第26回参議院選挙(2022年7月10日実施)では、各党の明暗がくっきり分かれました。結果に影響した最大の環境要因は“ロシアによるウクライナ侵略の衝撃波”です。
自民党+8、維新+6、れいわ+3、N党と参政がそれぞれ+1ずつ議席を増やしました。その一方で立憲-6、国民と共産がそれぞれー2、公明がー1、議席を減らす結果になりました。結果一覧は表1、各党の増減状況はグラフ1の通りです。
明暗を分けた背景
それまで国際紛争といえば、中東やアフガニスタンといった「日本から遠く治安の悪いどこかの地域」のできごとでした。しかしロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、「安全な地域」と日本人が錯覚していた欧州で展開されました。特に、今回侵略を開始したロシアには、多くの日本人にとって俄かには信じがたい3つの(意表を突く)特徴がありました。
第一に、ロシアは国連安保理の常任理事国です。「世界平和と秩序の維持」を担うはずのロシアが武力侵攻による現状変更を強行したことは日本に対しても強い衝撃を与えました。
第二に、ロシアは核兵器大国です。核兵器大国ロシアが核兵器の使用にも言及してNATOの直接行動を抑止しました。つまり「まさかの核の恫喝」です。これはNPTをはじめとする核兵器の脅威を減らそうという国際努力を踏みにじる行為です。
第三に、ロシアはエネルギー資源の輸出大国です。ドイツをはじめとする世界中の国々がロシアからのエネルギーに依存しております。そのエネルギー資源を“戦略物資”として輸出停止や権益の一方的なはく奪をちらつかせるロシアに対して、NATO諸国や日本は、強制的に侵略を停止させる措置を持っていませんでした。
これら意表を突く事実は衝撃波として日本に伝播し、幻想によって現実を正視できなくされていた多くの日本人の目を醒ますことになりました。その虚構を具体的テーマに因子分解すると次の3要素となります。
1. 「国連主導の平和」または「戦闘ではなく話し合いで紛争を抑止・解決」という虚構
2. 産業の世界的役割分担が国際社会の安定をもたらすという虚構
3. 安定的なロシア産エネルギー供給を大前提とした「脱炭素と脱原発」という虚構
これらは、従来から野党が掲げてきた外交・防衛・エネルギー政策では、現実の脅威に対応できない事実を、多くの国民に再確認させることになりました。
影響の推定
ロシアによる侵略以後短期間のうちに、具体的には次のような3つの変化が国民の間に起こり、今回の選挙に影響したものと推定します。ただしこれは定量的な分析に資するデータが少ないので、あくまでも筆者の後知恵による定性的な推定に過ぎません。
<1. 憲法改正が優勢になった>
「国連主導の平和」または「戦闘ではなく話し合いで紛争を抑止・解決」という主張が虚構であることを認識した結果、ロシアの侵略前には憲法改正への反対派も2割以上いましたが、侵略後(選挙直前)には「改正反対」がわずか13%という少数派となり、「改正賛成」が圧倒的に優勢となりました(グラフ2参照)。この民意の激変によって、従来から「護憲」「論憲」「平和憲法(9条)を守る」「憲法改正反対」などを掲げてきた立憲民主党と共産党の劣勢が決定的となりました。
<2. 対中・ロ強硬姿勢が優勢になった>
「世界的役割分担が国際社会の安定をもたらす」という虚構は、親中的色彩の強い政策を掲げる立憲と共産に逆風となりました。
<3. 原発活用(再稼働)が優勢になった>
EUを主導するドイツは、ロシアのガス供給と再エネに依存(偏重)したエネルギー政策を採用していました。そのドイツ(EU)が熱心だった「脱炭素と脱原発」という虚構は、世界的な資源価格の上昇を引き起こしました。これが日本では、物価高の加速や電力供給の不安定化という現象につながり、生活への不安感を高めました。
