルに近い状況になったが、日本では西浦氏の予測は大幅にはずれ、物笑いの種になった。
だがオミクロン株では、1億人が感染する「オーバーシュート」に近い状況になった可能性がある。ただ致死率は大幅に低いので、死者は3年で10万人だった。
問題はコロナ肺炎ではなく基礎疾患のケア
ここで問題なのは、コロナ死者の定義である。オミクロンではコロナ肺炎の死者はほとんどなく、大部分は死亡したときPCR陽性だった患者である。死んでも陰性だとコロナ死にカウントされないが、この区別には意味がない。PCR検査は廃止すべきだ。
オミクロンは弱毒化したので致死率は低いが、感染力が強いので死者が激増した。その大部分は、コロナ感染がきっかけになって基礎疾患で死亡した高齢者である。長期にわたる隔離や行動制限で「脆弱化」が進んだことも原因だろう。
したがって日本で必要なのは、入院で隔離してコロナ肺炎を防止する2類感染症のような対策ではなく、基礎疾患を悪化させない治療である。オミクロンの感染防止はほぼ不可能だが、重症化率は低いので問題ない。コロナ偏重の過剰医療をやめ、医療資源の配分を最適化すべきだ。
ワクチン接種には重症化防止効果があるが、感染防止効果はない。第3回接種のあと感染が激増したことから考えると、ワクチンが免疫を弱めて感染を拡大した疑いもある。60歳以下の健康な人がワクチンを打つのは、メリットよりリスクのほうが大きいだろう。