YouTubeが「デジタル版鉄のカーテン」に抗いながらもロシアで動画配信を続けられる理由とは?

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ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、ロシア政府はTwitterやFacebookといった「ロシア国民にとっての国外からの情報源となり得るプラットフォーム」へのアクセスを制限しています。しかし、YouTubeだけは記事作成時点でもロシア国民がアクセス可能なプラットフォームとなっており、「なぜYouTubeはロシアの規制対象になっていないのか?」について、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じています。

How YouTube Keeps Broadcasting Inside Russia’s Digital Iron Curtain – WSJ
https://www.wsj.com/articles/how-youtube-keeps-broadcasting-inside-russias-digital-iron-curtain-11659951003

YouTube: Latent Power and a Potential Flash Point within Russia? : Stephen E. Arnold @ Beyond Search
http://arnoldit.com/wordpress/2022/08/08/youtube-latent-power-and-a-potential-flash-point-within-russia/

ロシアがウクライナとの戦争を始めて以来、TwitterやFacebookといったさまざまなプラットフォームが、ロシア政府関連の反ウクライナデマを発信するアカウントを削除するなどして、戦争を仕掛けるロシア政府に反対する立場を明確に示してきました。その結果、ロシア政府はTwitterやFacebook、その他ニュースサイトへの国内からのアクセスをブロックするようになりました。このアクセスブロックは、ロシア国外からの戦争に関する「偏りのない情報」を国民が目にする機会を制限するためでもありました。

ロシア当局がTwitterやFacebookへのアクセスを制限する – GIGAZINE


YouTubeもロシア政府に対して制裁を加えるために、「ロシアの国営メディアがYouTube広告を使用することを禁じるなどの施策」を実施しています。しかし、2022年8月時点でもGoogle傘下のYouTubeは、ロシア人が独立したメディアからロシアとウクライナの戦争に関する画像を閲覧したり、議論したりすることができる数少ないプラットフォームのひとつとして残ったままです。Googleの幹部も「ロシアでYouTubeが利用できる状態」は長く続かないと予想していたそうで、この状況は多くの関係者にとって意外なものと言えます。

ロシアの国営メディアがYouTube広告の使用を禁じられてウクライナ国内からの視聴も規制される – GIGAZINE


一方で、ロシア政府はYouTubeに対して閉鎖したロシア政府関連のYouTubeチャンネルを復元するよう再三要求。その後、「違法なYouTube動画を削除しなかった」としてGoogleに年間収益の最大20%を罰金として科すと警告。この結果、Googleのロシア法人は銀行口座を押収され、破産するに至りました。

Googleのロシア法人が銀行口座を押収されて破産 – GIGAZINE


上記の通り、GoogleおよびYouTubeとロシアの関係は良好とは言えませんが、それでも記事作成時点でロシア政府はYouTubeへの国内からのアクセスを制限していません。ロシア政府はMeta傘下のFacebookおよびInstagram、Twitter、さらにはGoogleのGoogleニュースですら国内からのアクセスを制限しています。ウォール・ストリート・ジャーナルはロシア政府による国内からのアクセス制限を「デジタル版鉄のカーテン」と表現しています。なお、YouTube以外にこの「デジタル版鉄のカーテン」の制限から免れることに成功しているのは、チャットアプリのTelegramのみです。

「デジタル版鉄のカーテン」により、ロシア政府はウクライナとの戦争に関する正確な情報や、ロシア政府によるプロバガンダに異議を唱えるようなコンテンツを含むニュースサイトを、何千件もブロックしてきました。YouTube上にも「デジタル版鉄のカーテン」により規制されてきたコンテンツと同様の動画が多数アップロードされています。それでもYouTubeがブロックされていない理由について、専門家は「ロシア政府はYouTubeの人気が高すぎてブロックできないと判断したためでは」と言及しています。

Google、Meta、Twitterといった企業でポリシーコミュニケーションスタッフとして働いてきたというNu Wexler氏は、「ロシア政府は国内でYouTubeのような人気のあるプラットフォームをブロックすれば、国民からの反発に直面することを理解しているわけです」と語りました。

ウォール・ストリート・ジャーナルはYouTubeがアクセス制限の対象となっていない理由について、ロシアの通信規制当局に質問を投げかけていますが、記事作成時点で当局からの返答は得られていません。なお、ロシア政府の広報担当者は2022年3月時点で、インターネットアクセスに規制を課している理由を「ロシアに対して解き放たれた全く前例のない情報戦争のため」と説明しています。

2022年5月、YouTubeのスーザン・ウォシッキーCEOは、YouTubeがロシアでサービスを提供し続ける理由を「ロシア国民が『何が起こっているのか』を知り、外の世界からの視点を持つ助けとなることを望んでいる」と説明しました。


分析会社のSimilarWebによると、2022年6月時点のロシアでのYouTubeの月間ユニークユーザー数は8500万人を超えています。また、2022年4月にロシアの独立系世論調査会社であるLevada Centerが行った調査によると、ロシアでYouTubeは2番目に人気の高いソーシャルネットワークとなっています。なお、最も人気なソーシャルネットワークはVKontakteです。

YouTubeはロシアにおけるローカル動画ストリーミングサービスであるRutubeよりもはるかに高い人気を誇っています。SimilarWebによると2022年6月時点でのRutubeの月間ユニークユーザー数は970万人です。ロシア政府当局の関係者によると、ロシアの国営ガスプロムであるPJSCの一部門からRutubeは多額の資金を受けているとのこと。

しかし、ロシアで人権活動などを行う大統領評議会のメンバーであるイゴール・アシュマノフ氏は、「秋までにロシアでYouTubeへのアクセスがブロックされると予想している」とコメント。別の関係者は、YouTubeの動画を中継するためのサーバーを提供してきた一部のロシア企業が、Googleとの契約を破棄したと語っており、アクセスが制限されていなくてもYouTubeが視聴できなくなる可能性があると指摘しています。これに対して、Googleの広報担当者は「引き続きロシアでYouTubeにアクセスできるようにするために懸命に努力を続けています」と語りました。

なお、ロシアのYouTubeではMeduzaやTV Rainなどのロシアの独立系メディアが運営するYouTubeチャンネルが人気を博しており、2022年7月にはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の上級補佐官であるマーク・フェイギン氏によるロシア語でのインタビューがYouTubeの「急上昇」にランクインしています。ただし、ロシアのすべてのYouTubeユーザーがこの種の動画を視聴しているわけではないようで、ロシアで教育コンサルタントとして働くエカテリーナ・テルジさんは、「この種のコンテンツはスクロールしてスルーしてしまう」と語っています。

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