2021年8月、家で甜麺醤(てんめんじゃん)を仕込んだ。甜麺醤とは中華調味料のひとつで、甘みのある味噌のこと。なんとあれ、中国古来の作り方にならうなら、小麦粉から作るのがいいらしい。
半信半疑で仕込んだ日から1年以上を経て、思いのほか茶色く仕上がったので報告したい。
1年前の8月に仕込んでました
2021年8月、私は当サイトで「はじめての発酵調味料づくり」という連載企画をやっていた。甜麺醤を小麦粉から作るというものだ。なんとこれ、熟成完了まで1年かかるのである。今回、ようやくその熟成が終わったのだ。
「雪ちゃん」と名付けても差し支えないくらい白かった
小麦粉から作る甜麺醤の材料は4つしかない。小麦粉、お湯、塩、米麹だ。透明と白だけの組み合わせである。
仕込み途中にうまれた感情はいまでも覚えている。甜麺醤になる予定の白いかたまりをみながらわたしは首をひねった(比喩ではなく)。
これ、ほんとうに甜麺醤になるんだろうか……。
「雪ちゃん」と名前をつけても差し支えないくらい白い。見知っている甜麺醤になる気がさっぱりしない。
しかしなんと。
白のかたまりは1年強で下のような状態になったのだ!
市販で売っている甜麺醤のような茶色さではないが、最初の白さと比較すると、かなり茶色くなったよね!と胸を張って言える。
この1年の間、どうしておいたかというと、冷暗所にただひたすら放置していただけである。
正直に言おう。「食べ物」とは感じられるもののおいしくない…!
味噌のようなにおいがするし、味噌のような風味もするんだけど、粉を食べているような感じがぬぐえない。これを肴に酒は飲めない。
かすかにしょっぱく、甘みはほんのりとしか感じられない。
……だけど思い出してみてほしいのだ。そもそも調理前のストレートな状態で「うっめえな!」って楽しめる調味料がこの世にどれくらいあったかを。
お酢だって原液のまま飲んだら速攻でむせる。こうじ味噌とかも、単品ではしょっぱくて食べられたもんじゃないことが多いだろう。
つまりこの物体の評価はこの時点では決められないのだ。
甘味噌というよりも味噌っぽい
というわけで調理をする。甜麺醤が活躍する料理で定番といったら回鍋肉(ホイコーロー)だろう。
勝手に笑みがこぼれてしまううまさだった。やるじゃんやるじゃん。家のなかで1年強、ずっと眠っていただけの物体がちゃんと調味料として問題なく仕事をしているのが感慨深い。
比較してみたところ、どっちもおいしいのだけど、自家製甜麺醤は「甜麺醤(甘味噌)」というより「こうじ味噌」に近い味なのでは……という結論にいたった。
これ、わりと味噌だ。75%くらい味噌だ。そのまま舐めると不味かったのにお湯に溶かすとそうでもないし、むしろ「うまい汁」とすら感じるのももすごい。うわー!
結論:できたといって差し支えないんじゃないのか
というわけで。1年前に放置した白いかたまりは自らの力で発酵し、そこそこ味わえるものに姿を変えてくれていたのだった。
おまけ:豆豉も完成したっぽい
ところでもうひとつ。記事を書いている途中で「あ、そういえば!」となったのだが、「豆豉」という発酵調味料も作っている途中だったのを思い出しました。
こいつらもある意味では同居人。なのに忘れていて申し訳ない。
発酵、おもしろいな。仕込んだあと長らく忘れていたくせに、完成するとちゃっかり「おもしろい!」って思ってしまう。家に自分以外の生き物が確実に存在していたんだと思うとしみじみする。この感動を忘れないうちにもう少し手を広げてみたい。……忘れないぞ。