Glossy+リサーチ03: データドリブン型 のパーソナライゼーションに投資するブランドが増えている理由

DIGIDAY

これは、もっとも人気のある新興テクノロジーに関する調査シリーズの第2弾である。本シリーズはGlossyの姉妹サイト、DIGIDAYが5年前にまとめたレポートをフォローアップして、以前にレポートしたテクノロジーがどのように進化したかを考察、ブロックチェーンやロボッティクスなどの新しく登場したテクノロジーを探るものである。この記事ではマーケターが自然言語処理とデータドリブン型のパーソナライゼーションのAIツールをどのように活用しているかを考える。

Glossy+リサーチはエージェンシーやブランド、小売業者やパブリッシャーなどの組織の業界専門家388人にアンケートを行った。データドリブン型のパーソナライゼーションと自然言語処理を現在どのように使用しているか、そしてこれらのテクノロジーを将来どのように統合する予定であるかを尋ねた。また、Glossyは企業やエージェンシーの幹部にもインタビューを実施した。第3弾のレポートをお届けする。

オウンドコマース機能へのフォーカスはチャットボットがマーケターのサイトでホストされていることを意味する

マーケターが主にサードパーティのパートナーに構築を依存しているデータドリブン型のパーソナライゼーションアプリケーションと同様に、NLPアプリケーションは主に外部ベンダーによって構築されている。マーケター回答者の53%がサードパーティベンダーを使用してNLPツールを構築していると答えている。社内ソリューションとサードパーティソリューションを組み合わせてNLPツールを構築しているマーケターは3分の1未満であり、社内だけでアプリケーションを構築しているのはわずか18%であった。

2020年、ヘアケアブランドのアミカ(Amika)は、外部パートナーのチャットボットマーケティング会社、オートマット(Automat)を起用して、「エース(Ace)」という名前のチャットボットのNLPツールを構築した。アミカはそれ以前にも同社ウェブサイトにライブチャット機能を備えており、それで顧客は注文に関する簡単な問い合わせを行うことができた。しかし、同社はエースチャットボットを使ってショッピング体験をパーソナライズし、髪のタイプや探している製品、髪に関する目標について顧客に質問して製品の推奨を提供している。顧客がアンケートに回答した後エースは製品を推奨し、またアミカのニュースレターに登録する機会も提供した。

当時アミカのeコマース担当シニアディレクターであり、現在はeコマース担当バイスプレジデントであるロビー・ウェブ氏は、その当時のアンケートの回答完了率は57%であり、既存顧客と新規顧客の製品ニーズに関する貴重な洞察が得られたと述べている。アミカはその情報を広告のターゲティングとeメールキャプチャに使い、パーソナライズされたeメールマーケティングへの道を開拓した。

2020年、ディヴィッズ・ブライダル(David’s Bridal)は同じようにサードパーティベンダーのアップルビジネスチャット(Apple Business Chat)を起用して、「ゾーイー(Zoey)」というAIを活用したコンシェルジュチャットボットを構築し、倒産後の店舗に顧客を多く集めることを目指した。ディヴィッズ・ブライダルはゾーイーを利用してこのチャットボットとの会話から顧客の質問と洞察を収集して店内のスタイリストに伝えた。来店予約(ゾーイーでも予約ができるようになっていた)をした顧客が店に到着したとき、スタイリストは顧客の希望についてすでに説明を受けているわけである。

当時、ディヴィッズ・ブライダルのカスタマーサービス・コンタクトセンターオペレーション担当バイスプレジデントだったホリー・キャロル氏は、チャットボットがドレス購入に関する消費者の緊張を和らげるのに役立ったと述べている。「結婚式を計画するにせよ、完璧なウェディングドレスを選ぶにせよ、顧客にとっては非常にストレスフルな状況であることを知っている。混乱を緩和して、デジタルと実店舗の間でシームレスなハンドオフを行うことで我々は会話をつなげることができる」。

NLPツール構築は主に外部ベンダーに依存しているにもかかわらず、マーケターはチャットボット(もっとも使われているNLPの形式)を所有・運営するプラットフォームで主にホストしている。2022年、マーケターの46%は自社ウェブサイトやアプリでチャットボットをホストしていると述べている。

