TP-Linkから、Wi-Fi 6対応のメッシュシステムの新製品「Deco X50」が登場した。2台セットで実売2万3500円前後とリーズナブルな価格ながら、ゲーミングPCなどでも採用例が増えている160MHz幅2402Mbps対応を実現した製品だ。
メッシュならではの電波の到達範囲の広さは当然として、低価格帯メッシュ製品では今まであまりなかった最大2402Mbpsの通信を実現する注目の製品だ。その実力を検証してみた。
Wi-Fi接続前提の家電やIoTデバイスが増えて……
エアコンも、照明も、もちろんテレビやゲーム機も。家中の機器がWi-Fiで接続される時代。どの部屋でも「電波が届く」ことが、とても重要になってきた。
今までは、PCを使う部屋を中心にWi-Fiの性能や配置を考えればよかったが、現在では、特にどの部屋ということではなく、家中のあらゆる場所、それこそ玄関や目立たない廊下の端のコンセントであっても、Wi-Fiにつながる機器が存在する時代になってきた。
例えば、置き配対策などに活用できる監視用のWi-Fiカメラを玄関先に設置したり、TP-Linkから発売されている好きなサイズに切って使えるテープ型のWi-Fi接続のLED照明などを利用して好きな色の照明を好きな場所へ設置できたりと、今まであまり身近でなかった機器が登場しつつある。
こうした便利そうな機器が登場しても、Wi-Fiが届かない場所があるなら、そうした場所での利用は、あきらめざるを得ないわけだ。
「電波が届く」+アルファの最新メッシュの魅力
こうした状況を踏まえてか、Wi-Fi製品のトレンドも、従来の単体高性能モデル路線から、複数機器を分散して家庭内に配置するメッシュ路線へと切り替わりつつある。
メッシュのメリットは、複数台のアクセスポイントによって、より広い範囲を通信エリアとしてカバーできる点にある。
単体のルーターでは、ビームフォーミングなどの技術により、特定の狙った端末へと電波を集中させることで、遠い場所でも高速な通信を実現可能にするモデルが多かった。
ただ、現在は前述したように、家中のあらゆる場所にWi-Fi機器が存在する時代だ。こうした環境では、複数のアクセスポイントで広くエリアをカバーしつつ、それぞれのアクセスポイントが接続機器を分担して管理・調整できる方が望ましい。
実際、電波の届く範囲が単体とメッシュでどれくらい違いがあるのかを計測したのが以下のヒートマップ。木造3階建ての住宅、1台の場合は1階に、2台の場合は1階と3階の階段上にアクセスポイントを設置していて、赤い部分ほど受信感度が高く、青くなるに従って感度が下がっていることを示している。
結果を見れば一目瞭然だ。1階に大きな違いはないが、1台の環境では2階の画像下側、3階の大半が水色になっており、かなり受信感度が落ちていることが分かる。
これに対して、2台構成のメッシュの場合、2階も3階も赤いエリアがかなり増えていて、最低でも黄色であることが分かる。遠い場所や、壁で区切られた環境でも、メッシュなら電波が十分に届くことが分かるだろう。
もちろん、メッシュにも、中継のロスによる速度低下や、移動しながらの利用時の接続先の切り替えのラグなどに課題はある。しかし、こうした課題も次第に改善されつつある。
特に、今回取り上げるTP-Linkの「Deco X50」は、160MHz幅での通信への対応で最大速度は2402Mbpsに達するほか、AIで行動パターンを学習することで通信を最適化する機能も搭載されている。2万円のリーズナブルなメッシュシステムであっても、広さと速さ、さらに安心や利便性の高さといった特徴を兼ね備えた製品が手に入るようになったわけだ。
手薄だった「2万円台で160MHz幅2402Mbps対応」に登場した最新鋭機
それでは、Deco X50の実機を見ていこう。
スペックとしては、Wi-Fi 6に対応したデュアルバンドのメッシュシステムとなる。2台セットで実売価格は2万3500円で、メッシュシステムとしてはリーズナブルな価格設定と言える。
Deco X50 | |
価格 | 2万3500円 |
CPU | デュアルコア、1GHz |
メモリ | ― |
Wi-Fiチップ(5GHz) | ― |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
160MHz対応 | 〇 |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 2402Mbps |
最大速度(5GHz-2) | – |
チャネル(2.4GHz) | ※1 |
チャネル(5GHz-1) | ※1 |
チャネル(5GHz-2) | ― |
新電波法(144ch) | ※1 |
ストリーム数(2.4GHz) | 2 |
ストリーム数(5GHz-1) | 2 |
