スペックも実力も超ド級! Wi-Fi 6Eで実効2.39Gbpsを叩き出すNECプラットフォームズのフラグシップルーター「Aterm WX11000T12」を試す【イニシャルB】

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 NECプラットフォームズから、8月の法改正で新たに解放された周波数帯である6GHz帯を利用可能なWi-Fi 6Eルーター「Aterm WX11000T12」が発売された。

 国内では、いち早く登場を予告してきた同社の意欲作だ。実売2万円台前半の「Aterm WX7800T8」も魅力的だが、今回は、超ド級のスペックと実力を備えた12ストリーム、10Gbps有線対応のフラグシップモデルAterm WX11000T12を利用して、果たして「無線最速」を実現できるのかを検証してみた。

「Aterm WX11000T12」

ついに解禁された「Wi-Fi 6E」とは?

 ついにWi-Fi 6Eが実際に家庭やオフィスで利用可能になった。

 Wi-Fi 6Eは、従来のWi-Fi 6の延長線上にある規格だ。基本的な通信方式や通信速度はそのまま継承しながら、これまで利用可能だった2.4GHz帯、5GHz帯に加え、6GHz帯と呼ばれる新たな帯域が利用可能になる。

  • 2.4GHz帯
    2400~2497MHz 1ch~13ch
  • 5GHz帯
    5150~5250MHz(W52) 36ch~48ch
    5250~5335MHz(W53) 52ch~64ch
    5470~5730MHz(W56) 100ch~144ch
  • 6GHz帯
    5925~6426MHz 1ch~93ch

 「なんだ。チャネルが増えただけか……」と見くびらないで欲しい。

 現状のWi-Fi 6も、160MHz幅の利用で最大2402Mbps(2ストリーム)または最大4804Mbps(4ストリーム、主に親機側)という高速な通信が可能だが、この方式の場合、近隣と干渉しない帯域は160MHz幅で2系統しか確保できない。

 これに対してWi-Fi 6Eでは、160MHz幅でも干渉しない組み合わせを新たに3系統選択できるようになることで、近隣との干渉を避けることが容易になる。

 また、Wi-Fi 5など古い規格の機器は6GHz帯には対応しないため、こうした機器の通信規格の制約に足を引っ張られて速度が低下することもない。Wi-Fi 6以降で定められた最新技術をフル活用した通信が可能になるわけだ。

 例えるなら、Wi-Fi 6Eは、最新のクルマのみが通行を許可された、新たに建設された高速道路のようなものだ。観光シーズンなどで渋滞する古い高速道路を横目に、Wi-Fi 6E対応機器のみの通行が許可されたガラガラの新高速道路をスイスイと快適に走行することができる。

 しかも、今回登場したNECプラットフォームズの「Aterm WX11000T12」と「WX7800T8」は、同社初のトライバンドに対応しており、従来の2.4GHz帯、5GHz帯、そして6GHz帯と3つの帯域を同時に利用することができる。

 トライバンド対応は、これまで海外メーカーのハイエンドモデルなど、限られた製品のみで採用されており、国内メーカーではほとんど見かけることがなかった。しかし、今回のWi-Fi 6Eで、簡単かつ安心で、IPv6対応も万全の国内メーカーも、いよいよハイエンドルーター分野での頂点を目指した争いに参戦してきたことになる。

Wi-Fi 6E子機は現状はなし

 このようにWi-Fi 6Eは、基本的に従来のWi-Fi 6より優れた方式と言えるが、実際に製品を購入する場合は、対応子機に注意が必要だ。

 Wi-Fi 6Eルーターであっても、従来の2.4GHz帯や5GHz帯を利用する場合は、既存のPCやスマートフォンを問題なく接続できるが、新たに追加された6GHz帯を利用するには、PCやスマートフォンなどの子機側もWi-Fi 6Eに対応している必要がある。

 現状は、とりあえず2.4GHz帯や5GHz帯で接続しておいて、PCやスマートフォンが対応したら6GHz帯を堪能するという使い方をするか、後述する本稿のテストのようにメッシュ構成のバックホールとして6GHz帯を活用し、クライアントは5GHz帯でつなぐという使い方をするといいだろう。