ブランドの多くは、消費者によるeコマースの利用が急増したパンデミックの間、自社サイトでチャットボットをホストするなど全体的なウェブサイトコマース機能を強化し始めた。ディヴィッズ・ブライダルとアミカにサービスを提供している上述のチャットボットは、サードパーティベンダーによって構築されたもののブランドのウェブサイトでホストされている。

チャットボットのホストプラットフォームとしてマーケターの間で所有・運営プラットフォームの人気が高まっている一方で、かつてチャットボットの展開にもっとも使われていたFacebook Messengerは2017年以降使用が減少。2017年には全回答者の88%が使用していたが、2022年にはチャットボットを使用しているマーケター回答者の42%が使用していると答えている。

Messengerのチャットボットアプリケーションは2016年にローンチされ、カスタマーサービスやコマースオプション、製品発見やエンターテイメントを提供するためにそのチャットボットアプリを使ったブランドから当初は多くの関心が寄せられた。しかし、チャットボットがリクエストの約70%に対応しなかったことをFacebookが発表した直後にその関心は低下した

Messengerチャットボットアプリケーションの使用が減少したことに対応するため、Facebookは2019年にこのサービスに新機能を追加した。それらの機能はリード生成と取引の増加を図るもので、ストーリーズの広告を上にスワイプするか、Messengerに直接移動する広告をクリックするとユーザーがMessengerへ送られる機能が含まれていた。たとえば、バーガーキング(Burger King)はこのサービスを使って、顧客が食事の計画を立てたりMessengerを通じて支払いを行えるようにした。Facebookの取り組みはある程度効果を上げているようだ。というのは、チャットボットを採用しているパブリッシャーのほぼ半数が2022年においてもチャットボットの展開にMessengerをまだ使っていると述べているからである。

重要な調査結果

•マーケター回答者の53%はサードパーティベンダーを使用してNLPツールを構築しているが、47%は自社ウェブサイトやアプリでチャットボットをホストしている。

•Facebook Messengerはかつてチャットボット導入のトップの選択肢であったが、2017年以降は使用が減少している。2022年にMessengerでチャットボットを展開していると答えたのはわずか42%だった。

マーケターが消費者の視点を理解し対応するのに役立つソーシャルリスニングとセンチメント分析

チャットボットは依然としてマーケターが使用しているNLPのもっとも一般的な形式であり、ほかの形式を20%以上上回っているが、ソーシャルメディアリスニングとテキストのセンチメント分析といったより多様なNLPアプリケーションがそのあとに続いており、それぞれ2位と3位につけている。マーケターの56%が2022年にソーシャルメディアリスニングにNLPを使用し、46%がテキストのセンチメント分析に使用していると述べている。

ソーシャルメディアリスニングにより、マーケターはソーシャルメディアプラットフォームでの消費者の会話や製品や企業についての言及を追跡し、それらを分析して、顧客の特性や行動、ブランド認知に関する洞察を得ることができる。そのような洞察は製品の開発と調整から消費者ターゲティングの改善まであらゆることに利用できる。

今年の初め、化粧品メーカーのフーダビューティ(Huda Beauty)はソーシャルメディアからのフィードバックを利用して、以前にはオーバーアチーバーコンシーラー(Overachiever Concealer)として知られていたコンシーラーを再処方・再ローンチした。同社の創業者、フーダ・カタン氏はユーザーのオンラインコメントを検討して、製品の成分を調整し、#FauxFilterルミナスマット ビルダブルカバレッジ クリースプループコンシーラー(#FauxFilter Luminous Matte Buildable Coverage Crease Proof Concealer)という新しい製品名で発売することを決断したと述べている。

「ソーシャルリスニングを多く行ったところ、改善が必要な領域がわかった」とカタン氏。「当社のメイクアップ全体において改善できる点を常に探している。新しいテクノロジーや成分がある。常にメーカーと協力して、製品を微調整して1%改善するにはどうすればよいかを考えなければならない」。カタン氏によると、同社は最終的に消費者の改善提案に合わせて成分を調整したという。

インスタグラム、TikTok、Facebook などのソーシャルプラットフォームでのリスニングに加えて、多くのブランドがRedditを利用して顧客のセンチメントを理解して、広告をターゲットしている。Redditの元クリエイティブ戦略責任者であり、現在はReddit内のエージェンシーであるカーマラボ(KarmaLab)のグローバルディレクターを務めるウィル・キャディ氏によると、ソーシャルニュースの集約、コンテンツの評価、ディスカッションを扱うRedditには毎日5200万人を超えるアクティブユーザーがおり、マーケターが特定のユーザーグループに合わせて広告を調整する絶好の機会が提供されているという。

