唐突に気がついたんですが、「柚子胡椒」っていう調味料あるじゃないですか。あれ、柚子胡椒じゃなくないですか?
って、突然言われても意味がわからないですよね。はい、順を追って説明していきますので。
前の記事:漬物器で作る「超圧縮サンドイッチ」
いやいや、入ってないじゃん!
いつからか我々の生活にすっかりなじみ、好きな人にはなくてはならない調味料となった「柚子胡椒」。もちろん僕も大好きで、常備しています。
青柚子の突き抜けるような爽やかさと、ピリリとした辛み、そしてしっかりと効いた塩気で、洋食でも和食でも、合わない料理がないんじゃないかっていう万能選手。特に、この時期美味しいおでんなんか、僕はだんぜんカラシより柚子胡椒派ですね。
だけど先日、ふと気がついたんです。
「あれ、これ、柚子胡椒じゃなくない?」って。
つまりですね、え〜とたとえば、「ごま塩」だったら、「ごま」と「塩」を合わせた調味料。「七味唐辛子」だったら、「唐辛子」を含む「七味」くらいの香辛料を合わせた調味料。それぞれ、名前どおり。
対して、柚子胡椒は……いやいや「コショウ」入ってないじゃん! と。
そこでそもそも柚子胡椒がどういうものかを調べてみたところ、ざっくり言うと、
「細かく刻んだゆずの皮と青唐辛子に塩を加えてすり合わせ、熟成させた、九州発祥の調味料」
だそう。ほ〜らやっぱり! コショウ使ってない! はい現行犯〜。
と、決めつけるのは時期尚早なので、もう少し彼の話を聞いてみましょう。ではなぜ「コショウ」と名乗っているのか。すると単純なことで、九州の一部の地域では昔から、唐辛子のことを「コショウ」と呼ぶからだそうなんです。つまり、柚子胡椒って、方言だったというわけですね。
話はわかった。やっぱり無罪。はい、今回の件はこれですっきり。
で、記事が終われるはずもなく、こんどはムクムクとある思いが湧いてきました。
「柚子とコショウを合わせた、言葉通りの『柚子胡椒』を作ってみたい! それであれこれ食べてみたい!」
今回はそれをやっていきます〜。
「真の柚子胡椒」作り
もちろん、きっとほとんど誰も作ったことのない調味料。作りかたにノウハウなどありません。が、とりあえず混ぜりゃあいいか。
この時点でもう、キッチンがたまらなくいい香り。冬到来!
量を計ってみたところ、22g。買ってきた小瓶のコショウのグラム数を見てみると、15g。同量くらいのコショウを加えようと思ってたんだけど、まぁ、あんまり厳密にやる意味もないし、コショウの刺激のほうがだいぶ強そうだしと、そのまま合わせることにしました。
現状だとかなりパサパサなので、いいしっとり加減になるまで、さっきのゆずの果汁を少しずつ加えていきます。
できたものを、使いきって洗ってとっておいた市販の柚子胡椒の瓶に詰めれば、
一般的なサイズ感のゆずひとつと、小瓶のコショウひと瓶ぶんで、ちょうど容器にいっぱいになるくらい作れましたので、今後のご参考に。
で、そろそろいちいち「真の柚子胡椒」と表記するのもめんどうになってきました。そこで今回は、あくまでこの記事中だけに限り、
・僕の作った真の柚子胡椒 → 柚子胡椒
・一般的な柚子胡椒 → ニセ柚子胡椒
と記載させてもらえたらと思います。いえいえ、一般的な柚子胡椒に恨みはないし、そもそも大好きなんです。あくまで便宜的に。
1品目からまさかの展開「うどん」
さ〜あとは柚子胡椒、じゃなかった、「ニセ柚子胡椒」によく合うと言われがちな料理あれこれを、「柚子胡椒」で食べていってみるだけだ。
まずは「うどん」からいってみましょう。
冷凍うどんと、ヒガシマルの「うどんスープ」だけで作った素うどん。ここまで純粋な素うどんとは久々に対面します。
で、ここに柚子胡椒を加えて食べていこうと思うわけですが、その前にいったん、
つまり、まずはあらためて「ニセ柚子胡椒うどん」を味わっておこうというわけ。
すると、これがやっぱりうまい。穏やかで素朴なだしの味わいが、ニセ柚子胡椒を加えることにより、雅になるというか。ヒガシマル醤油本社のある神戸から京都へ移動したというか。
ただ、塩気もしっかりと強まるので、小さなおわんにこの量は入れすぎでしたね。
続いて、いよいよ柚子胡椒。
すると強烈に立ち上る、鮮烈なゆずの香り。食欲そそりますね〜。
さて味のほうはどうだとすすってみると、なんと! これがめっちゃくちゃうまい。ニセ柚子胡椒の雅な雰囲気とも違い、ゆずの香りと酸味による気品もありつつ、コショウがそこにやんちゃっぷりも足している。それでいて、塩気はないから、味の角が強くなりすぎることもない。
あれ? 自分でもまさかの展開だったんですが、うどんとの組み合わせに関しては、ニセ柚子胡椒よりもこっちのほうが好きかも。
一心不乱に食べきり、気づけばコショウの効果で大汗をかいてました。は〜、大満足。
ぶっちゃけ、ニセ柚子胡椒がすでに完成された調味料なので、不安はあったんです。そもそもぜんぜん相性の良くなさそうな、ゆずとコショウ。合わせる意味はあるんだろうか? って。けどあれだ、これは、正反対の性格のキャラクターどうしがタッグを組むことにより最強になるっていう『今日から俺は!』の三橋と伊藤パターン! そういや、色味もよく似てるわ。
……と、大興奮したわけですが、すみません、先に断っておくとこの記事、ここがピークです。そして最終的に、身も蓋もない結論に至ることになります。それでもいい。一応気になるという方は、どうぞ最後のまとめまでお読みいただければと。
安定感あり「冷奴」
続いて大好物の冷奴。こいつも、ニセ柚子胡椒をちょんとのせて食べるといいつまみになりますが、
すると、これまたいい! 柚子胡椒のじゃりザクっとした食感も、柚子の香りやコショウの辛味のアクセントも、シンプルな豆腐によく合います。これは新鮮な美味しさだ。
素材の味を引き立てる「マヨディップ」
ちょっと捻ったメニューを出す居酒屋なんかではけっこう見る気がする、マヨネーズとの組み合わせ。シンプルに柚子胡椒とマヨネーズを混ぜ、ディップにして野菜を食べてみようと思います。
柚子胡椒自体に塩気がないから、味にメリハリのあるニセ柚子胡椒ディップと比べてどうかな〜、さすがにぼやけるかな〜、と思いつつも食べてみると、え〜! これまたうまいぞ!