ストリーム数(5GHz-2) | ― |
アンテナ | 内蔵 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | 〇 |
IPv6 | 〇 |
DS-Lite | ※2 |
MAP-E | ― |
WAN/LAN | 1Gbps×3(自動認識) |
LAG | × |
USB | ― |
セキュリティ | HomeShield |
― | |
動作モード | RT/BR |
ファームウェア自動更新 | 〇 |
本体サイズ(幅×奥行×高さ) | 110×110×114mm |
※1 システムによる自動設定のため利用状況は不明
※2 同社による動作検証が行われていないため保証外
特筆すべきは、5GHz帯で最大2402Mbpsという通信速度だ。160MHz幅通信への対応を実現しており、PCなどで採用例が多いIntel 210/200系の内蔵無線LAN搭載機をフルスピードの2402Mbpsでリンクさせることができる。
2万円台で購入できるメッシュシステムは、他社を含めて数モデル存在するが、エントリーモデルに位置付けられる製品の多くは1201Mbps対応となっており、160MHz幅2402Mbpsに対応する製品はほとんどない。
このため、今までゲーミングPCなどを2402Mbpsでリンクさせたい場合、ゲーミングルーターなどメッシュ以外の選択肢を探すか、価格帯をワンランク上げて3万円以上の4804Mbps対応製品を選ぶ必要があった。
2万円台のメッシュで、160MHz幅の最大2402Mbps対応という、今まで手薄だったラインを狙って商品をいち早く投入した点は、かなり「目の付け所」がいい。
デザインも秀逸で、個性派が目立つ海外メーカー製ルーターの中では、奇をてらったところのない円筒形かつホワイトのシンプルなデザインで、それこそ家中のどこに置いておいても違和感がない。
実用性も高く、本体背面にはLANポートが3つ搭載されている。例えば、リビングに設置した場合を想定すると、テレビ、レコーダー、ゲーム機の3台を有線でつなぐことができる。接続可能な有線ポートが多いことで、有線機器を無線化する際の幅も広がることだろう。
なお、TP-LinkのDecoシリーズには、以下のように2万円前後のモデルが複数存在する。エントリーの「Deco X20」はスマホ中心の環境で安価にメッシュを構築したい場合、今回のDeco X50は2402Mbpsのフルスピードリンクと3ポートの有線を活用したい場合、上位の「Deco X60」は4ストリームの豊富な帯域を生かし、オフィスなどでより多くの端末を収容したい場合に適したモデルとなっている。
今回のDeco X50は、中間モデルと言いつつ、スペックの面ではなかなか優秀なので、迷ったらこれを選んでおけば失敗しないだろう。
Deco X50 V1 | Deco X60 V3※ | Deco X20 V4※ | |
実売価格 | 2万3500円 | 2万7200円 | 1万7870円 |
ノード数 | 2パック | 2パック | 2パック |
CPU | デュアルコア、1GHz | デュアルコア、1GHz | デュアルコア、1GHz |
最大速度(5GHz+2.4GHz) | 2402+574Mbps | 2402+574Mbps | 1201+574Mbps |
ストリーム数(5GHz+2.4GHz) | 2+2 | 4+2 | 2+2 |
WAN/LAN | 1Gbps×3(自動判別) | 1Gbps×2(自動判別) | 1Gbps×2(自動判別) |
USBポート | ― | ― | ― |
VPNサーバー | ― | ― | ― |
高度なセキュリティ機能 | 〇 | 〇 | 〇 |
※Deco X60 V3、Deco X20 V4は最新バージョンの仕様を掲載
2402Mbpsリンクは効果大もAIの学習期間は必要
気になるパフォーマンスも優秀だ。一般的にデュアルバンドのメッシュは速度が上がりにくい傾向にあるが、本製品は160MHz幅2402Mbps対応のおかげで、比較的優秀なテスト結果が得られた。
以下が木造3階建ての筆者宅でiPerf3による速度を測定した結果だ。1階に1台のみ設置した場合と、1階と3階階段上の2か所に設置した場合で速度を計測している。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
1台 | 上り | 915 | 81.3 | 152 | 41.9 |
下り | 913 | 163 | 474 | 94.2 | |
2台 | 上り | 930 | 203 | 260 | 242 |
下り | 916 | 284 | 342 | 345 |