「Redditにはそれぞれ独自の文化を持つ様々なコミュニティが10万以上も揃っている」とキャディ氏。「参入する方法を見つけるのにブランドは最初は複雑だと感じるかもしれないが、親しみを感じられる文化を特定できれば実際には非常に簡単だ」。

キャディ氏は次のように付け加える。「ブランドがRedditに参入する際のベストプラクティスはまず耳を傾けてリードすること。(Redditは)素晴らしい機会を提供しており、人々の情熱と、サブレディットでユーザーらが自分の情熱をどのように表現しているかが見られる」。その後でマーケターは同じコミュニティ内のユーザーから共感される広告を掲載することができる。2019年2月、ピザチェーンのリトルシーザーズ(Little Caesars)は「プレッツェルクラストピザ(Pretzel Crust Pizza)」キャンペーンを復活させ、あるRedditユーザーに「チーフプレッツェルオフィサー」の座を進呈した。

リトルシーザーズのCMO、ジェフ・クライン氏によると、このキャンペーンはソーシャルメディア全体で行われていたがRedditはその成功の中心的な側面だったという。「Redditでの当社のエンゲージメントはこのマルチメディアキャンペーンの一面に過ぎなかったのだが、リアルタイムで真の方法で顧客と直接コミュニケーションをとる能力において大きな役割を果たした」とクライン氏は述べている。

ソーシャルメディアリスニングによりマーケターはブランドに関する発言や議論を監視できるが、テキストのセンチメント分析(マーケターが3番目に使っているNLPの形式)は消費者のコメントや会話の背後にある感情や態度を理解するのに役立つ。

テキストのセンチメント分析では、オンラインの製品レビューやアンケートのコメントなど製品に関するユーザー生成テキストの背後にある感情的なトーンを特定し、それらをポジティブ、ネガティブ、ニュートラルに分類する。マーケターは製品のセンチメントに関する洞察を利用して、長期的なビジネス戦略の決定から、製品の配合の変更、広告や製品ページのもっとも効果的な表現の選択まで様々な決定を下している。

テキストのセンチメント分析から得られる洞察は、マーケターが、効果のない製品返品ポリシーやカスタマーサービスの不具合、消費者から高すぎると考えられている価格など、ネガティブな感情を引き起こす可能性のある懸念事項に対処するのにも役立っている。

重要な調査結果

•マーケターの56%がソーシャルメディアリスニングの形式でNLPを使用し、46%がテキストのセンチメント分析を使用している。ソーシャルリスニングは2番目、テキストセンチメント分析は3番目に使用されているNLPの形式である。

•ソーシャルメディアリスニングとテキストのセンチメント分析により、マーケターは製品に関する言及とその背後にある感情的なトーンを追跡して、製品に関する意思決定を行うことができる。

AI技術は将来のマーケターからより利用されるためにはいっそうスマートなイテレーションに進化すべき

5年前、DIGIDAYの新興テクノロジーシリーズの前回の記事で、IPGメディアラボのサイモン氏(当時は同社の戦略ディレクター、現在はエグゼクティブディレクター)は「十分な数のブランドがパーソナライゼーションとAIや機械学習に投資していない」と述べていた。だが、時代は明らかに変わっている。現在、マーケターはAI技術、特にカスタマーサービス用のチャットボットと、広告のターゲティングと製品推奨のためのデータドリブン型のパーソナライゼーションを優先している。

リーバイ・ストラウスのウォルシュ氏は、特にこの5年間においてさらに多くのブランドがデータドリブン型のパーソナライゼーションに資金を投入していることに気づいたと述べている。「さまざまな業界の企業があらゆるテクノロジーに投資していることは間違いない。消費者向けの企業はパーソナライゼーションに効果のあるAIなどのテクノロジーにしっかり投資している。通信、金融サービス、小売、消費財のいずれも(テクノロジーへの投資に)ますます注力しており、特にパーソナライゼーションがフォーカスされている」。