 その点、Atermでは独自仕様により6GHz帯のバックホールを実現しているため、フロントホールを使う6GHz帯対応子機を待たずとも、現時点で6GHz帯を活用できているのは大きな魅力だろう。Wi-Fi 6Eの6GHz帯に対応する子機を入手すれば、その環境のまま6GHz帯のみでの通信を実現できる。

Lenovo「ThinkBook 13s Gen 4(AMD)」と「Google Pixel 6」。対応モジュールを搭載しているが、本稿執筆時点ではファームウェアやドライバーが対応しておらず、6GHz帯のSSIDを検出できない

超ド級スペックで攻めてきた「Aterm WX11000T12」

 前置きが長くなったが、いよいよ実機をチェックしていこう。

 NECプラットフォームズから登場したAterm WX11000T12は、最大4804(6GHz帯)+4804(5GHz帯)+1147Mbps(2.4GHz帯)と、全ての帯域が4ストリームに対応したトータル12ストリーム(!)のWi-Fiルーターだ(実売価格5万円前後)。

 ちなみに、同時発売のAterm WX7800T8は、同じくトライバンド対応だが、2402(6GHz帯)+4804(5GHz帯)+574Mbps(2.4GHz帯)と5GHz帯のみが4ストリーム対応で、ほかは2ストリーム対応となる。有線も1Gbps対応となるが、機能的にはほぼ同等で、実売価格は2万3000円前後と、コストパフォーマンスでは海外メーカーをも上回る意欲作となっている。

 個人的には、筆者が自分で使うなら性能重視でAterm WX11000T12。家族や友人に進めるならコスパ重視でAterm WX7800T8という印象だ。

「Aterm WX7800T8」

Aterm WX11000T12 Aterm WX7800T8
実売価格 5万円前後 2万3000円前後
CPU クアッドコア デュアルコア
メモリ
Wi-Fiチップ
対応規格 IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
バンド数 3
160MHz対応
最大速度(2.4GHz) 1147Mbps 574Mbps
最大速度(5GHz) 4804Mbps 4804Mbps
最大速度(6GHz) 4804Mbps 2402Mbps
チャネル(2.4GHz) 1-13ch
チャネル(5GHz) W52/W53/W56
チャネル(6GHz) 1-93ch
ストリーム数(2.4GHz) 4 2
ストリーム数(5GHz) 4 4
ストリーム数(6GHz) 4 2
WPA3
メッシュ
IPv6
DS-Lite
MAP-E
WAN 10Gbps×1 1Gbps×1
LAN 10Gbps×1、1Gbps×3 1Gbps×4
LAG ×
USB ×
セキュリティ ホームネットワークセキュリティ
VPNサーバー ×
動作モード RT/AP/MESH
ファーム自動更新
本体サイズ(幅×奥行×高さ) 90×257×237mm 76×213.5×196.5mm

 話を戻そう。Aterm WX11000T2の最大の特徴は「妥協」がない点だ。12ストリームのWi-Fiのスペックもそうだが、有線もWANが10Gbps×1、LANが10Gbps×1+1Gbps×3となっており、WAN/LANともに10Gbps対応。搭載されるCPUもクアッドコアと高性能で、ハードウェアとしては現時点でのハイエンドルーターの理想形に近い。

 それでいて「さすが」と思わせるのは、この落ち着いたデザインだ。

 海外メーカーに多く見られる、トゲトゲ、ビカビカのいかにも強そうな雰囲気とは一切無縁。

正面

 ホワイトとブラックのツートンのシックなイメージで、もちろんアンテナは全て内蔵。さりげなくラウンドした面で、若干、個性を主張しながらも、ロゴやLEDは控え目と、奇をてらったところのないNECらしい落ち着きがある。

 スタンド込みで90×257×237mmというサイズは、デザイン的にもよく似た、あのゲーム機と同様に、はっきり大きくは感じられるが、前述したような控えめなデザインとなるため、白い壁際に設置すれば、溶け込んでいってしまいそうな雰囲気さえある。

側面

背面

 インターフェースは、前述したように背面にWAN、LANそれぞれの10Gbps×2、LANの1Gbps×3を搭載。もはや、国内メーカーでは当たり前になってしまっていて、レビューでも触れられることが少なくなったが、ルーターやアクセスポイントなどの動作モードを切り替えられる物理スイッチが搭載されていて、ハイエンドだからとユーザーを突き放すことなく、迷わず使うための設計がきちんと踏襲されている。

