よくよく考えれば、飲食店の「お得なセット」ほど危険なものはない。お店はサービスすることで(単純計算ではお店が損をすることで)利益を狙うのだから、いわば “肉を切らせて骨を断つ” 的な捨て身攻撃。
客側が「なるべく安く済ませよう」と警戒していても、そのガードの上から打撃を当てて脳を揺らしてくる。そして気づいたときには財布の紐がユルユルに……なんてことは珍しくない。たとえば、以下のように。
・コスパ最強とんかつチェーン「まるや」
というわけで、今回取り上げるのは「とんかつ まるや(以下、まるや)」のサク飲みセットである。ご存知だろうか。「まるや」を。
公式サイトを確認すると店舗が都内にしかない(2022年11月8日時点)ので関西の人などには馴染みがないかもしれないが、簡単に言うとコスパ優秀なトンカツ屋である。ランチ時などには、お店の前に行列が出来ることもしばしば。
つい先日。私がその店舗の1つ「西新宿店」の前を通ったときに、『サク呑みセット(500円)』の看板が目に飛び込んできた。
トンカツで飲めて500円? めちゃくちゃ安いじゃないか。飲み放題ではないにせよ、いまのこのご時世でワンコインとは恐れ入る。
お財布へのダメージも少なそうだから楽しんでみるか……と軽い気持ちで入店。もう注文するものは決まっているので、店員さんに「サク呑みセット、飲み物はビールで」と伝えると、恐ろしいことを告げられた。
「申し訳ございません、サク呑みセットのドリンクはレモンサワーかハイボールになります」
……なんだと! メニューをよく見ると、たしかに『サク呑みセット』ではビールが対象外になっていた。よく確認しなかった自分が悪いのだが、こちとら入店したときから口(くち)はビールになっている。どうしたものか。
悩むこと5秒。本当はもっと考えたかったが、店員さんを待たせるのも悪いので「じゃあ『ちょい呑みセット』、生ビールで」と伝えた。
補足しておくと、同店では『サク呑みセット(500円)』のほかに『ちょい呑みセット(1000円)』もあり、こちらでは生ビールも選択可。
なお、『サク呑みセット』も『ちょい呑みセット』も店舗限定のサービスで、私は西新宿店以外で対応しているところを知らない。他にも取り扱っているお店があるのかもしれないが、どうしても同セットを堪能したいのであれば、事前に電話などで確認しておくのがいいだろう。
さて、500円の『サク呑みセット』を頼むつもりが1000円の『ちょい呑みセット』になったので今の時点で想定の2倍かかってしまっているわけだが、これは仕方がない。
ビールの口になってしまっていたのだから、完全な事故といえる。気を取り直して、ちょい呑みセットを楽しむとしよう。
・ちょい呑みセット
注文して速攻で出てきたのは、ビール&惣菜3種&キャベツだ。
店によってはこれだけで1000円するだろうが、「まるや」ではメインのトンカツがまだ控えている。コスパ面はかなり優秀のセットといえるだろう。
トンカツだけに揚げるのにある程度の時間がかかるものの、それはつまり「安いけれど作り置きじゃない」という証拠。最高の待ち時間である。油のパチパチが耳に心地いい。
この音だけで飲めるな……と思いながら待つこと約10分。いよいよ、主役のトンカツが……
え?
トンカツ無いやん!
うそ!?
唐揚げ&ハムカツ&ソーセージカツだけやん!
「とんかつ まるや」のちょい呑みセットなのにトンカツ無いやん!!
慌ててメニューを確認すると、たしかに写真にはトンカツらしきものは写っていない。「揚げ物3種盛」と書かれているだけでトンカツとは ひと言も書かれていないではないか。
つまるところ、トンカツが付いてくると思ったのは私の早とちり。完全に私のミスだと頭では理解できるのだが……どうしても「思ってたのと違う」という感情は拭えない。
誤解なきように言っておくと、私はなにも唐揚げ&ハムカツ&ソーセージカツに不満があるわけではない。味だって全然悪くない。ただ、トンカツモードになった口をそう簡単に解除できないのだ。
クソ。このモードは一体どうすれば解除できるのか?
どうすれば……
どうすれば……!
どうすればいいんだぁああああああああああ!!
……
……
トンカツを頼めばいいんじゃん♡
──というわけで、ヒレカツ定食(1000円)を追加したことで会計は合計2000円に。当初は500円で済ますつもりだったのに4倍もかかっているから、ちょい飲み的には完全に敗北である。
ただ、もし私が入店前にメニューをしっかりと確認し、『サク呑みセット』にはビールが対象外であることも『ちょい呑みセット』の揚げ物がトンカツだとは限らない点も頭に入れておけば、このような事態は余裕で防げたに違いない。
すべては、口がビールモード&トンカツモードになってしまったがゆえに起こったこと。同店で『サク呑みセット』あるいは『ちょい呑みセット』を楽しもうと思っている人は、私と同じ過ちを犯さないよう注意していただきたい。
最後に、私がもっとも伝えたいことを記載しておこう。本シリーズ「割引の落とし穴調査」で何度も言っているが、この記事は言い訳ではなく、失敗の原因と分析。その点だけはくれぐれも誤解なきようにしていただきたい。私からは以上だ。