前述したとおり、マーケター回答者の70%近くがデータドリブン型のパーソナライゼーションを優先しており、優先していないのはわずか23%である。現在データドリブン型パーソナライゼーションに投資していないこの比較的少数の23%の間では、将来投資する予定があるかどうかについて意見は半々に分かれている。48%が投資する予定があると答え、48%が自社ビジネスには関連がないと回答している。事実、Glossyが現在データドリブン型のパーソナライゼーションに投資していないマーケターにそのテクノロジーに投資しない理由を尋ねたところ、大多数がデータドリブン型のパーソナライゼーションは自社ビジネスに関係がないと答えている。

3分の1弱(30%)はパーソナライゼーションツールの構築と実装のコストが最大の障壁であると述べている。特に、社内のパーソナライゼーションツールはマーケターが実装するのにコストがかかる可能性がある。これは、テクノロジーに特定の専門知識を持つ別のデータチームに資金を投入する必要がある場合が多いためである。アプリケーションで使用するデータを整理するファンダメンタルズは依然としてマーケターの多くが直面している問題だ。

サイト(Syte)のレヴィ=ロン氏は、パーソナライゼーションツールはオンラインと実店舗での購入のギャップを埋めて、いっそうスムーズな顧客体験を生み出さなければならないと述べている。「AIの次のフロンティアは、ビジュアル検索のあるデジタル世界と店舗(で使用される)デジタルツールのある物理的な世界の両方でもっと優れたユーザーエクスペリエンスを推進することだ」。

NLPに関しては、この5年間でマーケターによるチャットボットの使用が増加したにもかかわらず、現在NLPに投資していないマーケター回答者の過半数(55%)はそれは自社ビジネスに関連性がないと答えており、将来の投資について計画しているのはわずか36%だった。

NLPの有用性に関してマーケターの懸念が特に目立ったのは、現在NLPを使用していないマーケターがNLPに投資しない主な理由として関連性の欠如を挙げたことである(53%)。NLPテクノロジーの構築と実装にかかるコストが投資を妨げていると回答したのはわずか23%だった。

消費者が実店舗での購入やオフィス勤務に戻ってきたことにより、マーケターが人とのやり取りの代わりとしてチャットボット導入に対して感じていたプレッシャーが消えつつある可能性がある。この点は、マーケター回答者がNLPテクノロジーは自社ビジネスに関係がないと考える理由に寄与しているかもしれない。

IPGメディアラボのサイモン氏が指摘するように、ビジネスとの関連性に関する懸念を助長している可能性があるもう1つの要因は、チャットボット技術がまだそれほど洗練されていないことである。サイモン氏は次のように述べている。「音声アシスタントもそうだが、NLPは我々が期待するほど速くは進歩していない。チャットボットに自然な会話をさせられるようにできる能力は実際にわずかずつしか進んでいない。相手が人間であるかのようにGoogleやSiri、Alexaと会話できるようになるまでにはおそらくあと10年はかかるというのは明白だ」。

だが、ヒュージのクロール氏は特にチャットボットの形式におけるNLPの短期的な可能性について楽観的だという。「コンテンツとデータを適切に整理できれば、チャットボットは実際に即時に学習して、特定の会話が整理されたバックグラウンドで進化することができるようになるだろう。大規模な言語モデルと周辺モデルによって取り込まれるコンテンツへのアクセスによって、チャットボットが進化して進行中の会話に関与できるようになるために必要なインテリジェンスがチャットボットに与えられる。すぐに実用化されると思う」。

マーケターがAIツールにますます多くのデータを与え続ける一方で、データプライバシーに関する規制・倫理上の問題は依然として最大の懸念事項である。マーケターは絶えず変化するデータプライバシー法を遵守し、Cookieのない状況で顧客データを収集するための独創的な方法を見つけなければならない。そして、データの透明性に対する消費者の希望を尊重しながらターゲットを絞った広告や製品の推奨事項を提供するなど、NLPとデータドリブン型のパーソナライゼーションを拡大して使用する中で、競合する需要を調整し続けなければならないだろう。

重要な調査結果

•データドリブン型のパーソナライゼーションに現在投資していないマーケターの間では将来の投資について意見が分かれている。48%が投資する計画があると述べ、別の48%が自社ビジネスには関連性がないと回答した。

•マーケターがチャットボットの使用を増やしているにもかかわらず、現在NLPに投資していない回答者の過半数(55%)はNLPは自社ビジネスには当てはまらないと答えている。将来的に投資する計画があるのはわずか36%である。

[原文:Glossy+ Research: How marketers are using AI to target ads, recommend products and provide customer service

CATHERINE WOLF and LI LU(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

Source