ソフトバンクは11月4日、2023年3月期第2四半期決算を発表。売上高は2021年同期比3.1%増の2兆8086億円、営業利益は2021年同期比12.7%減の4986億円と、増収減益の決算となった。
決算説明会に登壇するソフトバンクの宮川氏
同日に実施された決算説明会に登壇した代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏によると、売り上げは全てのセグメントで増収となった一方、利益では政府主導による携帯電話料金引き下げの影響に加え、法人事業で一時的な減益影響があったこと、そしてヤフーとLINE事業で成長に向けた採用などの強化を図ったことなどが、減益に至った要因としている。
営業利益はほぼ全ての事業で減益に。携帯電話料金引き下げの影響に加え、好調な法人事業での一時的な減益影響や、ヤフーとLINE事業での成長に向けた投資などが影響した
一方でソフトバンクは、10月1日付けでスマートフォン決済のPayPayを子会社化しており、その企業価値を再測定した結果、2948億円の再測定益が計上されたとのこと。そこから無形資産の償却見積もりを加え、2022年度の上期にそれらの影響を加えると7674億円に達するとしている。
そうしたことからソフトバンクは、2022年度の通期業績予想の上方修正を実施。法人事業が減益となる一方、子会社化したPayPayを軸とした金融セグメントを新設、それらが業績予想に加わる形で当初「1兆円以上」としていた営業利益予想を、1兆500億円と具体的な形に修正するとしている。
PayPay子会社化よる再評価益によって業績の上方修正を発表。新たにPayPayを軸とした金融セグメントが追加されるという
その金融セグメントの業績についても宮川氏は言及。ソフトバンクが子会社として直接保有するPayPay、PayPayカードとPayPay証券、そして決済代行のSB Payment Serviceがこのセグメントに含まれ、PayPay銀行などのZホールディングス経由で保有する金融事業は含まれないとのことだ。
その軸となるPayPayは、登録ユーザー数が2021年同期比21%増の5121万人に達したほか、決済回数も2021年同期比43%増の23.8億回、決済取扱高もやはり2021年同期比43%増の3.5兆円に達しているとのこと。加盟店からの収益化によって売上高も2021年同期比129%増の532億円に伸び、好調が続いていることから「2022年度は赤字の見通しだが、早期に黒字化させて屋台骨を担う事業に育てていきたい」と宮川氏は意気込みを見せる。
PayPayは収益化が進み売上高は532億円に。赤字も減少しつつあることから早期の黒字化を進めたいとしている
そのために重要になってくるのがグループ内での連携であり、PayPayの顧客や利用の拡大にはソフトバンクやLINEの基盤を一層活用していく姿勢を見せている。またPayPayとPayPayカードを連携することで1人当たりの決済取扱高を増やしたり、PayPayのポイント運用によって利用者に投資の経験をさせることで、獲得単価を抑えながらPayPay証券の口座獲得につなげたりするなど、金融事業同士の連携による利用拡大に向けた取り組みも進められているようだ。
PayPayのさらなる成長に向け、LINEなどグループのシナジーを生かした顧客獲得などを進めていくとのこと
また宮川氏は、PayPayの上場に関して「目指している」と依然意欲を示しているが、上場に向けた黒字化の時期については「今は明かせる時期にない」と回答を控えている。
獲得好調なモバイル通信–非常時ローミングは早期実現を重視
PayPayと同様に注目を集める、モバイル通信を軸としたコンシューマ事業のセグメントについては、売上高が2021年同期比1%増の1兆3855億円、営業利益が13%減の3156億円と、依然料金引き下げの影響が大きく響いている。ただ値下げ影響はマイナス240億円と依然大きいが、縮小傾向にあり2022年度を底に大幅縮小が見込まれると宮川氏は説明。「ようやく魔の3年の終わりが見えてきた」と安堵のコメントも残している。
通信料引き下げの影響は2022年度が底となり、今後影響は大幅に縮小していくと予測しているとのこと
その一方で、スマートフォンの純増数は2021年同期比28%増の74万、主要回線の純増数も2021年同期比339%増の34万と順調で、「MNP(番号ポータビリティ)でも順調。全キャリアに対してプラス」(宮川氏)と獲得が好調な様子を見せている。それゆえコンシューマ事業についても上方修正を検討したというが、「下期の商戦期に備え維持した」と宮川氏は話している。
契約の獲得は非常に好調で、主要回線の純増数は2021年度比で3倍もの伸びに。MNPでも全キャリアに対して純増を記録しているという
そのコンシューマ事業に関して現在注目を集めているのは、総務省の有識者会議で進められている3つの議論だ。1つは楽天モバイルがプラチナバンドの再割り当てに関する議論で、楽天モバイル側が1年以内の再割り当てを求めるなど非常に強気な姿勢で臨んでいることが注目されている。
この点について宮川氏は、かつて前身のソフトバンクモバイルでプラチナバンドの獲得に苦労した経緯から「個人的に気持ちは非常に理解できる」と話す一方、「『私たちが使っている周波数を渡して』となると、現在使っている顧客をどうするかという問題と合わせて、キャリア同士で確認しないといけない点がたくさんあると認識している」とも回答。楽天モバイルに対しては「もう少し地に足を付けた形でゆっくり会話できたらと思う」とコメントしている。
2つ目はKDDIの通信障害を受けて実施されている、非常時ローミングに関する議論だ。宮川氏はローミングの実現に向けては「前向きに検討しているし、やるべきだと思う」と話す。
一方で、警察や消防などの緊急通報受理機関が、通報者に折り返し通話ができる「呼び返し」を要求しており、それが早期実現のハードルとなっている点について、「最初からやるのがベストだとは思うが、それをやるための仕組み作りに時間がかかる」(宮川氏)と回答。呼び返しに代替する仕組みを考えて早期実現すべきとの考えを示した。
またデュアルSIMの仕組みを活用して緊急時に通信を切り替える仕組みについて「(KDDIの)高橋社長からもお声がけ頂き、議論している」と、できるだけ早期に実現できるよう話し合いをしていることを明らかにしたが、同時にあくまで保険的に提供されるものが検討されており、全てのユーザーに無料で提供されるものではないことも示されている。
そしてもう1つ、総務省で議論が進められようとしているのがスマートフォンの大幅値引き販売(いわゆる「1円スマホ」)に関する問題だ。宮川氏は1円スマホに関して「日本は5Gの普及が遅いと思っていて、せめて端末で魅力を出すことで4Gから乗り換える率を上げたい気持ちもあった」と話す一方、転売ヤーによる買い占めなどが発生し「公正取引委員会が問題視している」との現状認識を示す。
それゆえ「社会現象としてよくないと認識しているので是正したいが、1社では難しい」と、競争上自社だけが止めることは難しいと宮川氏は説明。ただ行政主導で一律に1円スマホの問題に向け対処を進めるのであれば、そうした影響も少なくなることから「喜んで」対応するとしている。