最近、オンラインゲーム内での誹謗中傷が問題になっています。マルチプレーヤーゲームでは人とのコミュニケーションが発生することがあります。お互いに協力して、いい感じにプレーできているならよいのですが、リアルと同様、トラブルが起きることも多々あります。その中で、誹謗中傷が起きることもあります。
弁護士事務所には、成人だけでなく中学生や高校生などの未成年者が相談してくるケースも多いそうです。基本的には、誹謗中傷を受けているという内容ですが、「誹謗中傷のような書き込みをしてしまった」と相談してくる人も多いとのことです。
一方、相談者が被害者のケースでは、発信者情報開示請求(以下、開示請求)などの依頼には数十万円のお金が発生すると伝えると、諦めることが多いようです。とは言え、あまりに許せないような内容が書き込まれているなら、お金はかかりますが、開示請求を行い、損害賠償を取れる可能性がないわけではありません。
プレースタイルの違いで喧嘩、仲良かった相手に個人情報が晒された
オンラインゲームで起こった事例を2つ紹介します。1つ目は裁判で開示請求を行ったケースです。
Aさんはあるオンラインゲームで仲良くなった仲間のBに、キャバクラで働いていることを教えました。その後、プレースタイルの違いなどから喧嘩になったのですが、BはAさんの働いている店と顔写真をTwitterに晒したのです。「このキャラクターはこの店のAさんで、黒服とできているのに、枕営業までしている」などと、誹謗中傷も行われました。
個人名までは教えていなかったのですが、Aさんが使っているキャラクター名とキャバクラで使っていた源氏名が似ていたため、ばれてしまいました。
Aさんはすぐに弁護士に相談しました。顔写真という個人情報が晒されているうえに、誹謗中傷が酷かったので、Twitterに開示請求を行いました。日本法人ではなく、アメリカの本社を相手方として東京地方裁判所で手続きを行います。TwitterからIPアドレスが開示されたら、プロバイダを特定し、今度はそちらに開示請求を行います。
現在、開示待ちですが、ここまで来ればログが残っている限り、相手方の情報が開示される可能性は高いでしょう。その後は、Bに対して損害賠償請求を行います。今回の件では30万円+手続き費用を求める予定とのことです。とは言え、弁護士費用が浮くわけでもありません。Aさんは弁護士費用を払える余裕があるため、相手を特定するために動くことができていますが、通常は費用面で諦めてしまうケースが多いようです。
日本でも誹謗中傷対策が進んでいますが、さらに開示請求の手続き費用の削減や賠償金額の増大が求められます。
グループから追放されたうえに誹謗中傷を受けた
もう一つの事例を紹介します。こちらは開示されなかったケースです。Cさんはあるゲームのグループに所属して、長らくプレーしていたのですが、ある日何の連絡もなくグループから追放されました。ゲーム内のチャットやグループリーダーDのYouTubeで、Cさんのことを攻撃する内容が投稿されました。
「ゲームをやめてくれ」「死ね」「障がい者だ」といった誹謗中傷が続いたのです。さらに「貸しているアイテムを返せ」など嘘まで吐いてきました。ゲームをやめたくないCさんは弁護士に相談することにしました。
開示請求をする場合、権利侵害が明らかで正当な理由が存在する必要があります。この事例では、キャラクターネームはCさんの個人情報ではないため、本人の名誉が毀損されたわけではない、と判断されました。
この場合は、Dをブロックしたり、運営に報告するといった一般的な対応を取るしかありませんでした。
重要なのはキャラクターと本人が明確に紐付いていること
とは言え、本名や顔写真が投稿されない限り、損害賠償請求ができないのか、というとそういうわけでもありません。プロバイダへの開示請求訴訟の際、今回と似た事例でも名誉感情侵害が認められたケースがあるそうです。Cさんのキャラクターネームの認知度によっては同定可能性も捨てきれないのです。
また、キャラクター名が本人と明確に紐付いている場合は、問題なく開示請求ができますし、損害賠償請求もできるでしょう。例えば、芸能人が特定のキャラクターネームでプレーしていて、それを公にしている場合、そのキャラクターに対して誹謗中傷すれば、本人の名誉を毀損していると受け取ることができます。他にも、eスポーツの大会に出ているような人のキャラクター名であれば、認知度は問題ないと考えられます。
オンラインゲームだからと言って、匿名だからと言って、誹謗中傷をしてよいわけではありませんし、裁判を起こされる可能性があるということは覚えておきましょう。未成年だとしても、成人と同様の裁判が行われるのです。
誹謗中傷をされた、してしまったという相談には12歳くらいの子供も来るようですが、もちろん12歳でも罪となる可能性があります。その場合の賠償責任は親が負うことになります。誹謗中傷は絶対に許されない、というデジタルリテラシーを子供達が身に付けられるよう、大人も肝に銘じておかなければなりません。
ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になりえますし、無意識に加害者になってしまう可能性もあります。この連載では、筆者が所属する「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」が独自に取材した情報を共有し、実際に起こった被害事例について紹介していきます。誹謗中傷のない社会を目指しましょう。