石油というものがある。炭化水素を主な成分とする液体状の混合物だ。採掘された原油は精製され、沸点の違いにより、ガソリンや灯油、軽油などに分かれる。石油製品は今では多くのものに使われている。
石油は油田で採掘するわけだけれど、ドバイなど日本ではない場所の話だと思っていた。しかし調べると720年に完成した「日本書紀」にも石油は登場している。ということで、日本書紀に登場した油田に行ってみようと思う。
最近ガソリンが高い
ニュースを見ているとガソリンの価格高騰が伝えられていた。確かにたまに車に乗りガソリンスタンドに行くと、以前と比べれば、以前というのがどの地点かは細かく決めないとしても、高くなったと実感する。
ガソリンの価格高騰には様々な理由がある。ロシアの問題もあるし、コロナの問題もあるだろう。国内で石油がバンバン生産できていれば、と思うけれど、日本の生産量は年間73万キロリットルで、これは日本の消費量では1日分しかないそうだ。
つまり日本にも油田はあるのだ。新潟や秋田、山形や北海道で採掘されている。しかも調べてみると歴史も古い。720年に完成した「日本書紀」には、668年に原油が天智天皇に献上されている。江戸時代になると「臭水(くそうず)」と呼ばれ、灯火用に普及している。
日本書紀の記述が日本での石油に関する最古の記録だ。では、その石油はどこで採掘されたものだろうか。いくつか候補はあるようだけれど、有力視されているのが、新潟の胎内市にある「黒川油田」と言われている。私はこの黒川油田を見に来たのだ。
黒川油田
日本書紀に登場したのが記録として最も古いだけで、その前から人類は石油を使っていた。海外を見ればメソポタミア文明やインダス文明で建築材としてアスファルトを利用し、日本でも、たとえば約3000年前の胎内市の「野地遺跡」からは石鏃の接着剤としてアスファルトを使ったものが出土している。
今回やってきた黒川油田の「黒川」も石油から来たものだ。黒い川のように湧き出ることがその由来とされている。歴代領主も名字を黒川と称した。この地域が石油に深く関わっていることがわかる。
黒川油田は江戸時代からなかなかに有名だった。明治になると英人医師「シンクルトン」の指導で近代的な井戸が数多く掘られた。その指導によって造られた木枠組の井戸は当時のまま保存され見学することができる。
幅は90から120センチほどで深さは8メートルほどある。そして、今も原油が湧いている。特徴的なのは木枠が今も残っていること。原油が付着しているため腐らずに残っているのだ。
黒川油田は一時期衰退するけれど、昭和13年頃から採掘が再開される。昭和16年からは帝国石油、大同石油などの大企業が本格的に採油を行い、数多くの石油掘削櫓が建ち並びパイプラインも整備された。
しかし、昭和30年頃から産出量が不足し、昭和55年頃に黒川油田は終焉を迎えた。そして今はその場所の一部が「黒川石油公園」として整備されている。いま私がいるのがまさに黒川石油公園というわけだ。
踏み入ることはできない
この公園を歩いていても、その近くを歩いてみても、「あぶない」と書かれた看板がよく設置されていた。「この山には深い井戸が無数にあり、危険です」と。無数という表現が少しポエミーに感じられるが本当に無数にあるのだ。
これは水を汲むための井戸ではない。石油を取るための井戸だ。昔に掘られそのままなのだ。多くはその入り口に枝が落ち、一見そこに井戸があるのかわからない。落ちて初めて井戸だった、とわかるのだ。
そんな井戸が無数にある。今日その井戸を見つけ、数日後にその場所に行くとその井戸はもうないかもしれない。同じ場所と思っても違う場所なのだ。しかし違う井戸が見つかる。それが無数ということではないだろうか。怖いので絶対に入らない。
黒川では含油層が地表近くにあるので、めちゃくちゃ深く掘ってということはない。自然に湧き出て窪地に溜まる。これを昔から「坪」と呼んだ。坪からの採油にはカグマを使う。これは黒川特有の方法だそうだ。
カグマとはシダ類の「リョウメンシダ」をよく乾燥させて湯を通して束ねたもの。これを坪に浸して水面に浮いている草水を採り、手でしごいて桶にためる。昭和まで続いた方法だ。
胎内の歌を聴け
この記事はここまで非常に真面目に進んでいる。黒川石油公園は以前から知っていて、行ってみたいと思っていた。行ってみると歴史的に、そして文化的に非常に興味深く面白いものだった。ただ心が震えるということは正直に言ってなかった。でも、それは唐突にやってくる。
ボコボコという規則正しい、ただ雑音にも似た音がした。それも山の中ではない。整備された道でその音は聞こえた。最初はなんだろうと思った。離れていれば、夏だったのでセミの声しか聞こえない。近づくとその音は確かに私の鼓膜と心を揺らした。
[embedded content]
天然ガスが出ているのだ。たとえば向かって右側では何も出てない。当然音はしない。しかし、左側に行くとそこはボコボコと音がする。地中にある天然ガスが出ている音。胎内市の音。それは歌のように聞こえた。
地中から湧き出るものに感動する。間欠泉などは観光地にもなっている。こちらはガスだから目には見えないけれど、確かに湧き出ている。火を近づければ燃えるそうだ。施設の方が水をその辺りに撒いてくれた。ガスが視覚的にも確認できるようになる。
昔からここではガスが出ているそうだ。整備されてもなお出ていることに私は感動した。ちなみに天然ガス国内生産量は新潟がトップだ。ブクブクは私と施設の方の2人のためだけに歌ってくれているようだった。
そういえば、ガソリン
この公園に行こうと思ったのは、最近のガソリンの値段でさら興味が湧いたからだ。ガスのように興味が湧いたのだ。ここで取れた石油は虫除けに使われたり、灯火に使われたり、学校給食の燃料や漁船の燃料に使われた。今のガソリンとは無関係だ。
胎内市で見かけたガソリンスタンドのガソリンの値段は164円だった。東京とほぼ変わらない。今も新潟では石油が採油されているけれど、今のガソリンとは全く関係ないということだ。それにしても、以前と比べれば高くなった。
予定があって胎内市から鶴岡に行った。そこでガソリンスタンドを見かけ値段を見ると、めちゃくちゃ高かった。10円くらい違う。胎内市でガソリンスタンドを見てから1日しか経っていないので、急に10円も高くなるとは思えないので、鶴岡は高いのかもしれない。
鶴岡に住む知り合いにその話をした。すると鶴岡は高いから、別の用事で違う街に行った時についでに入れてくる、と言っていた。地域によりガソリンの値段は違うのだ。普段車に乗らないので、こんなにも値段が違うことに驚きだった。
石油をめぐる冒険
記録上の日本最古の油田を見た。天智天皇に献上したのは「燃える土」と「燃える水」だ。燃える土はアスファルトで、燃える水が原油だ。掘るイメージがあるので、自然に湧き出るというのが不思議だった。でも、ガスは私の目の前で湧き出ていた。安い言葉だけれど、感動という言葉が一番的確だったと思う。