ヤングコーンの収穫体験をしてきました。
前にどこかの直売所で買ったフレッシュのヤングコーンがとてもおいしかった。これまで食べてきた水煮タイプとは、生のサクランボと缶詰のチェリーくらい違う。もし漫才師になったらヤングコーンというコンビ名を付けようと思うほど語呂もいい。
それにしてもヤングコーンってなんだろう。若いトウモロコシで正解なのだろうか。ミニトマトや芽キャベツみたいに品種が普通のものとは違うのか。
友人の友人が農家をやっていて、ヤングコーンを出荷していることが分かったので、いろいろ教えてもらってきた。
ヤングコーンを求めて川越へやってきた
七月上旬の午前十時に訪れたのは、埼玉県川越市で農家をやっている石田さんの畑。石田さんは季節ごとに様々な野菜を育てており、この時期はトウモロコシや枝豆などの出荷に追われている。
トウモロコシは太陽が昇りはじめると、実に溜め込んだ栄養が茎に逃げるので、せっかくの甘さが落ちてしまう。そのため今日は朝四時から収穫をしていて、とっくに出荷作業は終わっているそうだ。
トウモロコシとヤングコーンは、同じ畑で栽培されているそうだ。
石田さん:「うちではトウモロコシの副産物として、若いやつをヤングコーンとして居酒屋とかに卸しています。そろそろトウモロコシの収穫が最盛期なので、もうヤングコーンは終盤ですね」
やっぱりトウモロコシの若いやつがヤングコーンだったのだ。ではなぜまだ若いうちに収穫してしまうのか。副産物とはどういうことか。そこには腑に落ちる納得の理由があった。
ちょっともったいぶってみたが、すでに知識としては知っていることを、実体験によって確認するために頭を空っぽにして畑まで来ています。答えを知っている人も、真っ新な気持ちで続きを読もう。
トウモロコシ栽培の豆知識
ヤングコーンの収穫をしつつ、トウモロコシの育て方と受粉システムについて教えてもらったのだが、これがとても興味深かったので先に書く。
この畑には四列の畝にトウモロコシが植えられていて(畝には二条で「:::::::::::::::」と植えてある)、列ごとに種を蒔く時期を十日ずつほどずらしている。
これは多くの作物で採用されている栽培方法で、出荷のタイミングをずらすことにつながり、長期間少しずつ収穫できるようになる。一度にたくさんできてしまうと、人手が足りず収穫が間に合わなくなったり、需要よりも供給の方が多くなってしまうのだ。
成長したトウモロコシは、一番上にススキのような雄穂(雄花の集まり)を咲かせて、下に花粉を落とす。
それを幹にできる雌穂(雌花の集まり)から出る、絹糸(けんし)と呼ばれる細長い雌蕊で花粉を受けて、一粒ずつ受粉をするのだ。トウモロコシのヒゲは雌蕊だったのか。
この受粉がうまくいかないと、身の入りが悪いスカスカのトウモロコシになってしまう。この畑でも一番先に撒かれた左の列は、まだ雄花が少ない時期に雌花ができるため、粒の足りない実になることも多いそうだ。
雌穂の受粉が終わると絹糸は枯れて、まさにヒゲのような状態となる。
無事に受粉した雌花は粒が大きく育ち、我々が知っているトウモロコシとなるのだ。
ヤングコーンの正体
それでヤングコーンは何かというと、ただ若いトウモロコシというだけではなく、二番目以降にできる雌穂を摘果(間引き)したものなのだ。
トウモロコシは品種にもよるが、一本の幹に2~3個の雌穂を付けるが、売り物になるほど大きく育つのは一番上の一番目だけ。
一番目の後から下にできる二番目以降のトウモロコシも食べられるのだが、残念ながら小さくて商品価値は低いため、市場では値段がつきにくい。
そこで二番目以降は雌穂が若いうちに摘果して、残した一番目に栄養を集中させることで、より甘くて大きなトウモロコシに育てる。上の写真は摘果が間に合わなかったもの。
以前は摘果したヤングなトウモロコシに使い道はなかったが、最近はヤングコーンのおいしさが広まったことで需要が生まれたため、石田さんもその一部を出荷するようになったのだ。
摘果したトウモロコシなのでタダ同然の原価だが、これを商品として出荷しようとすると手間がかかるため、それなりの値段となる。一次産業あるあるだ。
石田さんの場合は飲食店へ卸しているため、サイズを揃えて数を用意したり、鮮度が落ちないように気をつけたり、なんやかんやで大変らしい。
産地の直売所などでは、サイズがバラバラのものを安く売っていることもある。私が以前に買ったものもそれだったのだろう。
ヤングコーンを生で食べてみる
採りたての野菜といえば、とりあえず生で食べられるかを試してみたい。テレビだったら定番の展開である。私にも「うまーい!」とか「あまーい!」とか叫ばせてくれ。
そもそもヤングコーンは生でも食べられるのだろうか。
石田:「食べられますよ。火を通した方がおいしいですけど」
まあ、そうですよね。
石田:「おすすめはレンチンか茹でて醤油とか、普通にバター炒めとか。天婦羅とかバーニャカウダもおいしいです。やっぱり缶詰とかの水煮とは全然違います」
ヤングコーンは加熱してこそ持ち味を発揮するんだろうなとは思いつつ、せっかく畑まで来たので、この小さいヤングコーンというかベビーコーンを、そのまま若いヒゲごと齧らせてもらった。
