習近平が継続する中国「ゼロコロナ」は何を意味するか

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10月に入り、本格的な秋となった。季節感が乏しくなったといわれるこの頃だが、秋はやはり到来している。早朝の駅周辺は仕事に行く労働者の姿が薄闇の中でよく見えなくなった。1カ月前だったら彼らの姿は朝の光で浮かび上がったが、10月に入ると暗闇に早足で歩く音しか聞こえない。もう1カ月もすれば、朝5時頃は真っ暗だろう。気温も下がってきた。

新型コロナウイルス(covid-19)オーストリア保健・食品安全局(AGES)公式サイトから

テレビのニュース番組を観ていると、よく知られるウイルス学者が登場し、新型コロナウイルスの新規感染者が増加してきていると指摘、FFP2マスクの着用を推奨していたが、コロナ元年の2020年や昨年のように強いアピールではなく、自己責任でマスクを着用することを勧める、といった少々腰が引けたメッセージだ。

もちろん、それなりの理由はある。欧州を席巻しているオミクロン株は感染力はあるが、致死力は低く、感染しても重症化しないといったデータがあるからだ。気の早い学者は「コロナ感染はインフルエンザと同じ」と主張している。ロックダウン(都市封鎖)の日々を体験した国民はそれを聞いて安堵する。

ところで、新型コロナウイルスの発祥地ともいうべき中国では習近平国家主席が「ゼロコロナ」政策を依然実施している。世界第2の経済大国に発展した中国共産党政権にとって国民経済の発展は不可欠だ。「ゼロコロナ」政策はその経済発展にはマイナスとなることは明らかだ。欧州諸国がここにきてコロナ規制の全面撤回を決定したのは、コロナ規制が国民経済の発展を阻害するからだ。経済界、ビジネス界からコロナ規制の撤回の声は久しく聞かれた。

中国でもオミクロン株が主流と思うが、なぜ習近平主席は「ゼロコロナ」に拘るのだろうか。習近平主席はコロナ元年から2年間あまり外遊を控えてきた。ここにきてようやく必要最小限の海外訪問をこなしだしたが、主流は依然オンライン会議、ビデオ演説だ。対面会議を避けているのだ(「外遊できない国家元首の様々な理由」2021年10月17日参考)。

ロイター通信が上海発で13日報じたところによると、「中国では新型コロナウイルスの新規感染者が9月の2倍に増加しており、ゼロコロナ政策は当面続くとみられている」という。国家衛生健康委員会によると、12日の新規感染者(無症状感染者を含む)は1624人。前日は1890人で、9月後半の平均900人から倍増している。欧州の新規感染者数と比較すると、中国の数字は限りなくゼロに近い。

習近平主席が人並み外れて用心深いのかもしれないが、当方は「ひょっとしたら習近平主席は武漢発の新型コロナの正体を知っているのではないか」といった疑問をもっている。中国共産党政権は過去、武漢ウイルス研究所(WIV)のウイルス流出説に対しては必死に否定してきた。欧米諸国でオミクロン株は重症化リスクが少ないというデータに基づいてコロナ規制を緩和したが、中国側には別のデータがあるのではないか、といった憶測が流れている。

人口14億人の中国では感染力のあるオミクロン株が急速に拡散する危険性は大きい。そして重症化リスクが少ないとはいえ、感染が広がることで新しいタイプのコロナウイルスが生まれてくる危険性は大きい。致死力のあるデルタ株に感染力のあるオミクロン株が合流し、ワクチン接種を無効化する新コロナウイルスが近い将来、登場してくるかもしれない、という声はウイルス学者の中には少数派だが聞かれる。

習近平主席は黙っているが、コロナウイルスはこれからその牙を剥き出す段階に入ってきているのではないか。それゆえに、国民経済のブレーキと分かっていても「ゼロコロナ」政策を継続していかなければならないのではないか。

欧米諸国のメディアはロシアのウクライナ侵攻問題に集中し、コロナウイルスの起源問題は忘れてしまった。中国側のプロパガンダと偽情報工作の効果もあって、もはやコロナウイルスの起源問題を真剣に調査している学者、メディアは少なくなった。それゆえに、中国共産党政権、習近平主席の「ゼロコロナ」政策が逆に不気味となってくるのだ。世界の覇権を狙う中国は本来、国民経済のさらなる発展に力を注ぐべきにもかかわらず、そして国民から「ゼロコロナ」政策への不満の声が高まっているにもかかわらず、「ゼロコロナ」政策に固執しているのだ。その頑固さに疑問をもつべきだろう。

ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は、「武漢から公表されたプロジェクトから危険な実験が行われたことが分かるが、その実験でSars-2が生まれてはこない。科学者たちはコウモリに新しい特性を組み込んだだけで、それをSarsCov-2の前身とみなすことは出来ない。遺伝子工学を使用して新しいスパイクタンパク質がコウモリウイルスに組み込まれた機能獲得実験で、ウイルスはよりよく増殖する可能性があることを示している。コロナウイルスはスパイクタンパク質にフューリン切断部位(PRRAR)を持っている。コロナウイルスの発生源問題では自然起源がはるかに可能性は高い。WIV起源説を完全に除外したくはないが、それは現在時点では一つの可能性だ。いずれにせよ、中国が全面的に協力した場合にのみ、全容が明らかになるが、残念ながら、中国側は実験内容の全容を隠蔽している」と述べている(南ドイツ新聞とのインタビュー=2月9日の中で答えたもの)。

コロナ感染3年目を迎えた今日、WHO(世界保健機関)は今こそ中国共産党政権にWIVでの実験データの全容開示を強く要求すべきだ。メディアもコロナウイルスの発生問題を解決済みとはせず、機会あるたびに追及すべきだ。コロナウイルスは14日の時点で世界で6億2400万人が感染し、657万人以上の犠牲者が出ている(「武漢ウイルス発生源解明は可能だ」2021年11月2日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。