この環境変化に伴う急速な民意の変化を政策に反映しきれなかった野党は浮動層の支持を一層失いました。特に旧民主党の流れを汲む立憲民主と国民民主の二党には「どれほど耳に心地よい政策を掲げようと国民からは信用されない」(※1)という負の遺産効果とも相まって、党勢を削ぐ効果をもっておりました。
※1 「どれほど耳に心地よい政策を掲げようと国民からは信用されない」について
「これは民意を象徴しているのでは」と感じた印象的な投書を2つ紹介します。読売新聞(7月12日朝刊)掲載の投書です。もちろん新聞社による選択というフィルターを通していることに留意は必要です。
参院選では各党が派手な公約を掲げていた。児童手当の拡充や消費税やガソリン税の引き下げ(中略)本当に実現可能なのかと疑問を感じざるを得なかった。有権者に聞こえの良い公約を掲げるのはいいが(中略)実現できる根拠を示さなければ現実味がなく、絵空事としか思えない。(読売新聞12日朝刊投書欄気流「関 喜代司氏(71歳)」より引用、太字は引用者)
中でも、旧民主党の流れをくむ立憲民主、国民民主の低迷はひどい。旧民主党時代に政権を担当した両党の議員は、なぜ自分たちが国民に支持されないのか、今一度真剣に考えてみてほしい。(同「今村 一志氏(63歳)」より引用、太字は引用者)
「一部候補者らの過激な訴え(ほぼ虚言)に惑わされず、冷静に判断している有権者」の存在を感じさせる文章です。また率直な表現でありながら品位を保つ一般有権者のこのような物言いと、大学教授の「叩き斬ってやる」という絶叫を対比するとき、知性がどちらにあるかは一目瞭然です。
立憲の惨敗が続く背景
特に立憲民主党については、泉代表に交代しても「論憲」と言って改正を遅滞させる姿勢は変わらず、国際情勢よりも組織内論理を優先する党の体質が滲み出ておりました。他にも国際環境の激変に直面した現在でも、防衛費や抑止力強化(敵地反撃能力保有)に関して政府への反対姿勢を保持するなど、「立憲には現実的な政権担当能力がない」という印象を国民に与え続けていました。
退勢著しい立憲民主党ですが、象徴的なのは森ゆう子氏の落選と蓮舫議員の得票数の減少ぶりです。
森氏は安倍政権への強い追及姿勢が目立ちましたが結局何ら収穫はありませんでした。“ヒアリング”と称する「詰問シーン」は「官僚いじめ」そのもので見るに堪えない映像と音声でした。また毎日新聞による“誤報”を根拠として原英史氏と戦略特区を論難し、更には原氏個人への“不法行為”(係争中)にエスカレートするなど、議員として行き過ぎた下品な活動が目に余り、民心は離れて行きました。今回の結果は、名を売るには十分な期間、派手な議員活動で注目を浴びた結果としての落選です。有権者からの声を冷静に聞き入れて、足元を見つめ直すべきではないかと考えます。
蓮舫氏は、事業仕分けで特段の成果なく、自身の二重国籍問題でも疑惑の完全払拭もできませんでした。これらが響いたせいでしょうか、今回の選挙における得票数は伸び悩み、最盛期に比べて6割超が他に流れました(グラフ4参照)。当選したとはいえ、退勢著しい立憲を象徴している苦戦ぶりでした。
これは個人的な印象に過ぎませんが、自身の疑惑さえ晴らせない一方で、政権や与党議員を殊更に厳しい表情と声で詰問するその様は、あまりに見苦しい姿でした。国会中継等を見ていても、彼女の登場場面ではチャンネルを変えたり消音したり、録画ならば早送りしてなるべく声を聞かないようにしておりました。
読売新聞は次のように伝えます。
2010年選は171万票、16年選は112万票でともにトップ当選を果たした現職の蓮舫さん(54)は今回、67万票余りにとどまり、4番手に甘んじた。(略)応援演説で全国を駆け回ったため、都内での活動は4日間のみ。SNSを多用して浸透を図ったが、頼みの綱の無党派層の支持は、共産党やれいわ新選組、日本維新の会などに流れた。(読売新聞オンライン7月12日より引用)