シンガポールに通称『火鍋通り』と呼ばれる場所があるらしい。火鍋屋が異様に密集したそのエリアは、シンガポールの原宿こと『ブギスストリート』からほど近く。さっそく行ってみたところ、大勢の中華系住民たちが昼間っからグツグツモグモグ鍋をつついておられる。
なお、この日の気温は35度。シンガポール人って本当に火鍋が好きなんだなぁ。私は正直全く火鍋を食べる気分じゃないが、このザ・アジアな雰囲気は嫌いじゃないぞ。しかし足早に火鍋通りを抜けようとした刹那……私はある店の前でピタリと歩みを止めた。そしてこうつぶやいたのだという。
「ここまでやるか」と……。
・我満悦! 食材種類豊富!
ただシンガポールの物価にビビり切っていた私は、入店前に慎重にメニューをチェック。
「ランチ20.8SGD(約2011円) / ディナー24.8SGD(約2398円)」と記載されているほかは、メニューのどこにも価格が表示されていない。ってことはバイキング? いやしかし、それにしては安すぎなんじゃなかろうか。ここは西川口じゃないんだぞ、シンガポールなんだ。
「この金額で本当に火鍋が食べられるの?」とお店の方に尋ねたところ、オッケーオッケー! と軽い返事。言葉があまり通じていないようでチト不安だが……まぁ、なんとかなるか。
店内の客は100%中華系。内装や雰囲気も余すところなく中華の匂いを放っている。
どうやらこの『武吉士烤涮』なる店、飲みものだけが別料金。あとは全て食べ放題のビュッフェスタイルであるらしい。無言でオーダー表を渡されるも、システムが謎すぎて立ち回り不可能。
マゴマゴしている私を見かねた店員さんが「スープは2種類選べる」「肉の種類も選べる」とアドバイスをくださった。「スパイシーアンド、ノットスパイシー」と答えれば、ややあって運ばれてきた2種類のスープ。
あとはセルフで好みの食材を好きなだけ鍋にブチ込むスタイルのようだ。
多種多様のキノコや菜っ葉、肉ダンゴにチクワ、カニカマ、魚肉ソーセージ。
乾麺、フルーツ、根菜、シーフード……ん? このゴロッとした味付け肉も鍋に入れるのかな?
火鍋屋名物・作れるタレコーナーも健在。よく分からないので無難にポン酢風のタレを調合しました。
・我驚愕! 超中国的発想!
とまぁ、ここまでは中国風火鍋店のスタンダードなスタイル。
問題はここからだ。なぜ私はこのクソ暑い中、シンガポール名物でもない中国風火鍋を注文したのか?
その答えが…………これだ!!!!
肉のドレスをまとったリカちゃん風の人形ッ!!!!!!!
シュール……あまりにもシュールかつ無意味! かつて世界的シンガーのレディー・ガガは『生肉ドレス』を着用したことで話題になったが、このリカちゃん人形風の彼女はあくまでも “皿” としてその役目を果たしているのである。
おそるおそる肉をめくってみると……
ふおおおおぉぉ…………ボウルのようなものに人形の胴体がくっついた特別仕様!! この “皿としての人形” は、おそらく中国のどこかの工場で密かに製造されているのだろう。なんだか1つ欲しくなってきちゃったな!
・我感謝! 絶対栄養満点!
で……問題の火鍋はといえば、ごく普通にウマイ。スパイシースープは想像したより辛めで、かなり本格的な中国の味がする。火鍋好きな人にとって、このエリアはパラダイスといえるだろう。
そして何より、野菜が好きなだけ食べられることが非常にありがたい。ここシンガポールは外食費が高く、貧乏旅行者の私は日々ラーメンか饅頭で飢えをしのいでいたのだ。
「この旅最大の食物繊維チャンス到来」とばかりに野菜を貪り食う私。こんなことなら朝食抜いて来ればよかった。
ちなみに……食事中ずっと「これ何?」と思っていた鍋の右側スペース。実は焼き肉用の鉄板だったらしく、ゴロッとした味付け肉はこちらで焼けばよかったようだ。火鍋と焼き肉どっちも食べ放題ってスゴイな。
気になるこの日の会計は36.3SGD(約3526円)。食べ放題の価格自体は確かに20.8SGDだったものの、そこに “鍋とスープ代” として8SGD、さらにはチャージ料金が加算されているらしい。期待したよりは高くついたが、それでもシンガポールでこの金額は全然許容範囲内である。中国料理は世界中どこでも貧乏旅人の味方なのだ。
なお「人形に肉を巻いて、それに何の意味が?」とか言う奴、もしいたとしたらマジで素人! ウマい・ウマくないの問題じゃないんだ。こんなもん誰だって絶対に写真を撮りたいし、SNSに載せたいに決まっているじゃあないか。
カワイくて、おいしくて、SNS映えする食べ物…………「パンケーキ」や「タピオカ」程度しか思いつかぬ我々凡人と比べて、やはり中国人のセンスは炸裂していた。この発想力を見習うことができれば、もしかすると日本の景気も良くなるかもしれない。
肉巻き人形の提供期間は不明だが、シンガポールへ来たらぜひ火鍋ストリートへ足をのばしてみてくれよな!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.