※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、ストレージ:1TB NVMe SSD、LAN:Realtekオンボード2.5GBASE-T、OS:Windows 11 Pro
※クライアント CPU:Core i7 11800H、メモリ:32GB、ストレージ:1TB SSD、LAN:Intel AX210、OS:Windows 11 Pro
1階は、2402Mbpsリンクのおかげで有線LANの上限である1Gbpsに張り付いてしまっている。「有線が2.5Gbpsなら……」と惜しまれるところだが、2402Mbps対応の恩恵で中距離から長距離での速度も一般的なデュアルバンド対応メッシュよりも底上げされている印象だ。
2台設置した場合は2階、3階とどこで計測しても、300Mbps近い速度が実現できている。
ちなみに1台構成の結果では、2階の速度が低くなっているが、これは2.4GHzでリンクされてしまったためだ。
Decoシリーズでは、2.4GHz帯と5GHz帯のSSIDが共通になっており、どちらにつながるかはアクセスポイント任せとなっている。2.4GHzでは上限が574Mbpsとなる上、周囲からの干渉も大きいので、速度が抑えられてしまった格好だ。
これは推測だが、設置から期間があまり経過していないため、おそらくAIによる学習が不足しているせいではないかと考えられる。
今回取り上げたDeco X50はもちろんのこと、Deco X20、Deco X60でも最新バージョンの各モデルではAIに対応しており、使用状況に応じて以下のような状況を学習し、自動的に最適な設定で利用できるように調整する機能が搭載されている。
- どの帯域をバックホールとして使うか
- バックホールに使う帯域でどのチャネルを選ぶか
- どのような形態(トポロジー)でノード間を接続するか
- クライアントをどの帯域に接続させるか
- クライアントをどのタイミングで別のノードにつなぎ換えるか
筆者宅では、2階でも5GHz帯を使った方が速度を出しやすいのだが、おそらく設置直後のため壁などの影響を考慮して2.4GHzが自動選択されたと考えられる。今後、使い込んでいけば、5GHz帯の方が有利だということが学習され、状況が変化していくことが考えられる。
こうした点は、Deco X50を利用するメリットの1つでもある。通常のメッシュでは、こうした帯域の使い分けなどが、メーカーの経験などによってプリセットされた値となっているため、日本の住宅環境に必ずしも会っているとは言えなかったり、環境による差が考慮されたりすることがなかった。
しかし、本製品であれば、ある程度使い込むことで、AIが状況を学習して環境に最適化してくれる。面倒な手間なく、最適な設定で使えるのは大きなメリットだろう。
「簡単」「安心」もDecoシリーズのメリット
このように、Deco X50に代表されるTP-Linkのメッシュ製品は、同じメッシュでも一味違った特徴を持った製品と言える。
これは、設定面やセキュリティ面にも表れている。スマートフォン向けの「Deco」アプリを使った初期設定は、画面上で接続方法を参照しながら進めるだけと丁寧な作りになっており、紙の取扱説明書いらずの簡単さを備えている。リモート管理機能も備え、オフィスのWi-Fiとして使ったときの管理の容易さも備えている。
また、一部機能は有料(1か月無料体験可能)になるものの「HomeShield」と呼ばれるセキュリティ機能も搭載されており、無料でもネットワーク内のセキュリティリスクの自動診断機能、コンテンツフィルタリング、子供の利用制限、端末ごとの優先制御などの機能を利用できる(ルーターモードで動作させた場合のみ)。
「安い」「速い」だけでなく、「簡単」「安心」も備えた製品と言えるだろう。
激戦区2万円台メッシュの注目株
以上、TP-Link Deco X50を中心に、同社のメッシュシステムの実力を検証してみた。近距離を中心に上位モデルをも上回る速度を実現できる上、あらゆる場所に電波が届く環境を実現でき、しかも使い込むほどに自分の環境に最適化される製品と言えるだろう。
個人的には、IPv4 over IPv6に対応していない点は残念だ。一応、DS-Liteは設定可能だが、同社による動作検証は行われておらず、国内のIPoE IPv6接続環境での動作保証外となる。また、MAP-Eにはもともと対応していない。アクセスポイントモードで使うことも可能だが、せっかくのセキュリティ機能を活かせないので、現状はDHCPやPPPoE方式の接続環境での利用を推奨する。
これ以外は、2万円台とは思えない性能と機能を備えており、完成度は高い製品と言える。メッシュの導入を検討している場合は、第一候補として考えたい製品だ。
(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)