蛍光イエローのナイロン1.5号の釣り糸みたいな雌蕊に守られた芯を、どうにか前歯で探って齧る。
ええと、これは変わった食べ物だ。まずこれだけ毛むくじゃらなのに食べられる時点でおもしろい。
肝心の味はというと、生でも青臭くないし、甘味もちゃんとあっておいしい。ただ加熱した方が数倍おいしいんだろうなという気配をビンビンに感じる。
ハニュハニュと七回噛んで飲み込もうとしたら、ヒゲがわかりやすく喉の奥で引っかかった。
「生でも食べられる」と、「生で食べるとうまい」は別の話。石田さんから買わせてもらったヤングコーンは、しっかり加熱して食べよう。
レンチンで食べてみる
そして帰宅後、購入したヤングコーンを鮮度が落ちないうちに食べてみた。
まずは石田さんが定番だというレンチンから。外の皮を適当に剥いて、軽く洗って湿らせて、ラップで包んで600Wで一分間加熱。時間は適当である。
強烈に熱くなったヤングコーンの皮を剥くと、トウモロコシを茹でたような甘い香りが漂ってきた。
若いトウモロコシだから当たり前なのだが、市販の水煮では感じられないときめきがある。
ヒゲをどうするかちょっと迷ったが、とりあえず外してから塩をつけて食べてみた。
私がよく食べる(というほど食べないか)水煮のヤングコーンとは、やはり歯ごたえも甘味も風味もすべて違う。年中手に入る水煮もあれはあれでおいしいし便利だけれど、アスパラガスと同じように完全な別物と考えた方がいいだろう。
なんといってもパキっと割れる芯の噛み心地が最高。この食感は生から料理したからこそ。脇役のイメージが強いヤングコーンだが、これなら主役にもなれそうだ。もちろん加熱した方が生よりもずっとうまい。
せっかくなのでヒゲもそれだけで食べてみたところ、極細のオカヒジキ(という野菜)を食べているようで、これはこれで興味深い。
まさに食べられる糸。一本一本はそうでもないが、まとめて食べるとちょっと固い。味付けが塩だけだと、若干青臭く感じるだろうか。料理法次第では化ける気がする。
グリルで焼いてみる
続いては皮ごとグリルで焼いてみた。
泥付きのネギや、小さいタケノコをこうやって食べるとおいしいですよね。
皮を剥いて醤油を垂らして食べると、直焼きだからこその香ばしさが加わってうまい。間違いのない味である。
自分で焼くヤングコーンが焼肉屋の季節メニューにあったら、「肉だけじゃなく野菜も食べないと」という気持ちに刺さりそうだ。
オリーブオイル焼きにしてみる
シンプルに加熱するだけでも素材の味がわかって十分おいしいが、次は油という強い味方と組ませて調理してみよう。
せっかくなのでヒゲを伸ばした状態で、オリーブオイルで焼いてみる。
塩と胡椒と醤油で食べてみると、これがすごくおいしかった。油との相性がナスくらい良い。
とんがりコーンを彷彿とさせる歯ごたえ最高の甘い芯部分はもちろんだが、モキュモキュした謎の噛み心地になったヒゲが素晴らしい。なんだこれ。
もちろんヒゲなんて気持ち悪いよと思う人もいると思うが、生のヤングコーンが手に入ったら、個人的には一緒に焼くべきだと思う。
シャケでいえば皮、サンマでいったらハラワタ、くらい大事な要素ではなかろうか。どっちも食べない人は食べないけど。まあ好き好きですね。
ヤングコーンを揚げてみよう
ヤングコーンの中でも小さいものは、天婦羅にしてみよう。
もちろん美しい黄金のヒゲごとである。
ブワっと開いてほしいが、さてどうなるか。
鍋から菜箸で持ち上げたヤングコーンが、吸った油で重くなっている。普通は揚げると水分が抜けて軽くなるのだが。
こういう天婦羅は塩などというしゃらくさい食べ方ではなく、たっぷりの天つゆに決まっている。
揚げてもモキュモキュしている雌蕊がザクザクの衣と絡み合って、全く知らない歯ごたえになっていた。揚げることで甘さが増した芯部分もうまい。すごく気に入ったけど、次に食べられるのはいつなのだろう。
ちなみに衣を付けずに素揚げしたり、片栗粉を水で薄く溶いた衣も試してみたが、なんだかパッとしない仕上がりとなった。味はもちろんおいしいのだが。
煮浸しはどうだろう
最後は薄めたしろだしに酢をちょっと加えて、小さいヤングコーンを夏野菜と一緒に煮てから、冷蔵庫で冷やしてみた。
これも当然のようにヒゲごと料理する。
ヤングコーンは煮てもうまい。私が慣れてしまったせいもあるけれど、ヒゲの存在もまったく不自然じゃない。
まだまだ他にも、ピザの具にしたり、肉巻きにして焼いたり、炒め物にさりげなく加えたり、ヒゲをそうめんを混ぜたり、いろいろ試したい料理はあるのだが、買ってきたヤングコーンを食べ切ってしまった。
続きはまた来年のお楽しみだ。
ヤングコーンはおもしろい食材だった。こいつの持ち味である甘さや歯ごたえをどう生かしてやろうかと頭を捻る楽しさがある。成長具合で大きさや固さが違うのも料理の幅につながる。
そしてなんといってもヒゲ。これと似た食材が思いつかない孤高の存在は魅力の塊だ。私の好き嫌いがなさすぎるせいかもしれないが。いろいろ試してはみたが、未だに正解がわからないのも素晴らしい。
ヤングコーンのヒゲみたいな人間になりたいと思いながら食べた。ほとんどの人が普通に捨てそうだけど。