昭和の時代から「ミルクパズル」「牛乳パズル」などと呼ばれ、鬼畜的な難しさで知られる “無地のジグソーパズル”。絵柄が完成していく喜びはなく、ひたすらストイックにピースと向き合う作業は精神修行のよう。宇宙飛行士の選抜試験でも出題されたことがあるという。
集団生活への耐性ゼロで、かつ閉鎖空間に恐怖を感じる筆者は宇宙飛行士には心ひかれないが、漫画『宇宙兄弟』は夢中で読んだ。
宇宙飛行士や南極観測隊など極限状態に置かれるミッションでは、どんな能力のある人が「適性がある」と判断されるのか。っていうか、ジグソーパズルでなにがわかるのか。
完全なる野次馬で、株式会社ビバリーから発売された「宇宙飛行士 選抜試験 白無地ジグソーパズル」をやってみた。
・「宇宙飛行士 選抜試験 白無地ジグソーパズル」(税込1980円)
箱を開けると、100ピースのジグソーパズルのほかに「完成時間記録カード」が入っている。「サイズ、ピース、制限時間は実際の選抜試験の白無地パズルと異なります」とのことなので、あくまでイメージの再現だけれどロマンがある。
あれ、ピースが大きい。幼児用みたいなサイズだ。これ楽勝じゃ?
どれだけ細かく難しいかと思っていたのでちょっと拍子抜けしたが、プレイしてみよう。中断や休憩は認められない。また、ピース裏面を見ることも不可。90分以内に完成させれば合格だ。
時間の計測はアレクサに頼む。普段からパスタを茹でるときに「タイマー3分」と声をかけたり、「明日の朝8時に起こして」などと頼んだりするだけで時間を管理してくれる賢いヤツだ。
ところが、これが誤算だった。ポッ、ポッ、ポッ、ポッと妙に人を不安にさせる時報音が出る上に、「1分!」「2分!」と読み上げが行われる。
安定した精神力を示さなければならないテストなのに、秒読みされてめちゃくちゃ焦るじゃないか! ボリュームをゼロにしてアレクサを静かにさせてから、改めて作業を開始した。
まずはコーナーやフレームから作るのはジグソーパズルの定石だ。ピースの向きがはっきりわかっているので、ヒントが圧倒的に多い。これは簡単。
続いて中央部。真っ白なので絵や色は参考にならない。かろうじて救いなのは、ピースの裏表だけはわかるところ。
同じ形のピースごとに分けてみた。すると「よくある形のグループ」と「レアな形のグループ」があることがわかる。
レアなグループは形が特徴的なので、盤面をじっくり観察するだけでマッチする場所がわかる。トントン拍子に1段が埋まる。
ここからが本番。残ったのはとりたてて特徴のない、ありふれたピースだ。
ただし縦向きのピースと横向きのピースが、ケーブルのオスとメスのように規則的に連続することがわかった。意地悪な「ひっかけ」のない、比較的素直な構成と言える。
ここも闇雲に当てはめるのでなく、形をよーく観察することでピースを探し出すべきだろう。よく見るとひとつひとつのピースの、ちょこんと飛び出た頭部の大きさや、肩にあたる部分のカーブの角度が違う。
おそらく受験者の「観察力」や「論理的思考力」「計画性」を測られているはず。手当たり次第に作業を始める人はたぶん脱落だ。試験意図はバレバレである。
などとドヤッたが、すぐに計画は頓挫(とんざ)した。
全部同じに見える。
いや、よく見れば違うのだが、ここまで微妙な差異を見分け、かつその画像をキープして見比べるような脳スペックがない。絶対音感ならぬ “絶対形態識別” のような能力が備わっていたら、ささいな違いも見逃さないのに……!
やむを得ない。総当たりで行くしかない。いつまでも「準備」や「計画」にこだわっていては物事は進まない。ときに思いきった猪突猛進も必要では?
ピースをあてがい、合わなければ捨て、また次のピースをあてがい……という、ひとり人海戦術に打って出た。
途中から左手も使うようにしてスピードアップ!
さらに一度ピースを持ったら、複数カ所の候補地にあてがってから手を離すこととした。ひとつの動作でいくつもの可能性を試せる。
問題点を洗い出し、効率化を図る。これぞトヨタ式カイゼン!! この柔軟性や、臆せず方針転換するフットワークの軽さこそが宇宙飛行士に必要なものと言えよう。
ところが。
ピースの向きは2通りあるので、片側をあてがってハズレだったら、手首を返してもう片側もあてがうという作業が必要。つまり残り30ピースだったら、最大60回のマッチングが必要。やばい、手首の関節が痛い……。
疲れてきた。集中力が切れ、片手に持っているピースが「これから試すピース」なのか、「すでに試したピース」なのかわからなくなってくる。
ぶっちゃけ、この「総当たり方式」ならどんなにピースが多かろうと、絵柄が複雑であろうと、必ずゴールにたどり着ける。全部のピースを試したら、必ずひとつはアタリだからだ。ただし、それを持続する精神力さえあれば……の話だ。
いやいやいやいや、ここまで順調だったのに気を抜いてはいけない。もうひと頑張りだ。人間力を試されているぞ。自分を盛り立て、盤面と向き合う。
何度も何度も「だれる」→「自分を鼓舞して気を取り直す」という作業を繰り返し……
ついに最後のピースが
はまる。
やった。やったよ! どれくらいのタイムだったろうか。体感的には1時間くらいか。
我ながら相当クレバーに、かつスピーディーに作業したと思う。慎重に計画を立てるべきところは立て、作業量が求められるところは勢いをつけ、NASAやJAXAが求めているのはこんな人物なのではないか? なっちゃう、宇宙飛行士?
そんな満足の気持ちで「アレクサ、ストップウォッチを止めて」と声を発した筆者にアレクサが返したのは……
まさかの沈黙だった。
なんと
アレクサのストップウォッチの計測可能時間は……
最大1時間まで……
1時間を超えたら勝手に止まっておった……
※有料の拡張パックを購入すると最大4時間に拡張可能です。
まぁまぁまぁまぁ、筆者の場合は写真を撮りながら遊んでいるのでプレイ時間は算出可能だ。最初に撮影した写真から、最後に撮影した写真までの時間を計算すると、1時間22分。
げげっ、あとちょっとで制限時間オーバーで「不合格」じゃないか! 全然クレバーでもスピーディーでもなかった。すいません。
・集中力向上のトレーニングに
なお、今回の商品は100ピース。完成まで90分以内なら合格で、もし60分以内なら好成績と言える。実際の宇宙飛行士試験の過去問は公表されていないが、140ピースや180ピースで3時間以内だとか。
正直、絵のないパズルを完成させて楽しいかと聞かれれば、楽しくはない。けれど目の前のことに没頭する貴重な時間になる。
真っ白な盤面と向き合ううちに、自分の頭の中も真っ白に……なるのはヤバいが、集中力のトレーニングにもなりそう。遊び方の説明でも、記録更新を目指して何度も挑戦することが推奨されている。
ビバリー社のオリジナル要素として、裏面はかっこいい「太陽系図」になっているから、絵柄のあるパズルとしても飾れるぞ。