インターフェース。10GbpsポートをWANとLANに搭載

 アンテナは、前述したように6GHzの送信4×受信4、5GHzの送信4×受信4、2.4GHzの送信4×受信4を全て内蔵。しかも、単に内蔵されているだけでなく、同社ならではのワイドレンジアンテナPLUSによる3直交アンテナを搭載している。

 3直交アンテナは、単体のアンテナでX、Y、Z方向の全方位をカバー可能な、NECプラットフォームズの独自技術だ。スマートフォンなど、縦横、自由な方向で使う機器の場合、Wi-Fiルーター側のアンテナの特性が特定の方向のみだと、端末の向きによってWi-Fiの感度が変化してしまうが、3直交アンテナのおかげで、どの方向で使っても常に安定した通信が可能となる。

 Wi-Fiルーターのアンテナは、外付けか内蔵かが、常に議論の対象となることがあるが、Atermシリーズの場合、この技術によって、外付け並みの感度の高さを実現しながら、内蔵ならではのデザインの美しさの両立を実現している。こうした点でも妥協が見られないのは魅力だ。

何も省かず、欲しい機能を全て搭載した正真正銘のフラグシップモデル

 機能的にも妥協がない。Atermシリーズは、安心や安全といった点にも配慮した多機能なルーターだが、こうした従来モデルで積み上げてきた機能のほとんどを継承しており、以下のように、同社が現状提供可能な機能を余すところなく搭載している。

  • バンドステアリング、オートチャネルセレクトによる適切な帯域とチャネルの選択
  • QoSによるゲーム時などの優先端末制御
  • MAP-E、DS-LiteによるIPv4 over IPv6接続への対応
  • メッシュ中継機能による複数台を利用した中継機能とスムーズなローミング
  • 見えて安心ネットによるメッシュや接続子機の見える化
  • リモートワークWi-Fiによる在宅勤務時のネットワーク分離
  • ファームウェア自動アップデートによる脆弱性対策
  • トレンドマイクロホームネットワークセキュリティによる不正通信の遮断やフィルタリング(最大90日間無料)
  • ホームネットワークリンクによるAtermの遠隔メンテナンス
  • Wi-Fi設定引越しによる既存のWi-Fiからの自動設定引継ぎ
  • QR Wi-Fi設定によるQRコードを利用したかんたん接続

 中でも注目は、トレンドマイクロの技術を利用したホームネットワークセキュリティ機能だ。機器の安全性診断や不正サイトブロック、不正侵入防止などのセキュリティ機能を90日間無償で利用できる。

ホームネットワークセキュリティが標準でオン。90日間無料で利用できる

 もちろん、設置や設定も簡単で、基本的には接続するだけで回線種別などを自動的に判別して設定してくれる上、初期設定もスマートフォンから画面の指示に従って進めていくだけと簡単に済む。

 欲しい機能を全て搭載した正真正銘のフラグシップモデルである一方で、誰でも扱いに困らないというのは実にありがたい。自分で使うときも手間がかからないが、人に薦めても文句を言われることがないからだ。

 特に、Wi-Fiルーターは、ファームウェアのアップデートや暗号化設定など、セキュリティ対策の重要性が総務省などからも盛んに告知されているが、そのために特別な対策が必要になるわけではなく、自然と流れの中で設定ができるのがありがたい。

 このほか、地味だが、つなぎ方ガイドや総合カタログなどに、持続可能な森林管理のもとで生産された材質の紙を利用していたり、植物油インクを利用していたりと、SDGsへの取り組みも進めている。こうした真面目さも、NECプラットフォームズらしい一面だ。

取扱説明書

メッシュ構成で6GHz帯の実力を試す

 現時点では、Wi-Fi EasyMeshは規格自体が6GHz帯、つまりWi-Fi 6Eに対応していないのだが、Atermではフロントホールだけに留まらず、バックホールでも6GHzに対応させており、同社の技術力の高さが伺える。有線LANを越えた、このインパクトのある結果を紹介しよう。

