アメリカのシカゴ大学の研究チームが、二酸化炭素と水からエタノールやメタンなどの燃料を合成する「人工光合成システム」を発表しました。酵素を用いた新しい人工光合成システムは、従来の10倍の効率でエネルギーを生み出すことができたと報告されています。
Biomimetic active sites on monolayered metal–organic frameworks for artificial photosynthesis | Nature Catalysis
https://doi.org/10.1038/s41929-022-00865-5
Chemists create an ‘artificial photosynthesis’ system that is 10 times more efficient than existing systems
https://news.uchicago.edu/story/chemists-create-artificial-photosynthesis-system-10-times-more-efficient-existing-systems
New ‘artificial’ photosynthesis is 10x more efficient than previous attempts | Live Science
https://www.livescience.com/artificial-photosynthesis-fuels
人類は過去2世紀にわたり化石燃料からエネルギーを得てきましたが、これは地球上の生命が何億年もかけて光合成しながら蓄えてきたエネルギーであり、人類の手で生産されたエネルギーではありません。また、自然界の光合成で生み出される炭水化物は生き物にとって重要なエネルギー源ですが、自動車や発電所のエネルギー源としては不向きです。
こうした課題について、シカゴ大学の科学者であるWenbin Lin氏は「多くの人が気づいていない最大の問題は、自然界でさえ人間が使うエネルギー量を賄う方法を持っていないことです。光合成ですら力不足なので、私たちは自然界を超えるものを作らなければなりません」と指摘しています。
光合成を超えるエネルギーを人の手で生み出すべく、シカゴ大学の研究チームはまず金属有機構造体(metal-organic framework:MOF)の開発に着手しました。MOFとは、有機分子で結合した金属イオンで構成される化合物で、人工光合成で必要な化学反応が起きる足がかりとなる素材です。
さらに、Lin氏らはこれまでの人工光合成システムにはなかった酵素、つまりアミノ酸をMOFに加えて、光触媒による化学反応を促進させる実験を行いました。その結果、アミノ酸が二酸化炭素の還元反応と水の酸化反応をより効率的に促進させることが分かりました。
研究チームはこの素材を有機金属骨格型人工酵素(metal–organic framework-based artificial enzyme:MOZ)と呼んでいます。発表によると、MOZは従来の人工光合成システムの10倍の効率でメタンを合成することが可能とのこと。
ただし、燃料として使用するのに十分な量のメタンを作るには、さらなる研究が必要です。Lin氏は「私たちが使っている量のメタンを作るには、何桁もスケールアップしなければならないでしょう。一方、今回の研究ではこれまで完全には解明されていなかった人工光合成システムの仕組みを分子レベルで明らかにすることができました。人工光合成のプロセスの理解を深めることは、スケールアップに臨む上で重要なステップです」と話しました。
また、今回研究チームが開発した手法は、医薬品など少量でも有用な物質の生産に役立つ可能性もあります。Lin氏は「化学物質を合成する基本的なプロセスには多くの共通点があります。優れた化学物質を開発する技術は、多くのシステムでの応用が見込めるのです」と述べて、人工光合成はエネルギー問題だけでなく医療物資の不足などの問題を解決する糸口にもなり得るとの見解を示しました。
この記事のタイトルとURLをコピーする