オーディオブック制作ならびに配信サービス「audiobook.jp」を運営するオトバンクは6月9日、関西福祉科学大学とベルピアノ病院とともに行った共同研究について公表。65歳以上の要支援高齢者を対象に行なった研究で、オーディオブックを聴きながら運動を行うデュアルタスクにおいて、標準的な認知トレーニングとして行われる計算課題と運動のデュアルタスクと同等の脳血流活性作用が見られることを確認したと発表した。研究についてまとめた特設サイトを公開している。この研究は、すでに日本早期認知症学会で発表されたほか、保健医療学雑誌での論文掲載、「第21回日本早期認知症学会」のシンポジウムでも取り上げられたという。
これは、ベルピアノ病院通所リハビリテーションを利用している65歳以上の要支援高齢者55名(男性22名、女性33名)を対象に、認知課題なし(運動のみ)、計算課題をしながらの運動、オーディオブックを聴きながらの運動により、前頭葉ワーキングメモリ領域の脳血流反応を調べるというもの。運動は自転車エルゴメーターを使用し、30%と50%の運動強度を設定。実験中は、視覚的な情報を遮断するためにアイマスクを装着。なお、オーディオブックは聴き流しの予防として、聴いた後に内容を想起するということを実施した。
この3群の脳血流反応を比較した結果、オーディオブックと計算課題を活用したデュアルタスクに、同等の脳血流反応が認められたという。これにより、オーディオブックによるデュアルタスクの有効性が考えられるという。
同日に行われた記者会見で、この研究に携わった関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科の重森健太教授は、近年における認知症予防のトレーニングとして、運動と認知課題を掛け合わせるデュアルタスクの要素を取り入れているのが主流と説明。その一方で、認知課題に難しさがないと前頭葉が活性化しないため、“慣れ”があると効果が薄くなるという。そして一般的な計算課題では、一定期間で慣れが発生してしまううえ、問題制作の手間やバリエーションにも限りがあるという、現場での課題があると指摘する。
重森氏は、オーディオブックに着目した点について、従来本を読む場合には注意力が必要と語る。オーディオブックについても一定のバリエーションがすでにあるうえ、聞き流しにならないような、自身の興味がある作品であれば注意力を持って聴ける。そして、飽きが少なく楽しみながら長く続けられるものとして、認知症予防のトレーニングにおける新たなツールとして期待しているという。あわせて、高齢者が取り組んでいるウォーキングや踏み台昇降といった運動に、オーディオブックを聴くということを加えるのは日常生活にも落とし込みやすいと付け加えた。
オトバンク 代表取締役会長の上田渉氏は、オーディオブック市場が年々拡大し普及が加速しているなか、これまでビジネスパーソンがメインとなっていたユーザー層から、近年ではシニア層にも広がっていると説明。“スマートシニア元年”と呼ばれるような、シニア層におけるスマートフォンの普及や活用が後押ししている側面もあるという。利用者の声としても、緑内障の影響などといった視力の低下で本が読めなくなってオーディオブックを聴くようになったほか、分厚い本では抵抗があるものの、オーディオブックでは通勤やウォーキングで聴けるなどなどのメリットを挙げる声があったという。
上田氏は、今後シニア層も含めたオーディオブック普及のアプローチを続けるとともに、音声を活用した社会課題の解決に取り組んでいくとしている。