「街の形見」浴場で使われていたタイルの一部を大切に保管する

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街の形見(パリッコ)

「無人島には持って行かない、大切にしまっておく自慢の品」というテーマを聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、僕が仕事場で使っているテーブルでした。

これは、以前デイリーポータルZで取材し「ご近所の名店『龍正軒』50年の全歴史」という記事を書かせてもらった、龍正軒という店でかつて実際に使われていたもの。僕の住んでいる石神井公園にあった小さな町中華の名店で、残念ながら昨年末、閉店してしまいました。

僕が龍正軒と関われたのは、その50年にもおよぶ歴史の最後の最後、ほんのわずかな間だったのですが、不思議な縁でつながりができ、そして、「閉店後にお店に残ったものは、なんでも持ってっていいよ」とまで言ってもらいました。そういう場合は普通、お皿やグラスなどを1、2枚譲り受けるといったパターンが多いかと思うのですが、ご主人が「捨てるのにもお金がかかるから、本当に好きなだけ持っていって」と言うので、巨大なアウトドア用カートを引いていって、業者か! っていうレベルで、お店で使われていた食器類をごっそり引きとらせてもらったのでした。

なかでも最大の大物が、ふたりがけのテーブル&椅子のセット。昔ながらの町中華にはよくある、真っ赤な、テーブルの下に雑誌なんかが入れられるラックがついている、あれ。椅子は鉄パイプ製で、クッション部分は真っ黒な皮張り。「いやいや、そんなテーブルで仕事する?」って思われる方も多いでしょうが、これがまことに具合良く、雑誌ラックにMac miniを置いて、テーブルにモニターとキーボードを置いて、そこで日々原稿を書いています(今も)。

同様に、悲しいことではあるけれど、閉店してしまった大好きだったお店から譲り受けたものが、何年もかけ、僕の家に少しずつ増えてきました。

青春時代の思い出の店で、2010年に閉店してしまった高円寺「あかちょうちん」の、お皿やビールジョッキ。多摩川の河川敷にあった川茶屋「たぬきや」の「いらっしゃいませ」と書かれた木札や、とっくり、おちょこ。酒飲みの間ではもはや伝説と化していた老舗酒場、「河本」のホッピー用セット一式。「さくら新道」という横丁ごと幻のようになくなってしまった「スナックまち子」のビールグラス。龍正軒と同じく石神井にあった町中華「ラーメンハウスたなか」の餃子皿やコップ。

初めは何気なくもらっていたのが、だんだんたまっていくうちに、なにかひとつのジャンル、文化的に重要なコレクションのように思えはじめ、僕はこれを勝手に「街の形見」と名づけました。コレクター気質の希薄な自分にとっては、唯一のコレクションと言えるかもしれません。

珍しいところだと、昨年、地元の大好きな銭湯「友の湯」が閉業し、あっけなく取り壊されてしまったあと。すっかり更地になってしまった跡地の前に立ち、だだっぴろいだけの風景を切なく眺めていたら、ふと、すぐ手の届く足元に、運び出されもれたのでしょう、浴場で使われていたタイルの一部が落ちているのに気がつきました。

どう考えても捨てられるはずだったものだから、窃盗には……ならないよな。と、持ち帰らせてもらった「友の湯のタイルの一部」。これも、絶対に捨てられない、けれども無人島に持っていったってどうしようもない、大切な街の形見のひとつです。

終わってふたたび解説です

パリッコさんの人柄の良さでいろんなものを譲り受けてもらえるんだな、ということがよくわかりました。
この「友の湯のタイルの一部」は、キラキラしているように見えてアクセサリーのパーツにしたくなってしまいました。無人島へは持っていかないけど、大事に持っていてほしいものです。(はげます会担当 橋田)

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