「 データマッチング の過渡期、技術の見極めを」:英ハースト フェイ・ターナー氏、ライアン・バックリー氏

DIGIDAY

GoogleのChromeブラウザでのサードパーティCookieサポート終了が近づいてきている。しかし、パブリッシャーと広告主双方のニーズを満たす単一の代替ソリューションはまだ現われそうにない。メディア企業がテストしているデータ収集方法がそれぞれ異なり、業界標準が確立されていないのを見てもそれは明らかだ。

ロンドンに拠点を置く英ハースト(Hearst UK)で多種多様なデータ収集方法のテストを担当しているのは、販売戦略/インサイト部長のフェイ・ターナー氏と、デジタル事業部長のライアン・バックリー氏だ。両氏はDIGIDAYポッドキャストのエピソード(5月17日付)に出演し、サードパーティCookieの代替となるデータ収集ソリューションの数々を試験運用してきた過去数年間の経験を語った。紹介された手法には、5万人のオーディエンスが参加するパネルのほか、データクリーンルームやデータマッチングといった新たな技術が含まれる。

しかし、データクリーンルームをはじめとするサードパーティCookieの代替ソリューション候補はいま、バックリー氏が言うところの「ゴールドラッシュ」状態で、期待された成果が上がらない技術や、人を惑わすような手法も出てきそうだ。

ターナー、バックリー両氏が出演したポッドキャストの概要は以下のとおり。なお、長さと読みやすさを考慮して若干の編集を加えてある。

事業戦略の立案に読者が貢献

ターナー:当社はハースト誌の読者と、ハーストが保有する各種ブランドとのエンゲージメントが高いデジタルユーザーからなるオーディエンスパネルを設置している。メンバーは自発的にパネルに参加して自らの意見を表明し、エディトリアル広告やキャンペーン向けコンテンツ制作に利用できる情報を提供することで、我々のビジネスを支える役割を果たしている。当社のブランドに厚い信頼を寄せ、積極的に関わりながら、ともに歩みたいという意向をもつ人たちで、パネルの参加者はすでに5万人に達した。当社では、保有する21のブランドそれぞれにエンゲージメントの高いオーディエンスが存在し、関連データを収集させてもらっている。オーディエンスは英国社会の幅広い層に属する多様な人々で構成され、さまざまな切り口で分類できる。

我々はこのオーディエンスパネルを通じて収集したデータをもとに、社内の編集者によるコンテンツ作成を支援するほか、パートナーである広告主にも消費者生活の変化に関する興味深い知見を提示し、的確な広告キャンペーンと記事コンテンツを消費者に届ける取り組みに寄与している。オーディエンスパネルの成果は、消費者のオンライン行動データと合わせて活用すれば効果的なツールとなる。また、当社の編集者やハースト研究所(Hearst Institute)の商品テストチーム、当社ブランドの専門家にとっても、オーディエンスパネルのメリットは非常に大きい。

データクリーンルームとデータマッチングの魅力

バックリー:データマッチングはいま、移行期にある。データクリーンルームとデータマッチングの新たなソリューションが次々と開発されており、今後が大いに期待できる。ユーザーのプライバシーを保護しながら取得したオンライン行動データにより、クライアントと強固な関係を築くきっかけが生まれるからだ。たとえばエンターテインメント業界のクライアントの場合、消費者がどんなテレビ放送サービスを購入しているか、予算はどの程度かなど、エンターテインメント関連商品やサービスの購入傾向を把握できる。ただし、不足している情報もあり、現時点では、消費者が選ぶライフスタイルはどんなものか? 企業がオーディエンスと接点を持つにはどうすればよいか? 自社製品のユーザーと一般消費者へのリーチを拡大する方法は? といった疑問の答えはまだ得られない。そこで注目されるのが、最近台頭してきたデータクリーンルームの技術だ。

データエンリッチメントには、求める情報と入手可能な情報のギャップを埋める可能性がある。我々にとって自社のオーディエンスに対する理解を深める手助けになるばかりでなく、クライアントにとっても、ターゲットとする消費者のライフスタイルにもとづき訴求する方法を見いだすことにつながる。

しかし、データクリーンルーム技術に対する警戒感は消えない

バックリー:たしかに、いま注目を集めているデータクリーンルームの先端技術は、企業がユーザーのエンゲージメントを向上させ、知見を蓄積するための強力なツールとなりうるだろう。しかし、分野によっては不適切な使われ方をされる恐れもないわけではない。だから、ユーザーのプライバシー保護が担保されるよう、当社の法務部も熱心に取り組んでいる。

しかし、先端技術の台頭にはマイナス面もあると思う。ソリューションが乱立状態で、新たな「データラッシュ」が起きている。つまり、事業者がこぞって自社独自のデータベースを構築しようとしているのだ。その流れで、(ヨーロッパではとくに顕著だが)パブリッシャー各社も自前のデータベース拡大の必要性を認識するようになった。これについては課題もある。メールアドレス収集戦略はパブリッシャーにより異なるが、数年前から導入が始まった比較的新しいアプローチで、いま注目を浴びている。というわけで、パブリッシャーはデータベース拡大に向けて動いている。

いま業界でもっとも一般的な戦略は「データウォール」の活用だ。パブリッシャーのウェブサイトを訪問した読者は誰でも、一定のコンテンツを無料で閲覧できるが、全文・全記事の閲覧が可能な会員になるには、メールアドレスをはじめとする個人情報を提供して登録する必要がある。これがデータウォールだ。そこで、想像してみてほしい。すべてのパブリッシャーがEU一般データ保護規則(GDP)を遵守すべく、同意管理プラットフォーム(CMP)により読者の同意を取得する仕組みを確立したとしよう。すると、読者にとっては突然、無料で読める記事の本数に制限がかかるようになる。

この状況は、現在、無料アクセスが当たり前のインターネットが、大きな変化を遂げる可能性を示唆している。データ収集に関して、パブリッシャー間ではすでにある程度の協力関係が存在しているが、今後は、このサプライチェーンにかかわる広告主や代理店、パートナー企業など、業界全体の協力が必要になると思う。なぜなら、ユーザー体験を優先する方針を確立するなら、業界として歩調を合わせ、データ収集と活用に取り組む必要があるからだ。

[原文:Inside Hearst UK’s multi-pronged approach to third-party cookie replacements

(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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