 現状、6GHz帯を利用できるPCやスマートフォンが存在しないため、今回はAterm WX11000T12を2台利用してメッシュを構成し、その速度を計測した。

 2台のAterm WX11000T12の間(バックホール)が6GHz帯で接続されていることを確認した上で、それぞれのAterm WX11000T12にPCを10Gbpsの有線で接続した。つまり、以下のような構成で、純粋にAterm WX11000T12の6GHz帯の無線速度を計測したことになる。

PC1 ―(10Gbps有線)― WX11000 ―(6GHz帯無線)― WX11000 ―(10Gbps有線) ― PC2

 ちなみに、AtermシリーズのWi-Fiルーターには「見えて安心ネット」という機能が搭載されており、メッシュの状況や6GHz帯の接続状況を図式化できる。見えにくい無線が見える化できるのは分かりやすいメリットだ。

テスト時のネットワーク図。こうした接続状態を一目で見られるのも、Atermシリーズのメリットだ

 2台のAterm WX11000T12を同一フロアに設置した場合の速度は、何と下り2.39Gbps。参考として、2.5GBASE-Tの有線LAN、1000BASE-Tの有線LANの速度を掲載したが、1階、つまり同一フロアであれば、2.5GBASE-TとAterm WX11000T12の無線はほぼ互角となる。

 もちろん、iPerf3のこんな速度を無線環境で見たのは初めてだ。

メッシュ構成(有線10G-6GHz-有線10G)

1F 2F 3F入口 3F窓際
Aterm WX11000T12×2(6GHz) 上り 2350 1330 876 376
下り 2390 1480 922 453
2.5GBASE-T(有線) 上り 2360
下り 2330
1000BASE-T(有線) 上り 948
下り 946

※サーバー、CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、ストレージ:NVMe SSD 1TB、有線LAN:Marvel AQtion 10Gbps、OS:Windows11 Pro ※クライアント:ThinkBook 13s Gen 4(AMD)(CPU:Ryzen 6800U、メモリ:6GB、ストレージ:NVMe SSD 1TB

※Aterm WX11000T12を10GbpsでPC1に接続し、PC2からコマンドベースでiPerf3を実行して計測

 続いて、少々手間取ったが、片方のPC(なにせ10GbpsでつながなくてはならないためデスクトップPC)を2階、3階に移動させて、同じく10Gbpsの有線接続の端末間の速度を計測した。

 2階は下り1.48Gbpsと、フロアが異なるにも関わらず1Gbps越え。参考として掲載している1000BASE-T有線LANよりも確実に速い。3階に上がっても速度は衰えず、下りで900Mbpsオーバーと、こちらも1Gbpsの有線並みだった。

 ようやく無線らしい速度になるのは、我が家では最も遠い3階窓際で、ここにAterm WX11000T12を設置すると、下りで453Mbpsとなった。今までの速度を比べると遅いと感じるが、無線の速度としては、かなり速い。

 つまり、筆者のように木造3階建ての住宅で、フロア間の通信に困っている場合でも、有線ケーブルを引き回す工事をすることなく、1Gbps以上の速度を実現できることになる。なかなかインパクトのある結果と言えるだろう。

 なお、5GHz帯のW53やW56のチャネルを利⽤する場合、DFSによって初回起動時に電波状況のサーチが実⾏されるため、アクセスポイントの電源オン直後はSSIDが⾒えない場合があるが、6GHz帯はDFS不要のため、こうした待ち時間もない。

 また、筆者宅ではほとんど起きないのだが、地域によっては気象レーダーなどを検知するとチャネル変更が発⽣し、1分間のサーチの間は切断されることになるが、6GHz帯であれば、こうした影響も受けない。こうした点でも、Wi-Fi 6Eのメリットを実感できるところだ。

Wi-Fi 6Eの実力を堪能できる高性能機

 以上、NECプラットフォームズのWi-Fi 6E対応ルーターのフラグシップモデルであるAterm WX11000T12を実際にテストしてみたが、予想以上に実力の高い製品と言える。個人的には、メッシュと中継はトライバンドが最適だと思っているが、まさにそれを証明する結果で、しかも、空いている帯域による恩恵の大きさを実感させられた。

 価格とサイズは気になるが、それをカバーしてあまりある快適性が手に入ることは間違いない。空いている6GHz帯を堪能したいのであれば、いち早く手に入れて使い始めるべきだろう。

(協力:NECプラットフォームズ株式会社)

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