むしろニセ柚子胡椒ディップよりも、各野菜の香りとか、大根のかすかな苦味とか、にんじんの豊かな甘みとかが引き立つような気がします。もちろん、柚子と胡椒の風味はしっかりと感じられ、料理としてのバランスがいい。
この時は何気なく、赤ワインを合わせて飲んでいたんですが、ワインとのマリアージュも予想以上でした。
大定番「おでんの大根」
冒頭でも言いましたが、僕が柚子胡椒を使う定番料理といえば、おでん。なかでも王道の大根をいってみましょう。
すると……あ、これは今回の検証で初めて、ちょっと微妙かもしれない。もちろんまずいわけではないんですが、おでんが作りたてでまだ若いこともあるのかな。薄味の大根に塩気のない柚子胡椒の組み合わせで、なんとも不完全燃焼な味わいに。
そもそもおでんって、どちらかといえば味わいが淡い部類の料理ですよね。そういうものには、ニセ柚子胡椒のほうが合うのかもしれません。
焼鳥屋の小粋な一品「鶏ささみ焼」
王道の部位ばかりではなく、ちょっと凝った創作串なんかも出している焼鳥屋で見ることの多い「ささみのニセ柚子胡椒焼き」。さっきのおでんの法則からするとそんなにいい予感がしないけど、材料を買ってきてしまってるし、作ってみましょう。
ささみには焼く前にほんのりと塩をふったのみ。なのでやはり、柚子胡椒焼きは味が足りない感じがするな〜。対してニセのほうは、そりゃあもうビシッと味が決まり、酒のつまみに最高。ニセの勝ち!
わが柚子胡椒人生の原点「豚角煮」
柚子胡椒と出会った日のこと、実ははっきり覚えていて、まだ僕が小学生くらいだったころの、父方の親戚が集まる新年会でのこと。叔母さんたちがなぜかみんな料理上手で、それぞれに手作り料理を持ち寄って、それを親戚の家の長テーブルにずらりと並べて宴会するのが定番でした。
その時、豚の角煮を作って持ってきたひとりの叔母さんが、九州以外では今ほどメジャーではなかったニセ柚子胡椒を「これ、会うと思うから食べてみて」と、添えて出してくれたんですね。
その甘辛こってり、脂たっぷりのとろとろ豚肉と、爽やかできりりと辛いニセ柚子胡椒の組み合わせに大感激してしまって! 以来、ニセ柚子胡椒は僕の大好きな調味料のひとつというわけなんです。
さぁどうだ。もぐもぐもぐ……あ〜、これは……。ダメだ。ぜんぜんまずくない。美味しい。けれども、あの日の感動をいまだによく覚えているぶん、これがニセ柚子胡椒ではなくて柚子胡椒なことが、なんだか悲しい。
すいません、個人的な思い入れもあって、あまり冷静な判断ができていない気がしますが、角煮にはやっぱり、ニセ柚子胡椒のほうが合うと思います。
こっちの柚子胡椒にこそ合うはず「カップ麺」
さて、最後はちょっと趣向を変えて、ここまであれこれ食べ比べた経験から、「ニセ柚子胡椒に合う料理」ではなく、柚子胡椒が主導、「真の柚子胡椒にこそ合いそうな料理」をひとつ試してみましょう。
というのも、この柚子とコショウの組み合わせって、ラーメンに合わないはずなくないですか? それも、和風の魚介系のものに特に合いそうな気がする。
もしもリーズナブルな「カップ麺」の味わいが柚子胡椒によって底上げされたら、それってかなりいい情報ですよね。
そこでこんなカップ麺を買ってきてみました。
まずは少しだけそのまま味見してみると、僕はあんまりカップ麺を頻繁に食べるほうではないので、そのクオリティーにびっくり。
とろりと濃厚な魚介と鶏白湯ベースのスープが、とてもインスタントとは思えず、そこにつるりとした麺がよく絡み、すでにめっちゃくちゃうめー!
もぐもぐもぐ、
最高の逸品でした。
以上、当初は出オチみたいなことになるかと思われていた「真の柚子胡椒」検証。意外と実りある結果となり、大満足です。
と、締めたいところなんですが、うどんを食べたあとに言いましたよね。「この記事は最終的に身も蓋もない結論に至る」って。
いや、ここまでやりきってから気づいたんですが、そもそも今回の記事で検証してきたことぜんぶ、わざわざ「真の柚子胡椒」を作らなくても、刻んだ柚子とコショウを料理にかけるだけでよくない?
でもって、それがラーメンに合うの、当たり前じゃない?