パブマティックCEO、 アドテク 業界の変遷と今後を語る:「混乱からの生き延び方ではなく、その後のチャンスを考える」

DIGIDAY

アドテク企業のCEOを務めるのは、平常時でさえ難しい仕事だ。ましてや今のような激動の時期においては、極めて困難な仕事となっている。過熱していたアドテク業界の評価は低下傾向にある。かつて支配的な投資家だったプライベートエクイティのバイヤーたちは、戦略的なバイヤーに代わられている。仲介者排除の脅威はかつてないほど大きい。また経済の不安定な状態は言うまでもない。

もちろんこれは悲惨な状況だが、一巻の終わりというわけではない。結局のところ、経済活動は、経済が縮小しているからと言っても止まることはない。遅くなるだけだ。そしてそのような時期においては、弱点を改めて見極め、拡張計画を再検討する機会がある、とパブマティック(PubMatic)のCEOであるラジーブ・ゴール氏は語る。このようなコメントがよく聞かれるのには理由がある。CEOたちにとっては、これが真実であることが何度も証明されているからだ。広告市場には、たとえ下落していても、常に良いチャンスが存在する。

米DIGIDAYはゴール氏に取材し、彼の年内の見通し、仲介業者の排除、ポストプライバシーの世界におけるアドテクなどについて詳しく尋ねた。以下の会話は、わかりやすくするために編集および要約されている。

今年の不況を広告市場がどう乗り切るか

ゴール氏は一定の客観的な視点を保とうとしている。確かに、経済は停滞しているが、その低迷は主に、最終的には解決されるはずの供給問題(サプライチェーン問題)によって引き起こされている。さらに、大手広告主という点では、まだ同氏は懸念していない。コカコーラ(Coca-Cola)、ロレアル(L’Oreal)、ユニリーバ(Unilever)などの最新の収益報告をざっと見てみると、その理由がわかる。

これらの広告主たちは、今年は収益の大幅な増加を見込んでいる。通常、広告には新たに膨らんだ収入からも比較的一定の割合で資金が流れてくるため、広告主の収益増の結果として資金が流れる傾向がある。確かに、高インフレの中での成長は、低インフレの時ほど強力なものではないが、それでも2021年を通じて支出が膨張していたことと比べれば、どんな尺度から見ても成長していることは確かだ。

「私たちは機敏に思考と判断をする。このような状況における運営も複数のやり方で機敏に対処している」と同氏は語る。最初のポイントは、同社が「高い収益性」を持っているという事実だ。そのため、混乱の中で何とか生き延びようとするのではなく、経済が改善したときにどのような機会があるのかを長期的に考えることができる。2つ目のポイントは、同社のインフラストラクチャの状態に関するものだ。「ハードウェアからソフトウェア、ネットワークに至るまでのインフラストラクチャを所有している。これにより、運用方法や顧客のために、革新と効率化を実現できる」と同氏は言う。

巨額の現金保有が可能にする、他社買収の可能性

同氏は(買収のために)資金を使うことに抵抗はないが、そのこと自体が目的化してしまうような取引をすることはないという。「何を手に入れるかに関しては高い水準がある。なぜなら、私たちには強力なオーガニックなイノベーションがあるからだ」と彼は説明した。「オープンラップ(OpenWrap:入札前ラッパー)、アイデンティティ・ハブ(Identity Hub:ID管理ツール)、コネクテッドTV製品など、社内で革新を起こす能力を長年にわたって実証してきた」。

この考えに反論するのは難しい。すべての買収は複雑だ。新しいテクノロジーとサービスをビジネスに取り入れることは、予期せぬ課題を生み出すことになる。また、製品の開発によってエンジニアが予想していなかった問題が発生する可能性があるのと同様に、買収後にビジネスを立ち上げて稼働させるには、予想よりも長い時間がかかることがある。そうは言っても、同氏は絶対に(他社の買収は)ないとは言えないようだ。

「私たちはM&Aの機会を常に検討・評価している」と彼は続けた。「将来的にはそのような機会が増えるのではないかと思う」。

これらの機会はおそらく近いうちに発生する可能性が高い。民間の資金調達市場は枯渇しつつあり、必ずしも利益を上げていない企業の評価額は下がっている。もし機会があれば、パブマティックは素早く動くことができる。同社は負債なしで1億7500万ドル(約240億円)の現金を抱えている。

SSPの役割と、それらが仲介者排除に対応できるほど成熟しているか

当然ながら、ゴール氏は強気だ。そして、それには正当な理由がある。SSPが特化する市場の部分は、これまで以上に重要になっている。より多くの広告主がプログラマティック広告のアクティベーションを販売側に移しているのは、そこに持続可能なデータがあるからだ。これにより、パブリッシャーが広告主にデータを販売して規模を拡大したり、広告主がプライバシーを保護した方法ですべてのデータにアクセスできるように支援する機会がある限り、市場の両側に事業機会が生まれる。多くの点で、これはヘッダー入札の前の1対1のパブリッシャーSSP関係への回帰となっている。

「ソフトウェアを使って顧客のために価値を創造しているが、ただテクノロジーという点だけでなく、我々のビジネスモデルのどこでイノベーションを起こしていくか、という点でもこの業界の変化に私たちは参加している」とゴール氏は語る。

これは同社が最近グループM(GroupM)にSSPテクノロジーをライセンスしたこととも如実に繋がっている。広告代理店(そしてある程度は広告主も)は、いまやパブリッシャーと同じくらい彼らのビジネスの一部になっている。とはいえ、パブマティックがその技術をメディア・エージェンシー・グループどこにでもライセンスし始めることを期待してはいけない。

「これらの企業はまだ、デジタル環境の成長を促す方法を模索している最中だ」と同氏は語る。「専門分野が何であるかによって、グループごとに答えが異なるだろう」。

Netflixに広告が載ることが、アドテクにとって何を意味するか

簡単に言えば、もっとお金が入ってくること。少なくともそれが希望だ。リニアTVからCTVへの広告費の大規模な移行はしばらくの間遅れている。広告主がそこでお金を使いたくないからではない。それどころか、彼らはお金を使いたいと思っている。しかし、フラウドや未公表の転売、断片化や価格の高騰まで、問題が無数にある。究極的には、広告主は質の高いCTVの在庫を購入できる場所を増やしたいと考えている。そこでネットフリックスの登場となる。彼らが参入することでこの業界全ての底上げをする可能性がある、と同氏は言う。

言い換えれば、Netflixが広告を適切に提供し、それを大規模に促進するために必要なインフラを複数の市場にわたって確立できれば、CTVに広告費が流れ込むための道筋を生み出す可能性がある。とはいえ、これらすべてを実行するのは、言うは易く行うは難しだ。

「Netflixのような多くのメディア企業がよりプログラマティックなモデルに移行すれば、それは市場の両側により多くの価値を生み出すだろう」とゴール氏は言う。「買い手はそれらの環境でより関連性の高い広告体験を提供することで投資収益率を高め、パブリッシャーは収入を増やすことができる」。

[原文:‘A shift we’re participating in’: Reflections on the quarter with PubMatic CEO Rajeev Goel

Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)

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