ゲームで表現される「中世の豚」は間違った見た目をしていると研究者が指摘

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鎌倉時代中期に起きた蒙古(モンゴル帝国)による日本侵攻「元寇」を題材としたオープンワールド時代劇アクションアドベンチャー「Ghost of Tsushima」や、ヴァイキングの侵攻が盛んだった9世紀のヨーロッパを舞台とした「アサシン クリード ヴァルハラ」のように、特定の時代を舞台としたゲームは複数存在します。中でも、中世ヨーロッパを舞台とするゲームでは、豚が間違った表現のされかたをしていると、ライデン大学の歴史学者であるピーター・アレクサンダー・ケルクホフ准教授が記しています。

What’s wrong with medieval pigs in videogames? – Leiden Medievalists Blog
https://www.leidenmedievalistsblog.nl/articles/whats-wrong-with-medieval-pigs-in-videogames

中世ヨーロッパを舞台としたゲームには、都市開発シミュレーションゲームの「Foundation」や、サバイバルゲームの「Medieval Dynasty」、アクションRPGの「アサシン クリード ヴァルハラ」、14世紀のフランスを舞台とした「A Plague Tale: Innocence」などさまざまなタイトルがあります。これらのゲームでは、豚が「現代の豚」をモデルに描かれています。つまり、豚が「ピンク色で毛の少ない肌」と「ずんぐりむっくりとした体形」を特徴とする動物として描かれているわけです。しかし、中世の豚はこのような見た目ではなかったと、ケルクホフ准教授は指摘。

以下は、14世紀のフランスを舞台とする「A Plague Tale: Innocence」に登場する豚。現代の豚と同じように、胴体がぷっくり太り、足は短いというおなじみの体形をしています。


中世の図鑑や化石を調べると、当時の豚は「長い鼻」「痩せた胴体」「長い足」といった特徴を持った、今よりも小さな生き物であったことがわかります。背中はアーチ状になっており、現代の豚とは異なり長く湾曲した牙を持っていたそうです。最も注目すべき点は、中世の豚は「ピンク色で毛の少ない肌」という特徴を持っていなかった点です。当時の豚は長くて黒い毛に覆われていたため、見た目としてはかなり猪に近かった模様。

以下の画像は1600年頃、つまりは中世以降に描かれた豚のイラスト。これを見ると、中世以降の豚も「長い鼻」や「痩せ気味の胴体」「長い足」「黒くて長い毛」を持っていたことがわかります。


ケルクホフ准教授は「ゲームでは中世の豚が豚小屋で転がったり、村の通りを歩いたりしています。しかし、実際は中世のほとんどの期間、豚は村には全く住みついておらず、休閑地や森で共同放牧されていました。12月になると秋の収穫物を食べて太った豚の一部が、肉やベーコンとして食肉処理されました。豚を森で放牧する習慣は、学術的には『パンネージ』と呼ばれており、当時の村などの共同体における重要な固定権利のひとつとなっていました」と語っています。

中世における豚の飼育に関する情報は、中世初期のヨーロッパの法典で目立つように取り上げられています。法典には、「当時の豚の飼育方法」や「西暦1100年以前の農村社会で豚がどのように評価されていたか」に関する十分な量の情報が記されているとのこと。

例えば、6世紀にメロヴィング朝によりまとめられた法典では、「女家長が25~50頭の雌豚を放牧しており、豚が草を食べている間、豚の見張りをしていた」と記されており、当時の豚飼いは鍛冶屋などと同じ法的な保護を受けることができていたことがわかります。

さらに、中世初期に存在した法律のほとんどが森林放牧の習慣を前提に作られているそうです。例えば、メロヴィング朝の法律では「豚飼いが自由に森の道を通ることができる」とされており、中世のロンゴバルディでは「他人の森で豚に餌を与えることは犯罪」とされていました。また、アングロ・サクソンの法律では、豚を保護するために木を伐採することは、その他の目的で木を伐採することの2倍の罰金が科されるケースがあったそうです。


他にも、中世のウェールズでは豚が盗まれた際の賠償金に関する詳細な記述があり、「これは当時の豚が種類によりどのように評価されていたかを知る参考になる」とケルクホフ准教授は記しました。また、当時は繁殖用の猪が村単位で共同利用されていたため、これが盗難された場合は最も高い賠償金を受けられると記されています。メロヴィング朝の法律にも豚の盗難に関する記述があり、他の法律ではほとんどない「去勢された猪の盗難に対する賠償金」の記述があるとのこと。

では、中世ヨーロッパの農場周辺には豚が全くいなかったかというとそういうわけではなく、中世初期には、繁殖用の雌豚と子豚が農場近くに設置された囲いや、鍵をかけることができる檻の中で飼われていました。子豚はここで3年かけてゆっくりと育てられ、その後、森や休閑地の放牧集団に合流していたそうです。また、中世初期以降、豚の放牧に利用できる森林が減ったのちは、ますます村の周辺で豚が飼われるようになった模様。しかし、ヨーロッパの多くの地域で中世に登場したパンネージが現代まで残っていたため、「中世の豚は農耕動物として扱われていた」というイメージは間違ったものであるとケルクホフ准教授は語っています。

ケルクホフ准教授は「ゲームの中で中世の豚を正確に表現するには、何を変える必要があるでしょうか。まずは、ピンク色の肌とずんぐり太った胴体、短い足をした現代の豚をモデルとすることをやめるべきです。幻想的な動物ですらアニメーションで表現できるゲームは、固定概念を破壊し、学術的な洞察を多くの人に提供するのにピッタリな媒体といえます。そのため、近いうちにゲーム開発者が中世を舞台とするタイトルで、楽しそうに歩き回る毛むくじゃらな小柄な豚を表現するようになるかもしれません」と記しました。

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